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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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26. ネズミ捕り

 


     [2]



「―――あら」


 例によって領主館の執務室に籠りながら午前中を過ごし、幾つかの書類に目を通して居たユリは。不意に、僅かな驚きと共に声を上げた。

 常に【空間把握】の魔法を維持して行っている都市の監視から、ひとつの通知が送られてきたからだ。

 【空間把握】で確認できる情報が特定の『条件』を満たした際に、術者へ通知してくれるよう予め設定しておいたものだ。どうやらその条件が満たされたらしい。


「……? いかがなさいましたか、主君」


 そのユリの様子を見て、今日の『寵愛当番』兼護衛として一緒に居てくれているキリが、訝しげに問いかけてくる。

 キリは『桜花(おうか)』で副長を務めている子だ。職業(クラス)は〈剣豪(タルハー)〉で、これはいわゆる『侍』のようなキャラクターを想像すると判りやすい。

 目を引く鮮やかな桜色の上衣に、濃紺色の袴。腰に大小2本の刀を佩いている。桜花の子達は誰もが身長150cmも無い矮躯なのに、ひとたび戦闘になれば柄を含めて約1メートルの長さがある打刀を軽々と振り回し、己の敵を軽々とねじ伏せる。

 桜花は『百合帝国』の中でも、かなり個人戦闘力が高い子達の部隊だ。


「ニルデアにネズミが侵入したようね」

「ネズミ、ですか?」

「王国の密偵のことよ」


 ユリは【空間把握】の魔法で、効果範囲内に『いずれかの国の軍属者』が入って来た場合に通知するように設定していた。

 今回ニルデアの都市内に入って来たのは、エルダート王国の密偵だ。

 人数は8人で、男性が3名に女性が5名。革鎧と剣を身に付けて掃討者風の装いをしている者もいれば、実際に荷馬車に乗って商人を装っている者もいるようだ。


 ユリは即座にその8人を『赤色』でマーキングする。

 マーキングした対象は『百合帝国』の全員が位置を把握できるようになる。

 なるほど、たった8人ですか―――とキリが小さな声で零した。


「では、私が今すぐ斬り捨てて参りましょう!」

「……キリ。あなたは今日一日、私の護衛をしてくれるのではなかったの?」


 威勢良くキリが告げた言葉に、思わずユリは苦笑してしまう。

 外敵が都市内へ侵入している状況下で、護衛対象から離れてどうするのだ。


「そ、そうでした。失礼致しました」

「それに、折角王国が送って下さった人的資源(・・・・)だもの。有難く頂戴しましょう?」


 そう告げて、ユリはニコリと微笑む。

 先方は『百合帝国』の情報を収集し、その侵害を企む者達だ。

 自らの敵に情けを掛けるほどユリは善人ではない。―――それどころか『極悪』でさえある。


(……まあ、飼うなら女性の方がいいわね)


 思い直して、ユリは密偵に付けたマーキングを女性だけ『黄色』に変える。

 それからギルドチャットをアクティブにして『百合帝国』の全員に語りかけた。


「―――『黒百合(ノスティア)』と『撫子(なでしこ)』に命じるわ。

 ニルデアの都市にエルダート王国のネズミが8匹侵入したわ。黒百合は『赤』でマーキングした3匹を速やかに殲滅し、養分に変えなさい。撫子は『黄』でマーキングした残りの5匹を捕縛し、領主館の地下に監禁すること」

『判ったわぁ』

『承知致しました、ご主人様』


 黒百合隊長のカシアと撫子隊長のパルティータが、即座に承知の意を告げる。

 ニルデアに侵入した密偵のレベルは最も高い者でも『31』しかない。どう考えても彼女達の敵では無いので、任せておけば問題無いだろう。


『失礼致します。姐様にひとつ意見をしてもよろしいでしょうか?』

「その声はメテオラね。構わないわ、何かしら?」


 メテオラは建設部隊である『桔梗(ききょう)』で隊長を務めている子だ。

 新都市の建設に専念しているようで、残念ながら最近はあまり姿を見ていない。


『領主館の地下室はあまり広くなく、収容人数はせいぜい10名程と思われます。おそらくエルダート王国から密偵のおかわり(・・・・)が今後も来ることを考えますと、領主館の地下に監禁するのでは遠からず限界が来るかと思います』

「ん……。それは、確かにそうね……」


 エルダート王国からすれば『百合帝国』など、全く聞いたことのない国だろう。

 地図を有しており、近隣国家をいずれとも無関係だと判るだけに、むしろ『百合帝国』のことを『国』を(かた)るならず者の集団とさえ思うかもしれない。

 そんな相手に要衝都市であるニルデアを陥とされ、しかも2週間にも渡って不当に占拠されているとなれば。当然王国としては、これを看過できよう筈も無い。

 いまニルデアに来ている密偵は、あくまでも初手で送り込まれた分だ。おそらくは然程の間も置かずに第2弾、第3弾の密偵も続けざまに送られてくる。


「メテオラ、何か良案はあるかしら?」

『はい。現在建設中の新都市では、都市の全域を網羅する地下通路が整備されており、そこには地下倉庫や地下収監所なども併設されています。

 200名程度は収容可能ですので、よろしければ新都市側でお預かり致します。ネズミへの餌遣りぐらいは、建造作業のついでに桔梗が担当致しますので』

「……待って。地下に色々作ってるなんて、私は報告受けてないんだけれど」

『え、えっと……。申し訳ありません。つい、カッとなって作ってしまいました』

「カッとなってって、あなた……」

『だ、だって、都市を全部いちから造るなんて大事業ですよ!? 色々と作り込めば面白そうなものがいっぱい思いつくのに、それを我慢なんてできませんよ!!』

「そ、そう……」


 『アトロス・オンライン』のゲーム内には『ギルド戦争』と呼ばれるコンテンツがあり、これはギルド同士が『空中城(アトロス)』と呼ばれる拠点を奪い合うものだ。

 大体の場合は攻城側と防御側が互いに100名弱ものキャラクターを出し合い、総力をぶつけ合う大規模な激戦となる。

 その『ギルド戦争』の中で建設部隊の『桔梗』は、敵を退ける『防壁』を作り、味方を護る『塹壕』を掘り、要地に『砦』を建てて、と大活躍するのだが。

 逆に言えば―――その程度の建造ばかりをさせられていた、という事でもある。


 『桔梗』の建設能力は凄まじく、防壁ぐらいなら30秒程度で、砦を1つ造るような場合でも10分程度で完成させてしまう。

 なればこそ、それほどの建設能力を有している彼女達は、本当ならもっと大型のものを造ってみたいという願望を、内心で強く秘めていたのかもしれない。

 もしそうであるなら、今回の『新都市建造』は彼女達の願望を叶える絶好の機会だろう。桔梗の持つ建設欲を発散できるように、目を瞑るべきだろうか。


「メテオラ、ほどほどにね……?」

『はい! 前向きに善処します!』


 少し悩んだ末、ユリはそう軽く言い含めるだけに留めた。

 返答から察するに、メテオラの自重は全く期待できそうにないが。


「……まあ、良いわ。新都市に収監施設があるのなら、そっちで預かって頂戴」

『了解です。パルティータさん、捕虜は新都市まで撫子にお運び頂いても?』

『承知致しました。対象の確保は完了したようですので、このあと運搬させます』

「流石ね、パルティータ。仕事が早いわ」

『畏れ入ります。たまたま対象者の付近に居た者がおりましたので』

「そう」


 パルティータは『たまたま』だと口にしたけれど。おそらくは不審な人物として撫子の方でも注視していたのだろう。

 優れた諜報技術を持つ撫子は、防諜技術にも優れる。いかに密偵が掃討者や商人といった『善良な旅客』を装うとも、彼女達の目を潜り抜けられる筈も無い。


「ああ、そうだ。カシア」

『なぁに? 仕事が遅いって懲罰(・・)なら受け付けるわよぉ?』

「そのプレイは、カシアが『寵愛当番』になる日まで取っておきましょう?」

『あ、あら。楽しみね。私、どうされちゃうのかしらぁ……?」


 期待にからか、カシアの声が僅かに上ずる。

 吸血種(カルミラ)のキャラクターを配下NPCにすると、その性格は被虐的(マゾ)になる。

 カシアにしてみれば、ユリからの『懲罰』など『ご褒美』でしかない。


「それはいいとして。密偵達も、地下に収監されるだけだと退屈でしょうからね。黒百合の子達で適当に可愛がって(・・・・・)あげて頂戴な」

『……あら、いいのぉ?』

「ええ。但し、後で労働力として利用するつもりだから壊さない程度にお願いね。従順で協力的な子に仕上げておいて貰えると、とても助かるわ」

「ふうん、判ったわぁ。反抗的な子を折る(・・)のは楽しいしねぇ」


 そう告げて、カシアはニタリと妖艶に微笑む。

 いや、妖艶に微笑んだ―――ような気がした。ギルドチャットを通しての会話なので、残念ながら相手の姿までは見えていない。


 実は、吸血種(カルミラ)の配下NPCが被虐的になるのは、あくまでも自分が好意を向ける相手だけに限られる。カシアを始めとした黒百合の子達の場合だと、主であるユリはもちろん、他にも『百合帝国』の全員がその対象に含まれるだろう。

 それ以外の好意を持たない相手に対しては―――真逆の嗜虐性(サディズム)を持つ。

 黒百合に任せておけば、良いように密偵を調教(・・)してくれる筈だ。


「では、本件は以上。但し、最後にひとつだけ皆に通達をするわ。

 さっきメテオラが言った通り、おそらくエルダート王国は何度か密偵を送ってくることでしょう。その場合にはまた私の方でマーキングするから、黒百合と撫子で今回と同じように処理して頂戴」

『判ったわぁ』

『承知致しました、ご主人様』

「何度か密偵を送り込んできて、なのに送り込んだ密偵と連絡が取れなくなれば。間もなく先方は密偵が捕まった事実にも気付くことでしょう。そうなれば向こうが次に打つ手は『実力行使』になると思う。

 きっと―――なかなかの規模の戦争になる。だから皆、そのつもりでいてね」


 いま王国が送ってきている密偵は、こちらの戦力を測るのが目的だ。

 ニルデアを陥とした相手がどの程度の戦力を有しているか調べて、王国からどの程度の軍隊を送れば速やかに都市を取り戻せるか知りたいのだ。


 つまり、相手の主目的は最初から失地回復の『戦争』にある。

 火蓋が切られる日は、そう遠くはない。





 

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お読み下さりありがとうございました。

前話は誤字が沢山ありました……。いつもながら誤字報告機能にて指摘を下さいます方々、本当にありがとうございます。大変助かっております。

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[良い点] 更新乙い [一言] やったー 生身の人間のオカワリと、賠償金がやってくるよー
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