258. 第二側室(3)
「その指輪は『魔導具』の一種ですので、ご指摘の通り魔力が籠められています。実際、特別な効果が幾つも備わっている優れた品なのですが―――。
例えば、その指輪は自動的に装着者の指に応じたサイズに調整されるため、どの指にも嵌めることができます。メルファルーデさんは弓を扱われるようですから、射撃の邪魔にならない指に付けるのが良いでしょうね」
「へえ……」
そういうことであれば、弦を引く右手には付けない方が良いだろう。
試しに左手の小指を通してみると。指輪は明らかに指のサイズより大きいため、ぶかぶかだった―――のは一瞬だけで。数秒も経つ頃には、小指の細さに適合したサイズへと変わり、しっかりと指の根本に安定した。
これならば戦闘中に、指輪が自然に落ちることは無いだろう。
(……何だか、無駄に凄いわね)
サイズを自動的に調整する効果が備わった、魔法の武具や装身具が存在するという話は、メルファルーデも過去に聞いたことがある。
けれど、それは古い時代から王家や貴族家にて引き継がれてきた、極めて希少な魔法の武具や装身具にだけ備わっているものの筈だ。
先程ソフィアはこの指輪を『探索者ギルドに登録した全員に与えている』物だと言っていた。
言うまでもなく、間違ってもそんな誰にでも無償で配布されるような装身具に、備わっていて良い類のものではないのだが―――。
「ちなみにその指輪を身に付けていると、自分自身に対してのみ〈鑑定〉のスキルを使うことができるようになります」
「……〈鑑定〉? 商人系の天職などで修得できる、あのスキルかしら?」
「はい、そのスキルで間違いありません」
〈鑑定〉は人に対して使用すれば、相手のレベルや能力値、修得しているスキルや魔法などを看破することができるという、大変便利なものだ。
また本来は物品に対しても使用することができ、その場合は対象品の品質の多寡を始めとした、詳細な情報をいつでも確認することができる。
「それは、是非試してみたいわね。どうやれば良いのかしら?」
「指輪を身に付けた状態で、どこでも良いので自分の身体の一部を見つめながら、詳細を知りたい―――と意識するだけで使用できますよ」
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メルファルーデ・パルハー
ハイエルフ/533歳・女性/性向:悪
〔狩人〕- Lv.97
〈精霊使い〉- Lv.1
生命力: 3331 / 3331
魔力: 3279 / 3279
[筋力] 1583 (1577 + 6)
[強靱] 874 ( 868 + 6)
[敏捷] 2164 (2151 + 13)
[知恵] 1527 (1516 + 11)
[魅力] 1752 (1724 + 28)
[加護] 1224 (1204 + 20)
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ソフィアから教わった通りに試してみると。
即座に自身の情報がメルファルーデの視界に表示され、思わず驚かされる。
そこにはメルファルーデの実母、ファランダの姓である『パルハー』がちゃんと記載されており、また何となく『500歳は超えている』ぐらいにしか自分でも把握していなかった、詳細な年齢も記されていた。
能力の数値についても、概ね納得がいくものだ。実際メルファルーデは、素速く身体を動かすことに関しては自信があるけれど、身体の打たれ強さについては全くと言って良いほど自信が無い。
性向が『悪』と書かれているのが少し気になるけれど……。
いや―――まあ、これも妥当だろうか。
別に邪悪なことに手を染めてきたわけではないけれど、かといって善行を積んできたわけでもない。それにエルダード王国の兵や、森に棲む動物を多数殺してきた過去を思えば、自分が『悪』だと評されるのも腑に落ちるものはある。
「どうでしょう、視えましたか?」
「え、ええ……。凄いわね。これ程のことができる指輪を配布しているの?」
「はい。いつでも自分の状態が確認できる方が、探索者としての活動がし易くなるだろうと、ご主人様が大量に用意して下さったものです」
「……もしかして、ユリ陛下が手ずからに作られたものだったりする?」
「いいえ。ご主人様が誇る直属12部隊の内の1つである、生産部隊『竜胆』の皆様が製造されたものだと聞いています」
神が作り出した物、というのであれば納得できる気がしたのだけれど―――。
装着者に特定のスキルを利用可能にさせる―――それ程の効果を持つ指輪を、大量に生産できる人達が存在しているという事実自体が。メルファルーデには、俄に信じられないものがあった。
「ちなみに先程も申し上げた通り、基本的には自分自身しか〈鑑定〉できないようになっていますが。例外的に10秒間以上手を繋いでいる相手の情報だけは、視ることが可能になっています。
仲間の情報を予め〈鑑定〉で確認しておけば、一緒に戦う上でも何かと便利ですから、積極的にこれを活用する方も居ますし。あるいは……情報は秘匿すべきものだと考えて、自分の情報を他人に見せず、また他人の情報も見ないように努める人もいらっしゃいますね。この辺は好みが別れるところなのでしょう」
「へえ……。ソフィアさんさえ良ければ、是非試してみたいわ」
「構いませんよ、私は特に隠そうと思っていませんので。但し、もちろん私の方からも、メルファルーデさんの情報が視えるようになってしまいますが」
「私も別に隠そうと思っていないから、構わないわ」
ソフィアが差し出して来た手を、メルファルーデは力を籠めずに握る。
ただ手を繋ぐだけで良い筈なのに―――即座にソフィアが指まで絡めてきたものだから、思わずメルファルーデは少し恥ずかしい気持ちになった。
「うふふ。初心でいらっしゃるのですね」
「な、慣れないわよ、こういうの……」
「エシュトアさんから沢山愛されたでしょうに、まだ慣れていないのですか?」
そのソフィアの言葉を受けて、思わずメルファルーデはかあっと顔が熱くなる。
昨晩エシュトアの指先に散々玩ばれた時の事を、思い出してしまったからだ。
「……ところで〈鑑定〉はよろしいのですか?」
「あっ。そ、そうだったわね……」
そう言えば、その為に手を繋いだのだった。
ソフィアの言葉に気付かされ、慌ててメルファルーデは繋いでいるソフィアの手を注視しながら『詳細を知りたい』と意識してみる。
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ソフィア・テオドール
人間/28歳・女性/性向:中立
〔賢者〕- Lv.67
〈上級侍女〉- Lv.62
生命力: 8802 / 8802 (5802 + 3000)
魔力: 7989 / 7989 (5989 + 2000)
[筋力] 1978 ( 498 + 480 + 1000)
[強靱] 1912 ( 299 + 613 + 1000)
[敏捷] 2452 ( 607 + 845 + 1000)
[知恵] 3153 (1335 + 818 + 1000)
[魅力] 2836 (1018 + 818 + 1000)
[加護] 2784 (1077 + 707 + 1000)
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すると、確かにソフィアの情報も〈鑑定〉で確認することが出来た。
彼女は〔賢者〕の天職を持ち、また〈上級侍女〉の職業を取得しているらしい。
天職のレベルはメルファルーデより30も低いが、一方で職業のレベルのほうは圧倒的な差が付いている。
―――まあ、これはメルファルーデの〈精霊使い〉のレベルがまだ『1』であることを思えば、仕方がないのだけれど。
総合的な実力で言えば、明らかにメルファルーデよりも強い人物なのだろう。
能力の数値的にも予想以上に大きな差が開いていることが、〈鑑定〉の表示を眺めるだけで、つぶさに理解することが出来た。
もっとも―――昨日会ったエシュトアに関しては、最早〈鑑定〉で確認するまでもなく。自分より明らかに『強者』であることが、メルファルーデには何となく察せていた。
(これでもハイエルフの村では『猟長』を務めていたのに……)
百合帝国ではどうやら、メルファルーデより強い程度の人達など、珍しくも無いらしい。
心の中に僅かばかり残っていた『強者』としての自負が、いとも呆気なく崩されていくような気分だった。
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