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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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260. 第三側室(2)

 


     *



「ここが、鉱山都市『ユリーカ』なのね……!」


 『転移門』で移動した先、山岳地帯に広がる都市の中央広場から周囲を一望しながら、思わずメルファルーデは感嘆の声を漏らした。

 山岳という地形を生かした清流と自然が美しい都市は、そこに居るだけで活力が湧いてくる気がする。

 森の中とはまた違う空気の清浄さがあり、また先程まで居たユリシスの都市よりも、明らかに空や雲の高さが近く感じられた。


「メルファルーデさんは『桔梗(ききょう)』という部隊をご存じですか?」


 この都市への案内を買って出たリゼリアが、訊ねてきたその言葉に。

 メルファルーデは首肯しながら答える。


「一応、名前は知っているわ。ユリ陛下直属の12部隊のひとつで、建造を担当する部隊だと聞いているけれど?」

「はい、その通りです。百合帝国には『桔梗』が建造した都市が4つありまして、メルファルーデさんが既にご存じのユリタニアとユリシスは、どちらもそれに該当します。―――そして、このユリーカもそうです」

「なるほど。確かに言われてみると、ユリタニアやユリシスのものとはまた違う、建造技術の高さが、都市内の随所から感じられる気がするわ」


 傾斜が多い都市なのに、それを感じさせないほどに建物や街路が綺麗に整備されており、都市全体に整然とした佇まいが感じられる。

 何より、都市に幾つもある清流の美しさと、せせらぎの心地よさが好印象だ。

 ユリタニアでも、せせらぎの音色を聞く機会はよくあったけれど。やはり人工的に整備されたユリタニアの水路が奏でる音色よりも、ユリーカの都市内をゆっくり流れる自然さながらの小川の音色のほうが、自然を愛するハイエルフとしては好ましく感じられるものがあった。


「ちなみにその川の水源って、どこだと思いますか?」

「へっ……? 普通に源流が山の中にあるのではないの?」

「そう思いますよね。実はこの川って、鉱山から出た水を流してるだけなんです」

「―――!? それって、毒じゃないの!?」


 鉱山はドワーフの領域なので、ハイエルフのメルファルーデがあまり詳しく知る領分ではないのだけれど。それでも鉱山から出る水が『毒』だという話ぐらいは、過去に聞いたことがあった。

 病とはまた異なる、人の身体に障害を与える毒だと聞いている。

 治療魔法の効果は薄く、毒水を飲んで歪んだ身体は、二度と正常な状態には戻らない―――そんな恐ろしい話も、幾度となく耳にしたことがあるが。


「この都市の一番高い場所に鉱山の入口があるのですが。この都市の全域と、そして鉱山の全域を丸ごと【浄化結界】の範囲内に含めることで、本来は毒である鉱水を、完全に無害で清浄な水へと変化させているんです」

「それは凄いわね……。じゃあ、この水って飲めるの?」

「はい、飲めますよ。この都市に住む人達は、河川から地中に染みこんだ水を井戸から掬って普通に飲んで暮らしていますしね。もちろん洗濯などにも使いますし、畑に撒く水などにも河川水が利用されています」

「凄い……」


 普通であれば鉱夫達を住まわせるための都市は、鉱山からかなりの距離を離した場所に建造するものだと聞いている。

 そうしなければ地下水に鉱山から出た水が―――つまり『毒』が混ざってしまうため、安全に井戸を利用して暮らすことができないからだ。


 にも拘わらず寧ろこのユリーカの都市では、本来は毒であるはずの鉱水を清浄化することで、積極的に住民達に利用させている。

 こんなことは、他国には絶対に真似出来ないだろう。


 リゼリアと一緒に歩いていると、都市内に畑が数多く存在していることが判る。

 鉱山というのは、掘れば掘るほど大量の水が湧くと聞いたことがある。

 この都市では、その豊富に出る水を農業に上手く役立てているようだ。


「ちなみに鉱山は『迷宮地(ダンジョン)』になっているのですが、ご存じでしたか?」

「ああ―――そういえば『迷宮地』はユリシスだけでなく、ユリーカにも存在するという話をソフィアから聞いたわね。鉱山がそうなの?」

「はい。坑道が丸ごと『迷宮地』になっているんです」


 リゼリアの話によると、このユリーカの都市には3つの坑道があり、それぞれが難易度の異なる『迷宮地』になっているらしい。

 また3つの坑道は深さも異なっており、地中深くにある坑道ほど『迷宮地』としての難易度も高くなっている。

 最も深層の『上位坑道』だとレベル100までの魔物が出現し、中層の『中位坑道』だとレベル80までの魔物が、最も浅い『下位坑道』にはレベル41から60の魔物が出現するそうだ。


「一番難易度が低い坑道でも、魔物のレベルが41……。『下位』という割には、それでも結構難易度が高いように思うのだけれど?」

「私もあまり詳しくは知らないのですが―――坑道内で採掘できる一部の鉱物には弱い毒性があって、レベルが低い人が触ると少し危険があるそうです。

 だから『迷宮地』としての下限難易度を少し高めに設定することで、毒性に問題無く耐えられるレベルの探索者だけが利用できるようにしているとか」

「なるほど、色々考えられているのね……」


 【浄化結界】は、取り除く対象を選別できる結界なのだと聞いたことがある。

 やろうと思えば【浄化結界】で、坑道内から『弱い毒性がある鉱物』を取り除くことも可能なのだろうけれど。おそらくその鉱物は、毒性があることを考慮してもなお、充分な利用価値があるものなのだろう。

 だから【浄化結界】で鉱物自体は排除せず、逆に探索者の側を選別することで、毒性に対処しているわけだ。


「折角ですから、これから少し坑道の『迷宮地』に挑戦してみますか? 難易度が低い『下位坑道』でも宜しければ、私でも何とか戦うことができますので」

「わあ、いいわね、やってみたいわ。ああ……でも私は鉱石を見分ける方法なんて全然判らないし、掘り方だって何も知らないのだけれど……大丈夫かしら」

「その辺りのことは、この都市にある『探索者ギルド』の支部で説明を受けられますし、また必要な道具も借りられますので大丈夫ですよ。私も初めてここの迷宮地に挑戦した時は何も判りませんでしたが、全く問題ありませんでした」

「そうなんだ。じゃあ是非挑戦してみたいわ!」


 それからメルファルーデは、4時間ほどリゼリアと一緒に『下位坑道』に潜って魔物を狩猟しつつ、ギルド支部で借りたピッケルを使って様々な鉱石を採掘する。

 出現する魔物は、レベルの割に厄介な個体が多いように感じられたけれど。代わりに浅い場所でも銅や鉄、銀といった鉱石が面白いように掘れるので、ユリシスの迷宮地とはまた違った楽しさがあった。


 おそらく、ユリシスの『迷宮地』はレベル上げが行いやすく、ユリーカの『迷宮地』は金銭収入を稼ぎ易い―――といった具合に、ある程度の差別化を図っているのだろう。


 この国にある全ての迷宮地を訪問して、堪能し尽くしてみたい―――。

 いつしかメルファルーデはこの百合帝国のことが、大好きになっていた。



 

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お読み下さりありがとうございました。

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