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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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54. 死者の軍勢

 


     [4]



「ユリ姉様、お疲れさまでした」


 王国軍の殲滅を終えると、すぐにラケルが近くへ飛んできて労ってくれた。

 いつの間にかラケルの姿は普通に見えるようになっている。おそらくは意図的に何らかのスキルを行使して『透明化』状態を解除したのだろう。


「ありがとう、ラケル。『竜胆(りんどう)』には連絡しておいてくれた?」

「はい。もう全て終わったので回収可能と、ギルドチャットで言っておきました」


 天空に隕石を召喚して落とす【星堕とし(メテオ・ストライク)】は、隕石が着弾した衝撃波で超広範囲を攻撃する『究極奥義(アルティメット・スキル)』なわけだけれど。この召喚された『隕石』は、着弾の衝撃で幾つかの岩片に破砕しつつも着弾地点の付近に残り続けるため、そこから『隕鉄(メテオライト)』と呼ばれる非常に貴重な鉱石を大量に採掘することができる。

 隕鉄を製錬した地金(インゴット)や、他の金属と混ぜて作った合金は、武具や装飾品の材料として色々と便利に活用できる。備蓄量を多めに確保しておくに越したことは無いので、王国軍の事が片付いたらすぐにでも回収へ向かいたい旨を『竜胆』から事前に告げられていたのだ。

 もうラケルが連絡してくれたようなので、おそらく10分後には『竜胆』の子達が隕鉄を回収しに来ることだろう。


「そういえば、ユリ姉様。敵軍の『馬』を回収する手際も、お見事でした」

「……まあ、あなたには判るわよね」


 ラケルの言葉を受けて、ユリは思わず苦笑する。


 実はユリは、【星堕とし(メテオ・ストライク)】を発動させてから着弾するまでの間の混乱に乗じて、敵の輜重隊を丸ごと【強制集団転移】の魔法で転移させていた。

 転移先は現在建設中の『新都市』の中。もちろん事前に新都市には『百合帝国』の子達を配置させており、転移させた対象は全て余さず『回収』されている筈だ。


「やっぱり馬を殺すのは勿体ないですよね」

「ええ。我が国で活用する方が有益でしょう」


 敵の輜重隊は5千の兵で構成されており、1人の兵が1頭の荷役馬を連れ歩く形で運用されていた。なので馬も兵と同じで5千頭存在する。

 空から隕石を落とす【星堕とし(メテオ・ストライク)】は、攻撃対象を選べない。着弾地点にいれば問答無用で馬も全滅させることになる。

 流石にそれは惜しい気がしたので、隕石着弾までのどさくさに紛れて【強制集団転移】の魔法を行使し、輜重隊を丸ごと攻撃範囲から避難させたのだ。


 なので今回ユリが殺した兵の数は、5千を引いて全部で55816名。

 文句なしの『大量虐殺』を敢行したわけだけれど―――。やはり、ユリの心には葛藤も、反省も、良心の呵責も、何一つ浮かぶことは無かった。

 結局、私は心の随まで『極悪』に染まっているのだろう―――と、最早ユリには乾いた笑いしか出ない。


「馬はともかく、回収した敵兵はどう利用なさるのですか?」

「特に何も考えていないから、これから考えるわ……」


 馬については農民に農耕馬として貸し出すか、家畜として飼育利用するか、あるいはロスティネ商会に預けて駄獣(だじゅう)輓獣(ばんじゅう)として使って貰えば良いと考えていたけれど。兵については、差し当たり利用法として思いつく候補もない。

 とはいえ、絶対的な死の恐怖を味わった経験を持つ兵を従順に従わせることなど造作もない。何らかの夫役を用意して、国の労働力として利用すれば良いだろう。


「それより、ラケル。あなたの『究極奥義(アルティメット・スキル)』は制限時間があるのだから、早めに実行した方が良いのではないかしら?」

「あ……そ、そうですね。すみません、うっかりしていました」


 ユリから指摘されて、ラケルは慌てて地上に向けて『究極奥義』を行使した。


 彼女の『究極奥義』は【死者の軍勢アーミー・オブ・ザ・デッド

 付近で10分以内に死亡した敵を、全員纏めて任意のアンデッドとして蘇生させた上で、永続的に従属させる効果を持つ。

 つまり、つい今しがたユリが殺戮した『55816名』の敵兵全てが、ラケルが利用可能な『素体』となるわけだ。


「ユリ様、死体を何系のアンデッドに『加工』しますか?」

「そうね……とりあえずゾンビ系はやめて頂戴。悪臭にはもううんざりよ」

「承知しました。骨戦士系の場合ですと『スケルトン・ナイト』に、怪物系でしたら『レヴァナント』に、霊体系でしたら『レイス』に加工できるようですが」

「予想はしていたけれど、大した魔物にはならないわね……」


 ラケルが挙げた『加工』の候補を聞き、ユリは苦笑する。

 【死者の軍勢アーミー・オブ・ザ・デッド】で生産されるアンデッドは、素体が持つレベルに『30』を加えた強さの個体になる。

 今回の場合、殆どの敵兵のレベルは『15~30』ぐらいしか無かった。大半が徴兵された農民兵であった事を思えば、レベルが低いのも当然だろう。

 素体のレベルが低いと、そこに『30』を加えても結局大した値にはならない。

 ユリとしては、せめて『吸血鬼(バンパイア)』か『自律鎧霊(リビングアーマー)』系の魔物に加工したかったのだけれど。どうやらこの程度の素体では、加工の候補にさえ挙がらないようだ。


「ふむ……」


 ユリは眼下に広がる、大量殺戮の現場を俯瞰する。


 隕石が着弾した衝撃で大型の陥没地形(クレーター)と化した大地には、隕石の破片と死体の他に、兵達が身に付けていた武器と防具も散乱している。

 敵兵を大量に殺したこと自体には何とも思わなくとも、この場所に敵兵の武具を大量に投棄することには、些かの抵抗感を覚えなくもない。


「敵兵の武器や防具を、この場から除去できるものが良いわね」

「でしたら『スケルトン・ナイト』に加工して宜しいでしょうか? 『レヴァナント』や『レイス』に加工すると、死体だけが消えて装備は残ってしまいますので」

「ええ、そうして頂戴」


 ユリの言葉を受けて、ラケルが『加工』を再開する。

 隕石が作り出した陥没地形(クレーター)の中が、黒とも灰色ともつかない濃厚な瘴気で満たされる。そのまま更に1分ほど経つと瘴気が晴れて、靄の中から鎧と剣を身に付けた骨の戦士『スケルトン・ナイト』が大量に姿を現した。


「あら。武器や鎧は完全に壊れていた筈だけれど、『加工』すると直るのね」

「骨戦士系の魔物にとって、武器や鎧は『装備品』ではなく『身体の一部』という扱いになるようですね」

「なるほど」


 それならば、アンデッド化の際に武具が補修されることにも頷ける。

 55816体ものアンデッドが犇めく陥没地形(クレーター)の中からは、先程まで大量に散乱していた死体や武具が残らず除去されていた。

 どうやら余すところ無く『加工』の材料として利用されたらしい。


「10体ぐらい『スケルトン・ジェネラル』が混じっているわね」

「素体の中にレベルの高い者が何人か混じっていたようですね。合計で80レベルを超えれば『スケルトン・ジェネラル』になりますから」


 骨戦士系の魔物はあまり種類が多くない。レベル40までが『スケルトン・ウォリアー』、レベル41から80までだと『スケルトン・ナイト』、レベル81から110までなら『スケルトン・ジェネラル』になる。

 なので素体自身のレベルが『51』以上あれば、加工によって『30』レベルが加算されて、結果『スケルトン・ジェネラル』になれるわけだ。


「―――聞け、不死なる軍勢よ」


 ラケルがアンデッドの群れに向けて声を張り上げた。


「お前達の主は私だが、私の主は隣にいらっしゃるユリ陛下である。故に、お前達は私の命令にだけでなく、ユリ陛下の命令にも服従しなければならない」


 ラケルがそう命じると、55816体もの完全武装のアンデッドが一斉に跪き、ユリに対する忠誠を示してみせた。

 【死者の軍勢アーミー・オブ・ザ・デッド】で作り出したアンデッドの支配権はスキルの行使者であるラケルのものであり、それを他人に譲ることはできない。

 但し、今ラケルがしたように『ユリにも従え』と命令することは可能だ。


「あなた達には、これから徒歩で故郷の『王国』まで帰って貰うわ。そして故郷の都市や集落の中を巡回して、あなた達以外の『武器を持った者達』と『魔物』を、発見次第殺して回りなさい。また、あなた自身や仲間に対して攻撃を加える相手も全て殺してしまいなさい」


 ユリがそう命じると、アンデッドの大軍が東に向かって進み始める。

 無論、彼らの故郷である『王国』の首都や都市が東にあるからだ。


「ふふ……。敵地に差し向けた大軍が、そのまま強化された『敵』となって戻ってくるのですから。王国の偉い人達は、一体どう思うのでしょうね?」

「あら。レベルを30も上げてあげたのだから、きっと感謝してくれるわよ」

「あはっ、なるほど。違いありませんね」


 ユリの言葉を受けて、ラケルが可笑しそうにくすくすと微笑む。

 確かに、信じて送り出した味方が、悉く敵のアンデッドになって帰って来るというのは―――王国側からすれば『悪夢』以外の何物でも無いだろう。


 とはいえ、骨戦士系のアンデッドはレベルの割に戦闘能力こそ高めだが、代わりに知能面では著しく劣る魔物だ。単純に突っ込むことしか知らないので、王国側が都市の防壁を利用して戦えば、殲滅はさして難しくもない筈だ。

 だからアンデッドを送り込むのは、王国に対する『嫌がらせ』にしかならない。


 今回ラケルに『究極奥義』を使って貰ったのは、どちらかというと死体や武具をこの場から除去する目的が大きい。

 汚い武器や防具を置き去りにされて、自分の領土が穢れるのは嫌なのだ。


「ところで……ユリ姉様。監視している連中は、まだ放置で良いのですよね?」

「ええ。彼らには情報を持ち帰って貰わないと」


 思い出したように訊いてきたラケルの言葉に、ユリは首肯して答えた。


 ラケルの言う通り、今回の王国軍との戦いを、少し離れた場所から『監視』している6名の集団がいる。そのことにはユリもラケルも最初から気付いていた。

 気付いた上で、ユリが放置するようにラケルへ指示していたのだ。


 既に【空間把握】の魔法で情報を抜き取っており、彼らがシュレジア公国の軍部に属する斥候部隊であることは判っている。

 6名のうち半数は魔術師で、どうやら【魔術師の目】という、少し離れた場所を()ることができる魔術を利用して、戦争の『監視』を行っていたらしい。


 なので斥候部隊の人達は、ユリが【星堕とし(メテオ・ストライク)】で敵軍を一撃の下に全滅させた所も、ラケルが【死者の軍勢アーミー・オブ・ザ・デッド】で敵の死体を全てアンデッドに加工した所も、全て余すところ無く確認している筈だ。

 彼らには是非、その情報を無事にシュレジア公国へ持ち帰って貰いたい。


 今回の戦争で、王国には充分なダメージを与えることができた筈だ。王国が今後『百合帝国』に対して、何らかの行動(アクション)を起こす可能性は激減するとみて良いだろう。

 なので今後の敵は王国よりも、むしろ『シュレジア公国』になると考えて良い。

 斥候からの報告を受け、我々が圧倒的な力を持っていると知った時に。あれほど無礼な手紙を寄越した公国の態度がどのように変化するか―――今から楽しみなぐらいだ。


(ま、急に(おもね)り媚びて来たとしても、許すつもりはないけれど)


 ドラポンド公は手紙の中で、ユリが愛する子達を『弱卒』と貶めていた。

 ユリとしてはこれだけで、シュレジア公国を断じて許さない理由として充分だ。


 彼の国には絶対に、然るべき『報い』を与えなければ―――。





 

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お読み下さりありがとうございました。

誤字報告機能での指摘も、いつも本当にありがとうございます。

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