254. 第一側室(2)
時間が足りず、本日投稿分は短めです。ごめんなさい。
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「何と言うか―――凄い都市よね、ここって」
昨日はハイエルフの村里を出た時点で夜だったので、あまり景色を楽しむ余裕が無かったのだけれど。一晩経って明るい中で眺める、百合帝国の首都ユリタニアの風景は、ただ『壮観』の一言に尽きた。
明らかにこの都市は、最初から目の前に広がる美観の完成図が脳内に描けていた人物が、設計したことが判る造りをしている。水路と街路により綿密に分けられた区画は整然としており、そこには一部の隙も無い。
人口の増加に伴って拡張を繰り返した都市では、絶対にこれほど完璧な造りにはならないだろう。
森の中でばかり暮らしていたため、外の世界をあまり知らないメルファルーデだけれど。それでも、このユリタニア以上に美麗な都市が存在しないだろうことは、容易に想像が付いた。
「ええ、実際に住んでみると良く判りますが、とても素晴らしい都市ですよ。勿論これに匹敵するぐらい良い都市が、他にも幾つかはありますが」
「……そうなの?」
「はい。ユリシスやユリーカ、蓬莱といった、ユリお姉さまの采配によって建造された都市は、いずれもユリタニアに負けず劣らず素晴らしいです」
「それは、凄いわね……」
メルファルーデは頭の中で想像をしてみるが、それでもこのユリタニアに匹敵する美しさと完成度を誇る都市というのは、全く想像も出来なかった。
それ程に、いま目の前にあるこの光景は、完成され過ぎている。
「目的地はこちらです、はぐれずに付いてきて下さいね」
油断すると、すぐに目を奪われそうになる光景で溢れた都市内を、エシュトアに先導されながらメルファルーデは歩く。
そうしていると、すぐに目的の建物―――ユリタニア大聖堂の姿が見えてきた。
どうやらユリタニア宮殿から、さほど離れていない場所に大聖堂はあるらしい。
「おお……凄く立派な建物ね……」
大聖堂の威容を前にして、無意識にメルファルーデは足を止めていた。
けれどエシュトアは躊躇わない。重厚な大聖堂の門扉を躊躇せず開けると、メルファルーデの片手を取り、引っ張るようにしながら中を案内してくれた。
今朝話した時に、エシュトアは自身のことを『聖職者』だと言っていた。
おそらく―――彼女にとっての大聖堂は、とても勝手知ったる場所なのだろう。
エシュトアはその大聖堂の、かなり奥にまでメルファルーデを引っ張っていく。
暫く経って、ようやくエシュトアが立ち止まった先には。大聖堂の正面入口に匹敵するほど、重厚な扉が設けられた一室があった。
室内にこれほど厳めしい扉が設置されているというのは。よほど厳重に護るべきものが室内に存在するのだと、雄弁に語っているように思える。
「ここは……?」
「『神像の間』と言います。メルファルーデさんにはここで、『職業』を取得して頂きます。何を取得するかは既に決めておられますよね?」
「え、ええ。一応決めてあるけれど……」
今朝エシュトアから『職業』については、既に説明を受けている。
無作為に選ばれる『天職』とは異なり、この『職業』は好きなものを任意に選ぶことができるらしい。但し一度選択すると固定され、選び直しはできないそうだ。
メルファルーデは今朝まで『職業』というものについて、全く知らなかった。
人族が『天職』に加えて『職業』という才能を得られるようになったことは、癒神リュディナからの神託により、世界中に知れ渡っているらしいのだけれど。
―――生憎とハイエルフの村里には、住人が『天職』を得る時に利用する為の、誰も常駐していない小さな祈り場がひとつあるだけで、聖職者は存在していない。
神託というのは、それを受信した聖職者の説法により拡散されるものだ。だから聖職者がひとりも居ないハイエルフの村里では、『職業』という才能が得られるようになった事実自体を、集落住人の誰も知らずに居たわけだ。
まあ、知らなかったことを悔やんでも仕方がない。
何にしても『天職』以外の才能を、誰でも自分の意志で選んで取得出来るというのは、とても喜ばしいことだ。
全部で77ある『職業』のリストをエシュトアに見せて貰い、彼女から助言を受けながら考えたことで、メルファルーデはその中の1つに決めていた。
「宜しければ、教えて頂いても構いませんか?」
「ええ、もちろん。私は―――〈精霊使い〉の職業を取得しようと思っているわ。弓の扱いについては、現在の天職である〔狩人〕を伸ばせば良いからね。折角だから今の私にはあまり上手く使えていない、精霊魔法を補おうと思うの」
「なるほど。〈精霊使い〉から上位職の〈精霊射手〉へ転職すれば、精霊魔法に加えて弓の技倆も強化できると聞いていますから、良い選択だと思います」
「あら、そうなの? だったら猶更、この職業を選択するのが良さそうね」
メルファルーデは精霊魔法を扱うことができるが、これはハイエルフの種族に生まれた者であれば、誰でも持っている才能だ。
出自種族によって得た才能は、『天職』が与えてくれる才能に較べると、遙かに小さくて弱い。メルファルーデは精霊魔法をある程度までなら扱えるが、どんなに修練を積んだところで、それは『ある程度』の域を出るものでは無かった。
半ば諦めていたその才能を―――『職業』を取得することで強化できるという事実は、メルファルーデにとって福音にさえ思えた。
メルファルーデの実母であるファランダは、弓も扱うが、それ以上に優れた精霊魔法の使い手でもある。
その母の姿を子供の時分より見てきたメルファルーデだから。高位の精霊魔法を扱えるようになることには、ずっと昔から強い憧憬を持っていたのだ。
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