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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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255/370

253. 第一側室(1)

 


     [1]



 ハイエルフの村里には2種類の『長』と呼ばれる役職がある。

 ひとつは村里の中で最も高い実力を持つものが就く『猟長』の役職だ。

 文字通り、これは動物や魔物の狩猟を行う際に陣頭指揮を執る者が就く長役で、単純な戦闘能力だけを評価されて村里の中から選ばれる。

 もうひとつは、一般的な『村長』の役職だ。こちらは村里の中でもっとも聡明な大人が就くことになっていて、村の運営方針は原則として、この役職に就いた者の一存によって決定される。


 メルファルーデは前者の『猟長』の役目に就いていた。

 後者の長は母親のファランダが務めている。母から遺伝したのか、メルファルーデもまた子供の頃から頭は良い方だったが、流石にまだ500歳ちょっとの年齢しか無いメルファルーデに村長の役が回ってくることは無い。

 知恵はともかく知識に関しては、やはり長く生きている人の方が多く積み重ねてきたものがある。『村長』に就く者は年齢が高ければ高いほど良いのだ。

 メルファルーデの年齢は既に500歳を超えているが、この程度ではハイエルフだけが住まう村里の中では、せいぜいまだ『大人になったばかり』という程度にしか見做されることがないので、『村長』など論外も良いところだった。


 とはいえ単純な弓の腕前だけなら、メルファルーデは既に母を凌駕している。

 メルファルーデのレベルは『97』に達しており、村里の中でも傑出して高い。

 村里の中で2番目にレベルが高い者が『81』であることを思えば、このレベルがいかに高いものなのかは明瞭だろう。


 何故こんなにもレベルを上げられたのかと言うと、メルファルーデに『瘴気』の耐性があったからだ。

 ハイエルフの村里がある『大森林』は、外縁部を除く全域に瘴気が溢れており、そこには大量の魔物が棲息している。

 この瘴気は人族にとって害となるもので、呼吸により体内に取り込むと、身体が徐々に病に冒されてしまう。

 最初は風邪を引くぐらいの軽微な病で済むのだけれど、滞在時間がより長くなれば四肢に麻痺が生じたり、酷い時には失明に至るようなことさえあるらしい。

 但し、瘴気は体質によって影響の度合いが異なるらしく、駄目な人だと10分も滞在しているだけで体調を著しく崩すのに対し、大丈夫な人だと数時間ぐらいなら何の影響も無かったりする。

 メルファルーデがそうだ。子供の頃から瘴気の中に居ても2~3時間ぐらいなら全然平気で、身体と共にレベルも随分成長した今だと、5~6時間程度は問題無く活動できるようになっていた。


 『瘴気』がある場所に棲息する魔物は、その環境から絶対に出ることが無い。

 だからメルファルーデは、いつでも『大森林』の深い場所に入り魔物を狩猟することが出来たし、また勝ち目の無い相手に襲撃された時は、森の外縁部へ逃げることでいつでも魔物を振り切ることが出来た。

 この優位性があり、またハイエルフならではの老化の遅さもあったお陰で、まだ村里の中では若手の年齢でありながらレベル『97』に至れたというわけだ。


 メルファルーデは自身の実力に、強い誇りを抱いていた。

 瘴気は人には害でも、魔物には活力を与える効果がある。そのため『大森林』の中に棲息する魔物は、他の地域よりレベルが高い個体が多い。

 また、以前エルダード王国の軍隊がハイエルフの集落に侵攻を仕掛けてきたことがあったけれど、その時にもメルファルーデは縦横無尽の活躍により、1000人以上の兵士の命を奪うことに成功している。

 瘴気環境に棲息する獰猛な魔物を日頃から狩猟し、いざ戦争となれば充分な戦果も出しているのだから。自身が『強者』であることにメルファルーデが何の疑いも抱かなかったのは、ある意味で当然のことだと言えた。


 そんなメルファルーデが―――先日の戦闘では手も足も出なかった。

 敵はハイエルフの村里に、上空から直接侵入して来た。敵の先制攻撃でこちらの弓手を何人も負傷させられたこともあり、メルファルーデは最初から全力の一矢を放ったのだけれど―――目に見えない障壁に、あっさり弾かれてしまう。

 続けざまに第2射を放つが、それも弾かれる。諦めずに第3射、第4射も放ったが、結果は変わらない。


 ―――確かな自負を持っていた弓が、目の前の相手には全く通用しない。

 その事実をまざまざと突き付けられたメルファルーデが、5射目を放つことは無かった。射つまでもなく、無駄であることが判りきっていたからだ。

 以前エルダード王国が侵攻を仕掛けてきた時にも、魔術を行使して目に見えない障壁を作り出してくる敵は存在した。それでも―――メルファルーデの射る矢は、目に見えぬ障壁ごと敵を容易く打ち破ったものだ。

 なのに今回の相手が作り出す障壁には、まるで通用しない。それどころか、目に見えぬ障壁に多少のダメージさえ与えられている気がしなかった。


 メルファルーデが心を折られ、戦意を喪失した一方で。村里の仲間は懸命に敵に立ち向かおうとしたが……結果は同じことだ。

 敵の人数は最初はたったの2人、その後に増えたが、それでも全部で12人。

 なのに―――何千人もの兵達が攻め寄せてきたエルダード王国との戦争よりも、遙かに恐ろしくて、大きな絶望をメルファルーデは感じることになった。



     *



「―――ユリお姉さまと戦うだなんて、随分と無茶をなさったのですね」


 メルファルーデの口から、一連の経緯を聞き終わった後に。白装束に身を包んだ女性はそう言うと、どこか可笑しそうにくすりと笑ってみせた。

 彼女はエシュトアという名前の女性で、詳しくは知らないが、神殿で何かの重職に就いているらしい。また、彼女はユリ陛下の『第一側室』でもある。


 ユリ陛下に『戦利品』として持ち帰られたメルファルーデは、その翌日になってユリ陛下から「私の側室全員に会って自己紹介を交わし、また相手の部屋に一晩ずつ泊めて貰ってくるように」との指示を受けた。

 どうやらユリ陛下はハイエルフの集落の中にしか知己を持たない私に配慮して、自身の側室達全員に会わせることで、私に百合帝国(こちら)での交友関係を作らせようと考えているらしい。

 てっきり、お持ち帰りされると同時に、性奴隷同然の酷い扱いを受けるとばかり思っていたものだから、何だか肩透かしを喰らった気分になったけれど。

 とはいえ、勿論その配慮はメルファルーデにとって有難いことだった。


 というわけで、ユリ陛下から指示を受けたばかりの今日メルファルーデが訪ねたのが、いま目の前にいる彼女、ユリ陛下の第一側室であるエシュトアの私室だ。

 どうやらエシュトアは既にユリ陛下から話を聞いていたらしく、すぐにメルファルーデの訪問を歓迎してくれた。

 お茶と菓子を出された後に、エシュトアから「一連の経緯を聞かせて欲しい」と望まれたので、ちょうど今メルファルーデの口から一通りを話し終えた所だ。


「戦ってみて、勝てない相手であることはよく判ったわ……」

「お話を聞く限りですと、ユリお姉さまは随分手加減をされた様子ですが」

「……手加減されていたの? あれで?」

「ユリお姉さまは『召喚』を得意とされる魔術師ですが、お話しを聞く限り、その力を全く使っておられないようですから。間違いなく手加減はされていますね。

 やろうと思えばユリお姉さまはいつでも、大空を端から端まで埋め尽くす程の、圧倒的な数の『竜』を召喚できます。なので、もしハイエルフの集落を本気で潰そうとお考えになったなら、今頃は『大森林』の全てが灰燼に帰していますよ」

「竜の大軍を召喚……? そんなことできるわけが無いでしょう?」

「ふふ。まあ、普通はそう思いますよね」


 再びエシュトアは、可笑しそうにくすりと笑ってみせる。

 有り得ない話にしか思えないが―――けれど何故か、エシュトアが嘘を吐いているようには、微塵も思えなかった。


「えっ……。ほ、本当に、ユリ陛下にはそんなことが出来るの?」

「お出来になりますよ。そもそも私は聖職者ですから、嘘は好みません」

「……流石に、信じられないのだけれど?」

「まあ、普通はそう思いますよね」


 先程と同じ台詞を、再び繰り返してみせるエシュトア。

 彼女が浮かべる笑顔が『全て事実である』と雄弁に語っているような気がして。

 それほどの相手に自分が喧嘩を売っていたことに、今更ながらメルファルーデはぞっと心が冷える思いがした。



 

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お読み下さりありがとうございました。

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