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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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39. 使役獣にしよう

 


     [2]



「ハマル、ちょっと【遠見】をお願いしても良いかしら」

「承知しました」


 ワイバーンの背に乗って空高くに舞い上がったユリは、相乗りしているハマルに【遠見】の魔法を掛けて貰う。ハマルは続けて自分自身にも【遠見】の魔法を掛けたようだ。

 これは光の精霊の力を借りる精霊魔法で、まるで双眼鏡を使用している時のように『遠方の景色を任意に拡大して視界に表示できる』ようになる効果を付与する。

 拡大倍率もある程度自由に調整できるので、使い勝手が良い魔法だ。


「みんな頑張っているわね」


 空から俯瞰するユリには、ニルデアの都市周辺を忙しなく動き回って魔物を狩り尽くしていく『百合帝国』の皆の姿が、【遠見】のお陰ではっきり見て取れた。

 暦が『夏月』に入って魔物が復活したばかりの筈なのに。既にニルデアの都市の周辺5km以内からは、あらゆる魔物の姿が消え失せている。

 それよりも遠くになら、まだ魔物の姿も沢山あるけれど。このペースで皆が狩猟を続けていけば、数日後にはそれらの魔物も全て姿を消すことになるだろう。


「そうですね、皆様とても『駆逐』に励んでおられるご様子。魔物を狩ることで、まだまだ成長できると明らかになったのですから、皆様が精を出す気持ちはとてもよく判ります。『寵愛当番』でなければ私ものめり込んでいたでしょうね」

「あら、別に私は今日の当番を無理強いするつもりは無いのよ?」

「意地悪なことを仰らないで下さいませ。私は今日の当番が来るのを、毎日指折り数えながらお待ち申し上げていたのですから。レベルを上げたい意欲は持っておりますが、それはユリ様に愛して頂きたい欲に較べれば、些細なものです」


 頬を赤らめて、少し恥ずかしそうにハマルがそう口にする。

 そう言われれば、ユリとしても嬉しい気持ちですぐに満たされる。


「愛されているというのは嬉しいものね。こう言うと気を悪くするかもしれないけれど―――『リーンガルド』に居た頃には、私は『百合帝国』の皆をただ一方的に愛しているように思っていた部分も少しあったから。こうして今は、皆が私に愛情を返してくれることが、どんなにも幸せに感じられて堪らないのよ」

「あ、それは……。実は、私達の側でも少し疑問に思っていました。以前の世界(リーンガルド)に居た頃には、あんなにもユリ様が惜しみなく愛情を与えてくれていたのに、何故か私達はそれに応えることができなかった……。まるで何か、ユリ様に向けて愛情を示すことについて『枷』が嵌められていたような……そんな実感さえあります」

「……そう」


 もしかすると『ゲーム』としての制約が、何らかの形で彼女達の心を戒めていたのかもしれない。―――そんな風に、ユリには思えた。

 直感的なものなので、そう思うことに明確な理由があるわけではないけれど。


「掃討者の皆様は、殆ど狩りになっていない様子ですね」

「そうね」


 都市の周囲には『百合帝国』の皆の姿だけでなく、魔物を狩りに来たのだと思われる掃討者の姿もそれなりに多く散見される。

 魔物が復活する日だから、気合を入れて都市の外へ狩りに来たのだろうけれど。『百合帝国』の皆が魔物を狩り尽くしていくスピードに追いつけず、掃討者の人達は全くと言って良いほど狩猟成果を上げられていないように見えた。


「ま、彼らに獲物を譲ってあげる理由は無いわよね」

「そうですね。一度『百合帝国』に剣を向けた以上、掃討者は敵性存在ですから。先方の活動を妨害する理由はあっても、配慮する必要性は皆無でしょう」


 もう3週間以上前の話になるが。『百合帝国』はニルデアの都市を陥とす際に、約1400名の軍属者だけでなく、約200名の掃討者も殺害している。

 これはニルデアの都市で活動する掃討者の中に、都市の防衛戦に参加しようとした者が一定数居たからだ。

 彼らは都市を侵攻する『百合帝国』に剣を向けて―――そして当然ながら傷ひとつ与えられずに、あっさり返り討ちにあった。全員がレベル200の『百合帝国』を相手に戦うには、所詮彼らは雑魚でしか無かったのだ。


 なので掃討者が『百合帝国』に何か被害を与えたわけではないのだけれど。

 とはいえ―――ハマルの言う通り、ユリにとって『掃討者ギルド』という組織は明確な『敵性存在』として認識されるようになっていた。

 ユリが愛してやまない子達に彼らは剣を向けたのだから、これは当然のことだ。


 この件について『掃討者ギルド』は『ニルデアの都市に親しみを持つ掃討者が、一部勝手に防衛戦に参加しようとしただけで、組織として百合帝国に刃向かおうとしたわけではない』と弁明している。

 一応はユリもこの弁明を受け容れている。ルベッタとアドスが『掃討者ギルド』が無くなれば護衛の調達が難しくなり、ニルデアと他都市の間を行き交う荷馬車の数が減りかねない―――と諫めて来たからだ。

 なのでニルデアの都市には、今も『掃討者ギルド』の施設が存在している。


 ―――だからといって、ユリは遺恨を忘れたわけではない。

 『掃討者ギルド』なる組織は、魔物の狩猟を生業とする者が所属する『組合』のようなものだと報告を受けている。

 ならば『駆逐』によってニルデアの都市近辺から根こそぎ魔物を狩れば。彼らの仕事は失われ、組合も自然消滅するのではないかと期待している所もある。

 まだ積極的に潰そうとまでは思っていないが。消極的に『消えてくれれば良い』と思う程度には、ユリにとって不快な相手であることは事実だった。


「って、別に掃討者のことはどうでも良いのよ。『紅薔薇(エンクレーズ)』の子達が近場にアクスホーンを何匹か捕獲してくれているという話なのだけれど……。ハマルの目から見て、何かそれっぽいのはあるかしら?」

「ユリ様。東門を出てすぐの辺りに、何か……地面が陥没している場所があるように見えます。おそらく関係があるのではないでしょうか」

「ええっと―――ああ、なるほど。確かに何かあるわね。行ってみましょう」


 ワイバーンに指示を出し、ユリ達は東門のすぐ外に向けて滑空する。

 近づくと、それが土魔術によって作られた深さ40mぐらいの陥穽であることが見て取れた。ワイバーンを降りて、淵にまで歩み寄って中の様子を窺ってみると。陥穽にはアクスホーンとウリッゴの魔物が、ちょうど10匹ずつ入っていた。

 ユリが捕獲を頼んでいたのはアクスホーンだけの筈なのだけれど、どうやら気を利かせてウリッゴも捕まえておいてくれたらしい。


「魔術で地面を抉り掘って、魔物を捕らえておく簡易の土牢を作ったわけですね。流石は紅薔薇の皆様です」

「これだけ深く掘れば逃げられる心配も無いわね」


 アクスホーンは牛の、ウリッゴは猪の姿を模した魔物だ。

 四足で駆けることしかできない魔物には、当然40mもの高さがある垂直の壁を登ることなど出来る筈もない。


「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

「はい。どうぞお気を付けて」

「気をつける必要がある程の相手でも無いけれどね」


 ハマルにそう告げてから、ユリは陥穽の中へ身を投じる。

 魔物を自身の使役獣にするには『1対1で討伐する』必要がある。但し、これは厳密に言えば他の『仲間』や『使役獣』の力を借りず、『単身(ソロ)』で討伐しなければならないという意味であり、相手が多勢である分には問題無い。


 40mの高さを落下する最中に、中に居る全20体のアクスホーンとウリッゴをはっきりと視認して、ユリは全ての魔物との『(リンク)』を確立する。

 更にユリは、着地の直前に〈復讐の絆〉のスキルを発動させた。

 このスキルを発動していると、ユリが被った『不利な効果』を『絆』を結ぶ相手にも与えることができる。ユリが受けたダメージが『絆』を通してアクスホーンとウリッゴにも及ぶようになるわけだ。


 この世界の重力加速度が地球と同じだと仮定するなら、40mの高さから自由落下した物体は、抵抗を考えなければ着地時に約100km/hもの速度に達する。

 となれば当然、そこには結構な落下ダメージが発生する。なにしろ、人が飛び降り自殺を行った際に『ほぼ確実に死ぬ』と言われている高さが『45m』なのだ。『40m』という高さから落ちれば、それに次ぐレベルの衝撃が発生する。


 『アトロス・オンライン』のゲームでは、落下ダメージは通常の物理ダメージと同様に『防具の物理防御力』と『[強靱]の能力値』で減少させることができた。

 但し、ユリは物理防御力を持つ防具を一切装備していない。身に付けている衣服も装飾品も、全てが物理防御力は『0』だったりする。

 更にユリは最大HPが超大幅に増加する代わりに、身体能力値を全て『0』にしてしまうという、まるで呪われた装備のような効果を持つ指輪を身に付けている。なので[強靱]の能力値は『0』になっており物理ダメージは全く減少しない。

 更に更に、ユリは身体に『罪業のドレス』という防具を着用している。この防具には『能力値の[魅力]と[加護]を3倍に増やす代わりに被ダメージも3倍になる』という効果があるため、落下ダメージも当然3倍にまで増大する。


 ユリの視界の端に、赤い文字で『225』という数値が表示された。

 これは『アトロス・オンライン』のゲームで、ダメージを受けた際にプレイヤーの視界に表示されるインジケーターであり、数値は『被ダメージの量』を示す。

 最大HPは10万以上あるユリにとっては、微々たるダメージだ。

 そのダメージが『絆』を通して、同じ陥穽にいるアクスホーンとウリッゴ達にもダメージを与える。〈復讐の絆〉は『絆』を接続している敵の数が多いほど効果が弱まり、10体以上の魔物に『絆』を接続しているとユリが受けた『10%』分のダメージしか押しつけることができない。

 なので与えたダメージは『22』点だけだ。


 無論この程度のダメージではアクスホーンやウリッゴを倒せはしない。攻撃を受けたことを認識したアクスホーンの1体が、ユリに向けて突撃を敢行してくる。

 アクスホーンの頭部にある、大きくて鋭い、立派な角を活かした突撃だ。

 その角に腹部を抉られ、ユリは『371』のダメージを受ける。

 痛みは全く無い。ゲームキャラクターであるこの身体では痛みを感じないのか、それとも最大HPが多すぎるせいで、この程度の些細なダメージでは何も感じられないのかは判らないが。


(あ、いえ―――少なくとも前者ではない筈よね)


 毎晩のように『寵愛当番』の子を愛している際に、何人かの子達が破瓜の痛みを訴えていたことをユリは思い出す。

 なので、この身体自体が痛みを感じない、というわけでは無い筈だ。


 それから、ユリは幾度となくアクスホーンとウリッゴの突進を受け止め続ける。

 ダメージ量が小さいせいか、勢いを付けてぶつかられてもユリの身体は吹っ飛ばされるどころか、身動(みじろ)ぎひとつしない。何だかちょっと不思議な感じもする。

 それでも攻撃される度に300~400程度のダメージが蓄積していき、魔物達にも30~40ダメージずつが与えられていく。やがて20回ほど突撃を食らった後には、その場にいる魔物全員が死体に変わっていた。




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 ウリッゴ(Lv.21)の単独討伐に成功し、使役獣に登録しました。

 ウリッゴ(Lv.21)の単独討伐に成功し、使役獣に登録しました。

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 ウリッゴ(Lv.21)の単独討伐に成功し、使役獣に登録しました。

 アクスホーン(Lv.26)の単独討伐に成功し、使役獣に登録しました。

 アクスホーン(Lv.26)の単独討伐に成功し、使役獣に登録しました。

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 アクスホーン(Lv.26)の単独討伐に成功し、使役獣に登録しました。

 アクスホーン(Lv.26)の単独討伐に成功し、使役獣に登録しました。

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 ユリの視界の端には、そんな行動記録(アクションログ)が表示されている。

 どうやら問題無く全ての魔物達を使役獣にすることができたらしい。


「ハマルー! 剥ぎ取り手伝って頂戴ー!」

「承知しました!」


 上に向かって呼びかけて、ハマルにも穴の中に入ってきて貰う。

 使役獣は殺された際に死体を残さない。だけどここに残っている魔物の死体は、使役獣に登録される直前の死体という扱いになるので、通常通り〈解体〉スキルを使用して素材を剥ぎ取ることもできる。

 この世界では月に1度しか魔物が再出現(リポップ)しないのだから、折角の食肉を無駄にするのは惜しい。ちゃんと全ての死体から回収しておくべきだろう。


「我が呼び声に応えて姿を現せ―――【使役獣召喚】アクスホーン!」


 全ての死体の処理を終えたあと、試しに【使役獣召喚】を行ってみると、問題無くアクスホーンを召喚することができた。


「死亡した使役獣を【蘇生召喚】できるかどうかも試したいから、アクスホーンを殺して貰っても構わないかしら?」

「承知しました」


 ユリは『絆』でダメージを与えることはできても、能動的な攻撃手段はない。

 なのでハマルにお願いして、呼び出したばかりのアクスホーンを【火炎弾(ヒムカ・クラッド)】の魔法で焼き殺して貰った。


「喪いし命を取り戻し、再び我が力となれ―――【蘇生召喚】アクスホーン!」


 【蘇生召喚】は文字通り、殺された魔物を生き返らせた上で召喚する魔法だ。

 実際に試してみると、こちらの魔法も問題無く効果を発揮した。


「……あ、あの。ユリ様」

「うん? どうしたの、ハマル?」

「いま私が殺した使役獣の死体が、まだここにあるのですが……?」

「へ……?」


 ハマルが指差した先を見ると、つい今しがた彼女が行使した【火炎弾】の魔法によって焼き殺されたアクスホーンの死体が、確かにそこにはあった。

 本来であれば『使役獣』は殺された際に死体を残さない筈だ。少なくとも『アトロス・オンライン』のゲーム内では必ずそうなっていた。

 なのに―――いまユリとハマルの目の前には、焼き殺されたアクスホーンの死体と、復活したばかりのアクスホーンの個体が同時に存在している。


「……ユリ様。試しに死体を〈解体〉してみても?」

「え、ええ。やってみて頂戴」


 焼死したアクスホーンの死体を、ハマルが〈解体〉する。

 5秒後に〈解体〉が完了すると同時に、アクスホーンの死体は即座に消滅した。


「ゆ、ユリ様。普通に……普通に素材が、手に入ってしまいました……」

「………」


 これがどれほど大きな意味を持つかは、ユリにもハマルにも容易に想像できる。

 こんなの殆どずる(チート)のようなものではないか―――とさえ思えた。


 いまユリ達が居るのはゲームの中の世界ではない。

 だから、この世界ではバグ修正(フィックス)など望めないというのに―――。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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[良い点] すごくおもしろい!
[良い点] 更新乙い [一言] 既に最高峰のドラゴン(素材)ちゃんがリストに居る件。
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