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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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33. 沈黙のルベッタ

 


     [2]



 それからユリ達は、幾つかの議題について話し合う。


「キナ臭い話題は後回しにして、まずは内政関連から話し合いましょう」


 ユリがそう告げたことで、最初の議題は『都市の清浄化』に関する話になった。


 現在『百合帝国』が拠点にしている領主館では、建物自体を【浄化結界】で囲うことで悪臭に対処しているわけだけれど。実は、本来『何かを綺麗にする』という効果の魔法は、結界を張った紅梅よりも睡蓮こそが得意とする領分だ。

 睡蓮の子達が行使する【浄化】の魔法は、【浄化結界】よりも遙かに広い範囲を纏めて清潔な環境へ変えることができる。


 もちろん結界内に『浄化』の効果を発揮し続けるという点では【浄化結界】にも明確な利点があるのだが。貴重な素材を消費してしまう【浄化結界】とは異なり、睡蓮が使う【浄化】は魔力を消費するだけで行使できてしまう。

 となれば、対症療法にしかならないとしても、これを活かさない手は無い。


「セラ、ニルデアの都市全体を1回の魔法で【浄化】することはできる?」

「造作もありません、ユリ様。【浄化】は駆け出しの〈神官〉でも容易に修得できる程の低レベル魔法です。都市が収まるほど効果範囲を拡大しても、魔力消費量は些細なものに収まるかと」

「それなら大丈夫そうね。早速、明日からでも『睡蓮』の子達でローテーションを組み、1時間おきに都市全体を【浄化】して貰っても負担にはならないかしら?」

「24時間を『睡蓮』の24人で担当するわけですから、個人に求められる作業は1日に1回定刻に【浄化】の魔法を行使するだけですね。これならば全く負担にもなりませんので明日からと言わず今日から行いましょう。何でしたらもっと魔法を行使する頻度を高くして頂いても構いませんが」

「そこまでは必要無いわね。【浄化】の魔法は悪臭の発生源である都市内の汚物も纏めて除去するでしょうから。1時間に1度綺麗にするだけでも、ちょっと潔癖が過ぎるぐらいだわ。

 ―――では『睡蓮』に命じます。本日からニルデアの都市の移転が完了するまでの間ずっと、一定時間おきに【浄化】を行って都市衛生を清浄に保って頂戴」

「承知致しました、ユリ様」


 悪臭問題は『桔梗』が新都市を完成させてくれれば解決する問題だ。それまでの期間は睡蓮の【浄化】で対処して貰う、ということに決まった。

 結局ユリとセラが話を交わしただけで、周囲から何か意見が出ることも無かったので、これならばわざわざ会議の場に持ち込む必要は無かったかもしれない。


 2つ目の内政議題は、大聖堂へ『睡蓮』を派遣して『無償治療師』として活動させる件について。

 これはすっかり力を取り戻した、当の睡蓮から最近になって出された提案だ。


 もともと『可能であればこちらの世界の神様に改宗する』ことを考えていた睡蓮の子達は、予てよりニルデアの大聖堂を足繁く訪問し、この世界の神様について教えを受けるなど何かと世話になっていた。

 要は睡蓮の皆は、治療奉仕という形で大聖堂にその恩返しがしたいのだ。


「私達は他の部隊の皆様のように機敏に動けるわけでも、遠距離攻撃や広範囲攻撃が行えるわけでもありませんので、もともと『駆逐』作業には参加しておりませんでした。領主館で待機しているぐらいなら、近場の大聖堂で治療師の真似事をさせて頂くのもよろしいかと思いまして」

「なるほど。睡蓮の皆がやりたいのなら、別に構わないと思うし―――」

「すみません、ユリ陛下。意見をよろしいでしょうか」


 ユリが即座に許可しようとしたところ、意外な人物が手を挙げた。

 ルベッタだ。この件は『ロスティネ商会』の会頭である彼女には、あまり関係が無い話題のようにも思えるが。


「何かしら、ルベッタ。聞かせて頂戴」

「はい。話を聞く限りですと、失礼ながら皆様は大聖堂で治療を受ける際に掛かる金額について、ご存じないように思えるのですが」

「……私は全く知らないわね。セラは?」

「申し訳ありません。寡聞にして存じません」


 確かに言われてみると、怪我や病を治した際に大聖堂が請求する『治療費』がどの程度なのか、そんなこともユリ達は把握していない。

 先方に『無償治療』を申し出るのであれば、その程度は知っておくべきだろう。


「ルベッタ、詳しく教えて貰えるかしら」

「はい。これはニルデアの大聖堂に限った話でも無いのですが、予め教会施設では治療する怪我や病の程度に応じて『5等』から『1等』の等級を定めており、その等級に応じた額の寄付を患者に請求することになっております。

 軽度の傷であれば『5等治療』で、寄付額は『3000~5000beth』程度。出血や痛みが酷くて、生活や仕事に支障が出る怪我ですと『3等治療』となりまして、寄付額は大体『6万~8万beth』ぐらい。四肢を1つ以上欠損したり、あるいは全身に重度の火傷を負ったりした場合ですと、最も等級の高い『1等治療』となり、寄付額は大体『200万~500万beth』ぐらいにはなるでしょうか」

「500万……!?」


 ルベッタの話を聞いて、驚きの余りにセラが声を上げる。

 声にこそ出さなかったが、ユリもまた充分に驚かされていた。

 

 いま『屋台』で清掃を担当してくれている寡婦の人達に出している給料が、1日あたり『2500beth』だ。これでも結構多めに払っているほうで、ニルデアで働く場合の日給相場は大体『1200~1500beth』程度だと聞いている。

 つまり軽めの怪我の治療でも、普通の人の2~3日分の給料を取るわけだ。

 重傷ともなれば安くても200万……。この世界では『20万beth』もあれば庶民が1年間働かずに暮らせるらしいから、200万ともなれば10年分の生活費にも匹敵する額になる。


「それはまた、随分と暴利ね……」


 思わず呆れ声でユリがそう零してしまったのも、仕方ないと思う。


「ユリ陛下はこの額を不当だと思われますか」

「……違うの?」

「恐れながら申し上げますなら、私としては正当な相場だと思われます」

「ふむ……。ルベッタ、詳しく話して頂戴。どうやら私にもセラにも、まだ理解が足りていない部分が多いようだわ」

「そのようですね。ルベッタ様、是非ともご教示頂けますでしょうか」


 ユリとセラの二人が頭を下げて頼むと。

 ルベッタは―――見れば、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。


「……何よ、その顔は」


 あまりに予想外なその反応に、思わずユリは苦笑してしまう。


「ああ、いえ。何と申しますか―――本当にユリ陛下は、女帝とは思えないほどに気安いお方だなあと、改めて思いまして。エルダード王国であれシュレジア公国であれ、商人などという者は基本的に顎で使われるだけの存在ですから」

「あら……あなたがそうされたいのなら、雑に扱ってあげてもいいのよ?」


 そう告げながら密かに無詠唱で【小転移】の魔法を行使したユリは、ルベッタのすぐ脇にまで転移し、彼女の顎にそっと自身の指先で触れる。

 もちろんそれは、単に冗談でやった行為だったのだが。―――状況を把握するや否や、ルベッタの顔が一瞬で真紅に染まって、


「わ、私は、ユリ陛下にならどのように扱われても構いません……!」


 そんな言葉が、ルベッタの口から零れ出てしまった。


「……ごめんなさい、ルベッタ。つい今しがたあなたから『気安い』と言われたのが嬉しくて、ちょっと『気安い』冗談を言ってみたくなっただけなのよ」

「えっ。じ……冗談、ですか?」

「私が悪かったわ。ごめんなさいね」

「あ、い、いえ! 知ってました! 知ってましたから気にしないで下さい!」


 そう告げて、ぶんぶんと顔の前で両手を振ってみせるルベッタ。

 流石にそこまで露骨な反応を示されれば、彼女の心がユリにも判る。


「今のは冗談だった。だからまた後日―――改めてあなたを口説くことにするわ」

「……ふぁ!? ゆ、ユリ陛下!?」

「ふふ、せいぜい覚悟しておいて頂戴ね」


 ルベッタの頬を優しく撫でながら、ユリは彼女の耳元で甘く囁く。

 どうやら私は―――理由は全く見当も付かないけれど―――ルベッタから好意を持たれているらしい。そのことがユリには、明確に理解できてしまった。

 となれば当然、そこで我慢ができるユリではない。


「主君……。意見を伺うために招いた客人を、黙らせてどうするのですか」

「へ?」


 桜花隊長のサクラに言われて、改めてルベッタのことを見てみると。いつの間にか彼女は長机に上半身ごと突っ伏し、頭からは蒸気が昇っていた。

 伏せているせいで表情は見えないけれど、背後からでも耳まで真っ赤に染まっていることだけは判る。どうやら恥ずかしさか何かが限界に達したらしい。


「……ごめんなさい、ルベッタ」

「………………いえ………………」


 顔を突っ伏したまま、ぷるぷると身体を震わせているルベッタ。

 普段のルベッタが纏っている『やり手の商人』といった雰囲気が、今だけは嘘みたいに微塵も感じられなくなっていた。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] ウンコが無くなっちゃう!! お前のトコでウンコしてやんねー!!が脅し文句になったりするらしいウンコ!! ウンコ勿体ないんなー。
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