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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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28. 供物と恩恵

 


     [4]



 例によって、悪臭対策に【水中呼吸】の精霊魔法を掛けて貰った上で、ユリ達は領主館を出た。

 メンバーはユリの他に護衛のキリと『睡蓮』隊長のセラ、それとセラが選出した『睡蓮』に所属する子達を3名連れてきている。

 目的は言うまでも無く、その3名の子に『天職』を取得させることだ。


 この世界では、成人を迎えてさえいれば誰でも、神殿施設を訪ねて儀式を受けることで『天職』を得ることができる。

 ゲーム内世界『リーンガルド』の住人であり、つまるところ異世界人である『百合帝国』の子達が、果たして『天職』を得られるのかどうかは判らないが。他でもない『睡蓮』自身が望んでいるのだから、ユリに否やは無い。


 というわけで、ユリ達の目的地はニルデアの都市内にある大聖堂だ。

 領主館も大聖堂も、どちらも都市の中央付近にある建物なので、徒歩で移動しても然程時間は掛からないだろう。


「……セレス、ガーネット、ユークレース。あなた達には『天職』を得る実験体のような真似をさせてしまうけれど、ごめんなさいね」


 徒歩移動の傍らにユリがそう謝罪すると。『有翼種(アンゼリオ)』の特徴である白翼を揃って背中に持ちながらも、銀・赤・薄青という個性豊かな髪色をした三人は、一様に頭を振って否定してみせた。


「いいえ、ユリ様。最初のリスクは誰かが負わねばならないものですから、できれば自分が志願したいとは思っておりました。ですので、何も問題ありません」

「セレス姉様の言う通りです! 例え力を失っても悔いはありません!」

「……そう。セレスもガーネットも優しいのね。ユークレースも嫌ではない?」

「はい。私は瑕疵(かし)のある身ですから、危険性のあることは率先して担当すべきだと思っております」


 静かに微笑みながら、ユークレースはさも当然のようにそう口にしてみせる。

 ユークレースは目が見えていないのだ。―――しかも、両目共に全く。


 『アトロス・オンライン』には、配下NPCのキャラクターを作成する際にだけ設定可能な『供物』という項目がある。これはそのキャラクターに任意の『弱点』を加える設定で、例えば『最大生命力30%減少』や『火属性被ダメージ2倍』などといった項目から1つだけ選ぶことができる。

 供物はデメリットにしかならないが、もちろん見返りはある。供物を与えると、代わりに『恩恵スキル』と呼ばれる特別な能力が1つ得られるのだ。

 但し軽微な供物を負わせても、得られる恩恵は小さなものだけだ。大きな恩恵を得ようと思うなら、キャラクターに重い供物を背負わせなければならない。


 ユークレースの目が見えないのは、彼女のキャラクターを作成する際に『視力喪失』という供物を設定したからだ。

 『視力喪失』はキャラクターの命中率と回避率が大幅に減少してしまう供物で、更に『敵の位置が判らなくなる』という効果もある。このため、敵を対象とするスキルや魔法を実行することが難しくなるのだ。

 ゲーム的にはそれだけのデメリットしか生じないので、回復役の『睡蓮』の子に持たせる分には、比較的軽めの供物だったのだけれど―――。


 キャラクター作成時にユリが決めたその供物のせいで、ユークレースはいま実際に目が見えない状態にあり、そんな自分を『瑕疵のある身』と卑下している。

 その事実が、ユリにはとても申し訳無く思えた。


「ユークレース。あなたにその瑕疵(・・)を負わせたのは、私よ」

「………! そう、なのですか……?」

「ええ、私がそう決めたの。あなたは他の『睡蓮』の子より強力な神聖魔法を行使することができたでしょう? あれは、あなたの視力と引き換えに得た能力なの。

 だから―――あなたが目の見えぬ自分を卑下するのなら、その罪は当然、全てが私にあるわ。ごめんなさい、ユークレース」


 ユークレースは『視力喪失』の供物と引き換えに、『治療魔法強化Ⅱ』の恩恵を取得している。これは『治療魔法の効果量と効果範囲が1.5倍になる』という効果を持つ、特別なスキルだ。

 睡蓮の子達の職業である〈聖女(アデラ)〉は高い回復能力を持ち、他者を『完全回復』させることも容易にできてしまう。なので回復量増加には殆ど意味が無く、これは効果範囲の側しか殆ど機能しない恩恵だ。

 正直、有れば嬉しいスキルだが、別に無くても良いという程度ではある。そんなスキルを持たせたがためにユークレースを苦しめていることが、ユリにはただ心底申し訳無かった。


「そんな……。ユリ様、何故今まで教えて下さらなかったのですか!」

「……そうね。もっと早く言うべきだったわ。ごめんなさい」

「ユリ様が与えて下さったものと判っていれば、この至らぬ眼さえ私には愛おしいものになりましたのに! ……うふふ。ありがとうございます、ユリ様。これからは私、自分の身体のことがとっても大好きになれそうです」


 ユークレースは嬉しそうにそう告げると、どこか妖艶な笑みを浮かべる。

 その反応を見て……ユリは1歩だけ後ずさる。気付けばユリだけでなく、この場の全員がユークレースとの距離を、先程よりも1歩分だけ開いていた。


「し、主君。大聖堂が見えて参りましたぞ!」

「ええ、そうね。早く行きましょうか……」


 露骨に話題を変えたキリの言葉に、ユリも即座に便乗する。

 実際には大聖堂の建物は結構大きいので、少し前から見えていたのだが。


「―――あら?」

「ユリ様、どうかされましたか?」

「大聖堂の前に誰か居るのよね。しかもこちらを見ているわ」


 目の見えないユークレースにも判るように、ユリは口頭でそう説明する。

 大聖堂の前に居る人物は、いかにも聖職者らしい感じの白い服を着ていた。右手には1本の長い杖を持ち、その視線はずっとユリに向けられている。


「あれはバダンテール高司祭ですね。ニルデアの大聖堂で一番偉い方です」

「セレス、知ってるんだ?」

「はい。私達『睡蓮』はニルデアの都市を占領して以降、こちらの世界の神様について教わるべく、こちらの大聖堂に足繁く通っておりますので」

「……なるほど」


 睡蓮の子達が大聖堂に通っていたという話はいま初めて聞いたけれど、その理由については察しがつく。

 ユリから言われるまでもなく。こちらの神様へ『改宗』することを、当事者である睡蓮の子達は、選択肢の1つとしてとうに考えていたのだろう。


「―――ユリ陛下でいらっしゃいますな」


 ユリたち一行が大聖堂のすぐ側にまで近寄ると、バダンテール高司祭が軽く頭を下げた上でそう問いかけてきた。

 高司祭はかなりの老齢だった。おそらくは『トルマーク商会』会頭のアドスよりもさらに上だろう。痩せ細った身体つきの、禿げ上がった頭をした男性だが、その低い声からは幾許かの威厳が感じられる。


「これは、バダンテール子爵様ではありませんか。何か(わたくし)に御用でしょうか? 今朝、貴国から送られてきた8名の密偵の件ですか?」

「む……」


 ここぞとばかりに、ユリは満面の笑みを浮かべながら高司祭にそう問うた。

 姿を見るのは初めてだが、バダンテール子爵についてはユリも知っている。

 というか、ニルデアの都市内に存在するエルダート王国の貴族については、都市を征服する前から【空間把握】の魔法で調べて、その全員を把握していた。

 現在ではそれらの貴族の、ほぼ全員の身柄を既に確保している。唯一いまユリの目の前に居るバダンテール子爵だけは、司祭職に就いていることを考慮して皆には手を出させなかったが。


「確かに……私はエルダート王国より子爵位を賜っておりますが、あくまでも法服貴族でしかありません。実権は皆無ですし、ましてニルデアへ密偵を手引するようなことは断じて致してはおりません」

「神に誓える?」

「七神に誓いましょう」


 ユリの問いに、バダンテール高司祭は即座にそう回答する。

 高司祭の立場にある者が『神に誓える』というのであれば、それは真実だろう。


「判りました、信用致しましょう。……私に何か御用ですか?」

「正午過ぎにユリ陛下がこちらにいらっしゃると、今朝方『癒神リュディナ』より神託が御座いました。ですので大聖堂をご案内させて頂くべく、私がお待ち申し上げておりました次第です」

「神託……? そんなことが、あるのですか?」

「滅多にあることではありません。大体十数年に1度ぐらい……でしょうか」

「それはまた……」


 高司祭の言葉を受けて、ユリは言葉を失う。

 十数年に1度ともなれば、かなり貴重な機会なのは間違いないだろう。


「そんな十数年に1度しかない程の神託で、神様がなぜ私のことを?」

「さて、そればかりは癒神リュディナに直接訊いて頂くしかありませんが」

「……神様と話ができるのですか?」

「癒神リュディナはあなたと直接話す機会を心待ちにしておられました。あちらが会話をお望みなのですから、話ができない筈もありません」


 それが当たり前であるかのように、バダンテール高司祭は口にする。

 よく判らないけれど……高司祭の言う通り、もしも神様と実際に話せるのなら。確かに、諸々のことは直接神様本人に訊いた方が早そうだ。


「大聖堂の奥にある『神像の間』へご案内致します。そちらには七神全ての像が安置されており、癒神リュディナの像も御座います。神像に触れるか、もしくは祈りを捧げるかすれば、おそらく癒神リュディナと直接話すことができるでしょう。

 また『神像の間』は、成人を既に迎えている方が『天職』を授かる際に利用する場所でもあります。癒神リュディナとお話しされましたあとには、そちらの儀式も私が担当して行わせて頂きます」

「……私達が今日、ここを訪れた理由もご存じなのですね」

「主神は全てを見通しておられますので」


 柔和な笑みを浮かべながら、バダンテール高司祭はそう告げる。

 何だか、何もかもを見透かされているような気がして、ちょっと嫌だとも思う。


「ユリ陛下は『おぷてぃまいず』という言葉を、ご存じですかな?」

「……は? おぷてぃまいず? ああ―――もしかして『最適化(オプティマイズ)』ですか?」


 急に現代的な用語が出て来たので、思わずユリは驚かされてしまう。

 ユリがそう問い返すと、バダンテール高司祭はおもむろに頭を振ってみせた。


「さて、私も意味までは存じ上げないのですが……。癒神リュディナが仰られますには『くらす』を『おぷてぃまいず』するためにも、一度『百合帝国』の皆様には『天職』を授かる儀式を行って頂く方が良い、とのことです」

「ふむ……?」


 ―――職業(クラス)最適化(オプティマイズ)、か。

 なるほど。なんとなくだけれど……意味は少し、判るような気がした。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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[良い点] 更新お疲れ様です [一言] ユーくレースとっても健気に振る舞っているのになぜか引いてしまう同僚達とユリ。特にユリは引いたらだめでしょ…
[良い点] 更新乙い [一言] >>視力 でも、他の娘も同じシチュなら同じ反応になるんでしょ?シッテルシッテル
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