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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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253/370

251. 死者蘇生

頂戴しておりました誤字指摘の9割程を確認し、必要に応じて反映致しました。

(※残り1割程は確認や代替文章の用意に時間が掛かりそうでしたので、まだ反映できておりません。すみません)


反映が遅くなり、かなり溜め込んでしまいまして申し訳ありません。

いつも指摘を下さり、ありがとうございます。大変助かっております。

 


     *



 ファランダとの話し合いが終わった後、ユリはハイエルフの村落にあった空き家屋をひとつ使わせて貰い、そこに『転移門』を設置した。

 大人数が利用する『転移門』であれば、広場のような屋外の開けた場所に設置する方が好ましいのだけれど。この『転移門』は集落の住人がほぼ独占的に使用するものになるから、むしろ屋内のほうが休憩所も兼ねられて良いだろう。


「この魔法陣は、もう別の都市と繋がっているの?」

「ええ、当国の『ユリシス』という都市に繋がっているわ」


 興味深そうに魔法陣を眺めながら問いかけたメルファルーデの言葉に、首肯しながらユリは回答する。


 転移門の設置は、片側だけなら10分程度しか掛からない。

 ユリシスは各都市間を接続するハブの役割を果たす都市なので、『もう片側』として利用できる、未接続の『転移門』を事前に幾つも設置してあるのだ。

 だからこのハイエルフの集落に、もう片側の『転移門』さえ用意すれば。即座にユリシスとの接続を確立させ、自由に転移することが可能となる。


「メルファルーデ。早速この『転移門』を試してみて貰っていいかしら? 移動した先に女性が2人居ると思うから、連れて来て頂戴」

「ん、わかったわ」


 初めて『転移門』を利用する人は、得体の知れない魔法陣の上に入ることを、少し躊躇することが多いのだけれど。メルファルーデは全く臆することなく、どこか楽しげな様子で魔法陣の上にジャンプしてみせた。

 そのメルファルーデの姿が一瞬で掻き消えたのを見て、ファランダが「おお」と感嘆の声を漏らす。


「……本当に、この中に入ると別の場所へ転移できるのですね……。こうして目の前で見確かめても、まだ信じ難い部分もあるのですが……」

「ファランダも何度か自分で利用していれば、すぐに慣れるわよ」

「そういうものですか」

「そういうものよ。自分の理解が及ばないようなものであっても、便利に普段遣いするようになれば、すぐに抵抗なんて感じなくなるわ」


 ユリも子供の頃、修学旅行で初めて飛行機に乗った時には『鉄の塊が空を飛ぶ』という事実を信じられず、利用に際してかなりの抵抗感を覚えたものだ。

 それでも祖父の造園会社に就職した後に、他県や海外のお客さんとのやり取りで飛行機を頻繁に利用するようになれば、すぐに抵抗感など感じなくなってしまう。


 現代人なんて、大抵そんなものではないだろうか。

 飛行機だけに限らず、電車も、自動車も、携帯電話も、インターネットも。それがどういう仕組みで成り立つ製品かも知らずに―――いや『知ろうともせず』に、利用することに慣れた人なんて珍しくも無い筈だ。

 結局は『転移魔法』だって、それと似たようなものだろう。


「ただいまー」

「お帰りなさい」


 1分程待っていると、メルファルーデが『転移門』から姿を現す。

 その後ろには2人の女性が伴っている。『睡蓮(すいれん)』隊長のセラと、ロスティネ商会の会頭を務めるルベッタだ。


「セラもお帰りなさい。ルベッタにも、わざわざ来て貰って悪いわね」

「はい、ユリ様。ただいま戻りました」

「元を辿れば私の商会で生じたトラブルですので……。ユリ陛下には、対処に心を砕いて頂き、感謝しかありません」

「『蓬莱空運』は私の発案でルベッタに立ち上げて貰った商会だもの。ルベッタの手腕に全て頼るのではなく、私もサポート程度はさせて貰わないとね」


 恐縮気味に発されたルベッタの言葉に、ユリはそう返答する。

 実際、普段からルベッタには色々と頼りすぎている部分が多いのだから。せめて面倒事(トラブル)の解決ぐらいは、率先してこちらが引き受けるべきだろう。


「ところで―――ルベッタ。死体を見た経験はあるかしら?」

「過去に何度もありますので、気遣いは無用です」

「そう。ではファランダ、案内して頂戴」

「はい」


 ファランダとメルファルーデの2人に先導されながら、ユリ達はハイエルフの村落内にある、別の家屋へと移動する。

 その建物の中には厚手の毛布が敷かれ、その上に1人の男性が横たわっていた。

 眠っているのではない。―――遺体だ。男性の身体や身に付けている衣類には、(やじり)や槍の穂先で付けられた外傷の痕が生々しく残っている。


「ルベッタ。この男性は、あなたの商会員に間違いないかしら?」

「はい。『蓬莱空運』に所属する未帰還の商会員、ラハリに間違いありません」


 遺体の顔を確認して、ルベッタがそう回答する。

 ルベッタは自身が経営する商会に所属する、全ての商会員の顔と名前、経歴などを完璧に把握している。なので彼女に確認して貰えば、この遺体が殺されたロフスドレイクの騎乗者であったかどうかは、すぐに判別して貰えるわけだ。


「その……。ごめんなさいね、私達が殺したのよ」

「申し訳ありません。村長として、陳謝させて頂きます」


 メルファルーデとファランダの2人が、即座にルベッタに頭を下げる。

 謝罪の言葉を受けて、ルベッタは一瞬だけ複雑な表情をしてみせたけれど。すぐに表情を取り繕い、首を左右に振ってみせた。


「ユリ陛下が許されたのでしたら、私がどうこう言うことではありません」

「でも……」

「それに事前に書いて貰っていた書面により、ラハルが蘇生を希望している(・・・・・・・・・)ことは判っていますから。何の問題もありません」

「……は?」


 ルベッタが告げた言葉の意味が判らなかったのだろう。メルファルーデの目が、判りやすく点になった。


 肩に掛けていた鞄からルベッタが1枚の用紙を取り出し、ユリに差し出す。

 これは『蓬莱空運』に所属し、実際にロフスドレイクに騎乗する全ての商会員に対して、事前に書いて貰っている書面の1つだ。

 用紙には騎乗者に対する幾つかの質問が書かれており、その中の1つには『業務中に事故などにより死亡した場合、蘇生を希望するか』というものがある。

 ラハルはこの質問の回答欄に『希望する』と回答しているようだ。


「セラ。この者は蘇生を希望している。生き返らせて頂戴」

「承知しました。―――【即時完全蘇生(ペラク・アケネコン)】」


 『魔術語(ネシエント)』ひとつを唱えるだけで、即座にセラは神聖魔法を行使する。


 この世界では『死者を蘇らせる』ような魔法は伝承の中に存在するだけで、その実在は確認されていないらしいけれど。言うまでもなく『百合帝国』では、蘇生魔法の使い手など珍しくも無い。

 ましてや治療魔法に特化された、レベル『200』の〈聖女(アデラ)〉だけで構成されている、『睡蓮(すいれん)』の部隊に所属する子達であれば猶更だ。

 広範囲蘇生系の魔法であればともかく、単対象を蘇生させる程度の魔法ならば、もはや『睡蓮』隊長のセラにとっては詠唱さえ必要とはしない。


 【即時完全蘇生】は死亡している対象ひとりを『完全蘇生』させる魔法だ。

 負っている外傷や疾病は即座に快癒し、対象は死亡状態から蘇生する。

 生命力と魔力は満タンになり、死亡による能力値低下が発生することもない。


「うぅ……」

「「―――!!」」


 ラハルの遺体から、不意に呻きにも似た声が上がる。

 その声を耳にしたファランダとメルファルーデの2人が、文字通りその場で飛び上がって驚きを露わにしてみせた。

 流石は母娘と言うべきだろうか。本心から驚愕した時に見せる姿というものは、とても似通っているところがあるようだ。


「……こ、ここは……?」

「ここはハイエルフの集落にある家屋のひとつよ。『蓬莱空運』の商会員ラハル。意識や記憶、身体の感覚などは、はっきりしているかしら?」

「これは……ユリ陛下! も、問題ありません!」


 ラハルが慌てて上体を起こし、その場でユリに頭を下げようとするが―――。

 長く身体を横たえていた人間が、急に身体を思うままに動かせるものではない。

 バランスを崩したラハルの身体を、ユリは片手で支える。


「焦らないの。あなたは今まで死んでいたのだから、無理はいけないわ」

「も、申し訳ありません、ユリ陛下」

「いいのよ」


 ラハルと会話を交わすユリの背中に、2人分の視線が突き刺さっている。

 複数のハイエルフによって、確実な『死』を確認されていた筈のラハルが。今、目の前で実際に身体を動かし、言葉を発している。

 ―――その光景が、その事実が。ファランダとメルファルーデの2人には、未だにどこか信じられずにいるようだ。



 

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