55. 平和な1日
本日は多忙にしておりまして、申し訳ありませんが今回投稿分は色々と適当です。
誤字脱字が多かったり、文章的に変な部分が多いかもしれません。ごめんなさい。
誤字報告機能より指摘頂けましたら、深夜帰宅後か翌早朝に修正反映します。
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エルダード王国軍を殲滅した日から3日が経過した。
今日は『夏月19日』。早いもので、そろそろ夏も半分が過ぎようとしている。
―――というか、各季節が40日しか無いので、実際に周期が早いったらない。ユリの気分的にはまだまだ『夏になったばかり』という印象なのだが。
「おはようございます、姐様」
朝起きて朝食だけを済ませた後に、いつも通り執務室に向かうと。
いま『百合帝国』の中で一番忙しいと思われる少女が、そこに待っていた。
「メテオラじゃないの。もしかして今日はあなたが当番なの?」
「はい、姐様。とうとう私が『寵愛当番』の日がやってきまして、感無量です」
そう告げながら、メテオラは嬉しそうに目を細めてみせる。
メテオラは新都市の建造のために、最も忙しなく活動している建設部隊『桔梗』の隊長を務めている子だ。
もちろん部隊の中でも隊長のメテオラが最も多忙だろうから……。こうしてこの場に居てくれることが、ユリには何だか申し訳無い気持ちになった。
「メテオラ。夜の当番については……私もあなたと一緒に過ごせる夜を楽しみにしていたから、なんとか時間の都合を付けてくれると嬉しいけれど。でも、せめて日中の私の『護衛』については、断ってくれても構わないのよ?」
いつの間にか『当番』の子が1日護衛をするのが当たり前になっているけれど。そもそもユリは、別に護衛を必要とするほど弱いわけでもない。
できれば多忙なメテオラには、私の護衛をするぐらいならば、代わりに1日休みをとってゆっくり過ごして欲しいという気持ちの方が強かった。
「お気遣いありがとうございます、姐様。確かに私は忙しい身ではありますが……。護衛として1日姐様の傍に居られる役得は、本日の『寵愛当番』である私だけの権利。それを手放すなんて、絶対に嫌なのです」
「そう。あなたの気持ちは嬉しいけれど……無理はしないで頂戴ね」
「大丈夫です。それに実は『新都市』の建造はもうほぼ完了しておりまして、後は建物の内装作業を残すのみとなっています。まあ、その建物の数が多いので日数はまだ掛かるわけですけれど……。少なくとも、私が建造の陣頭指揮を取らなければならない段階はもう終わりましたので、今は結構時間の余裕もあるんです。だから昨日もたっぷり寝ましたので、元気いっぱいです」
「そうなの? それなら良かったわ。建造頑張ってくれたのね、ありがとう」
賞賛の言葉を掛けて、ユリはメテオラの頭を優しく撫でる。
メテオラを始めとした『桔梗』の子達は種族が『地底種』なので、他の部隊の子達に較べると身長がやや低めであることが多い。
そのせいか、どうにも彼女達が傍に居ると、つい頭を撫でたくなってしまう。
「あはっ。もっと撫でて下さい」
「……あんまりやると、髪型がぐしゃぐしゃになるわよ?」
「はい、是非ぐしゃぐしゃにして下さい。姐様にして頂けるなら本望です」
「そう」
本人が良いと言うので、遠慮無くわしゃわしゃとメテオラの頭を強く撫でる。
毛量の多いメテオラの髪が乱れに乱れて、何だか奇妙な見た目になった。
「えへへ……。ありがとうございました、姐様」
「その髪じゃ外に出せないわね。綺麗にしてあげるから、こっちへ来なさい」
執務机の椅子に腰掛けた後に、ユリが自分の膝をポンポンと叩くと。
その意図を察したメテオラがすぐにやってきて、ユリの膝の上にちょこんと腰を下ろす。予想はしていたけれど、身長が低い分だけ体重も軽いようだ。
「お客さん。今日はどうしますかー?」
「姐様好みの髪型にして下さい!」
「はーい」
自分が普段使っている利久櫛を〈インベントリ〉から取り出し、メテオラの髪をゆっくりと優しく梳る。
……思いのほか引っかかる部分が多くて、髪を梳くだけでも結構苦労した。
普段から髪を全く梳いていないのだろうか。それとも『地底種』の種族が、やや硬めの毛質を持っているのだろうか。
その辺りのことは判らないけれど。根気よく丁寧にやれば、なんとかなる程度ではあったので、時間を掛けてメテオラの髪を綺麗に整えていく。
幸いと言うべきか、特に今日急いで片付けるべき執務仕事は無さそうだ。
このままメテオラの髪を梳きながら、まったり午前中を過ごすのも良いだろう。
「平和ねえ……」
手だけはゆっくり動かしながら、誰にともなくユリは静かにそうつぶやく。
3日前に大量虐殺を行ったばかりの人間が、言う台詞でも無いかもしれないが。
「あ、そうだ。姐様にひとつお願いがあるのですが」
「あら、何かしら? 遠慮無く何でも言ってくれて良いのよ」
「先程も申し上げましたが、新都市の建設作業は概ね完了しておりまして。残るは西区・東区・北区の建物の内装作業のみとなっております。つまり中央区と南区に限れば、もう人は住める状態なんです。
そこで宜しければ、試験的にまず数十人程度を移住させてみたいのです。そして実際に住んでみた感想のようなものを、数日後にでも聞いてみたいのですが」
「なるほど。確かに実際に住んで貰った上での生の声、というのは大切だものね」
作り手側が大事にしたいこの辺の配慮は、もともと造園会社に勤務していたユリにとっても、よく理解できるものだ。
「人選は私に任せて貰っても良いのね?」
「はい。但し、当たり前ですが新都市にはお店も何もまだありませんので、食料は充分な量を持ち込んで頂いた方が良いと思います。―――もっとも、新都市とニルデアの間は4kmしか離れていませんし、既に今月の『駆逐』は完了していますから、魔物に遭遇する危険もありません。歩く気さえあれば、ニルデアまで買い物に行くことも可能ではあります」
「なるほどね」
4kmという距離は、普段ニルデアの都市から一歩も出ない人達にはともかく、農民のように普段から結構歩いている人達から見れば、大した距離ではない。
(……ああ。というか、試験移住させるのは農民の人達で良さそうね)
現在ニルデアの都市内で職を持っている人達を、住居だけ新都市に移住させるのでは非効率が過ぎる。それよりは、ニルデアの都市外に畑を持っている人達を移住させるほうが、問題が生じずに済むだろう。
新都市はニルデアの4km北側にある。だから元々ニルデアの北側に畑を持っている人達に新都市の南区へ移住して貰う分には、住居から畑までの距離がそこまで遠くなるわけではない。
少なくとも農民の人達の健脚であれば、通うのにさほど苦労はしない筈だ。
では、南区には農民の人達に移住して貰うとして。
新都市の中央区には―――こちらはルベッタが会頭を務める『ロスティネ商会』の人達に、先行して移住して貰うのが良いだろうか。
新都市には商人に使って貰う為の『店舗』が、既に充分な数用意されている。
ロスティネ商会の人達に先行して新都市へ移住して貰い、予め店舗の営業準備を済ませておいて貰う。そうすればおよそ10日後に、実際にニルデアから市民の移住を始めた際に、ロスティネ商会の人達に新都市で速やかに店舗の営業を開始して貰うことができるだろう。
「はい、可愛くなったわよ」
「ありがとうございます、姐様!」
肩まである髪を、梳ったあと綺麗に編み込んでからメテオラを解放する。
自分の髪にはあまり頓着しないユリだけれど、可愛い子の髪を弄るのは好きだ。
「メテオラ、パルティータとホタルを呼んで頂戴。それから『ロスティネ商会』のルベッタと『トルマーク商会』のアドスにも、手が空き次第領主館まで来て欲しい旨を伝えておいて貰えるかしら」
「承知しました、すぐに連絡致します」
メテオラが執務室を出て行った、その1分後にはもう、パルティータが執務室へ姿を見せていた。
ユリはパルティータに、『撫子』の手でニルデアの北に畑を持っている農民を調べて、新都市への先行移住を打診して欲しい旨を要請する。
数分後にはホタルも執務室へ来てくれたので、彼女には新都市への結界の設置をお願いした。張って貰うのは【障壁結界】と【調温結界】の2つ。前にニムン聖国の首都、聖都ファルラタに張って貰ったものと同じものだ。
周辺の魔物は『駆逐』が完了しているけれど、この世界では魔物は月が変われば復活してしまう。新都市には防壁がないので【障壁結界】は絶対に必須だし、夏場の今は【調温結界】も市民生活の快適さを向上させてくれるだろう。
また、1時間後にはルベッタとアドスの2人が領主館を訪ねてきてくれたので、こちらには新都市への先行移住について説明して協力を仰いだ。もちろん、ユリの要請を断る2人ではない。その場ですぐに快諾して貰うことができた。
彼女達には住居だけでなく、商人向けに用意している『店舗』の評価もして貰うつもりだ。家屋にも店舗にも、商人らしい厳しい目で色々と改善案を挙げてくれることを期待している。
見返りとして、2人には新都市の好きな『店舗』を自分の商会の使用予定店舗として押さえて良い権利を与えた。中央区の中でも特に利便性が高い店舗を他の商人に先立って押さえられるのは、充分に旨味がある話だろう。
また特にルベッタには、可能であれば食料販売店だけでも先行して『仮営業』を始めて貰えるよう頼んでおいた。新都市に1店でも営業している食料店があれば、先行移住する人達もずっと快適に暮らせるだろうから。
―――新都市の建造着手から、今日でちょうど50日目。
ニルデア市民の生活が一変する瞬間が、もうすぐそこにまで来ていた。
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お読み下さりありがとうございました。




