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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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252/370

250. 支配村落への組み込み

 


     [5]



 村長(むらおさ)であるファランダの自宅へ移動したユリ達は、ハイエルフの集落を百合帝国の支配下に組み込むにあたって、必要な話を詰める。

 既に『百合帝国』の子達は全員、ユリの転移魔法で一足先にユリタニアへと帰還させている。相談役としてユリの隣にアマテラスが残ってくれているので、護衛役なら彼女ひとりだけで充分に足りるからだ。

 但し『睡蓮(すいれん)』隊長のセラだけは、後でやって貰いたい事があるので、また呼び出すことになるだろうけれど。


「やはり、最初に税に関する話を聞いておきたいのですが」

「まあ、当然よね」


 ファランダの問いかけに、ユリは首肯しながら答える。

 集落が国家に帰属する場合、そこには必ず租税の徴収が発生する。この徴収した税を利用して軍隊を揃えたり、土地の開発を行ったり、福祉の充実を図るわけだ。


「百合帝国では原則として収入の3割を税として徴収させて貰っているわ。

 ところで―――この集落で主にどんなものを生産しているのかしら?」

「生産品ですか……申し訳ありませんが、特にありませんね。必要に応じて林産物を集め、畑を管理し、樹木を育て、木材を伐採して家屋を建て、茸を育て、家畜を飼い、森に棲む動物を狩猟し、時には魔物も狩ることもあります。

 生活に密接するそれらが全てなので……。特にこの集落でだけ生産しているものというのは無いのです」

「あら、充分じゃないの。あなた達が森から回収した林産物、畑で栽培したもの、伐採した木材、育てた茸、家畜から得た産物、狩猟した魔物から得た素材……。

 そういった収穫物の3割を、国に税として納めてくれれば良いわ」


 できれば金銭で収めてくれるほうが楽ではあるのだけれど。今まで外との交流を全く持っていなかったハイエルフの集落に、それを求めるのは酷だろう。


「3割ですか……」

「負担が重いかしら? 相談には応じるけれど、当国にある都市と村落には一律で3割の税を課しているから、あまりこの集落だけを特別扱いも出来ないのよね」

「いえ、逆です。普通は5割か、それ以上の税を徴収する場合が多いと聞いていましたので。聞いていたよりも税負担が軽いことに驚いています」


 他国では大体5割程度の税を徴収しているところが多いと聞いている。なので、ファランダが漏らした感想は、自然なものだろう。


 収穫物の半分を国が持っていくというのは、江戸時代の五公五民に匹敵するものなので、現代人が聞くと『税を取りすぎ』なように感じるかもしれないけれど。

 この世界では、割と妥当な税負担だろうとユリは思っている。と言うのも、この世界には魔物の脅威が存在しているため、それに対抗できるだけの強固な軍隊を、必ず国家が保有する必要があるからだ。

 そして軍隊というのは大変な金食い虫でもある。充分な数の常備兵を養うだけでも相当な額が必要となるし、装備品を揃えたり、実際に軍隊を派遣運用する際に掛かるコストも加えると相当なものだ。


 5割程度の税負担なら至って妥当だろう。

 強制的な労役や徴兵などが無いなら、むしろ税負担として軽いぐらいだと思う。


「物納ですから、そちらの首都まで運搬して納める必要がありますよね?」

「いえ、納税は首都とは別の『ユリシス』という都市にして貰えれば構わないわ。この集落に『転移門』を設置させて貰うから、ユリシスの都市までなら一瞬で移動できる。物納品の運搬には大して苦労しないと思うわ」

「……転移門、とは?」

「まずはそこから説明が必要よね」


 ファランダが問いかけた言葉に、ユリは首肯する。

 それからユリは、隣に座るアマテラスと共に『転移門』の機能についてと、それが百合帝国と同盟国に於いてどのように利用されているかについても説明した。


「俄には信じ難いですが……。もしユリ陛下の言われる通り、離れた都市へ一瞬で転移できるものがあるなら、大変に便利なのは理解出来ます」

「言葉で説明されても簡単には信じられないでしょうね。この話し合いが終わった後に設置させて貰うから、まずは実際に使ってみると良いと思うわ」

「質問があるのだけれど。その『転移門』っていうのを設置すると、外部の人達もこの集落に来るようになっちゃうってことよね?」


 ほう、とユリは内心で感嘆する。

 まだ簡単にしか説明していないのに。メルファルーデが問いかけたその言葉は、『転移門』の持つ機能の要諦を、ちゃんと理解した上でのものだ。


「いいえ、メルファルーデ。『転移門』は利用可能な対象を任意に設定することができるから、原則この集落に設置する『転移門』を利用できるのは、ここに住んでいる人達だけにするつもりでいるわ。……まあ、例外的に国政の関係者だけは、利用させて貰うことがあるかもしれないけれどね。

 外部の人がこの集落に入り込んでくることは無いと思うから、安心して頂戴」

「つまり私達は一方的に、外の都市を利用できるようになるってこと?」

「そう考えて貰って間違いないわね」


 ユリが首肯すると。メルファルーデは「おおー」と嬉しそうに声を上げた。


 人口が多い都市でしか購えないものを、移動時間ゼロでいつでも買いに行けるというのは、言うまでもなく大変に便利なことだ。

 『転移門』を利用して移動できるのは、百合帝国の中でもユリシスとユリーカ、蓬莱の3つの都市だけに限られているけれど。これらの都市で揃わないようなものは、おそらく他国の大都市へ行こうとも、そうそう手に入るものではない。


「もちろん税を納めて貰う以上、当国の臣民に向けて提供されているサービスは、この集落の住民も享受することが可能になるわ。例えば『転移門』を利用した先の都市で神殿を訪問すれば、神官から治療魔法を受けることができる。

 ちなみに当国の都市・村落にある神殿では、原則として治療費を徴収していないので、無料で利用できるわ。もし入院が必要になった場合は、一般的な宿を利用するのと同程度の額だけは、宿泊費と食事代を貰っているけれどね」

「なんと……そうなのですか? 精霊魔法は怪我なら治せるのですが、疾病の類は治療できない場合が多いのです。なので、それはとても有難いですね」


 精霊魔法は神聖魔法に較べると、どうしても治療効果に劣る部分があるし、また治療可能な内容についても限定されてしまう。

 餅は餅屋とでも言うべきか、やはり治療は神官から受けるのが最良の選択だ。

 疾病を即日で完全に治療することができるので、他人に感染させるリスクを抑えられるのはもちろん、再発のリスクも封じることができる。


「それと、この集落の中で畑を広げる場合には、森を切り開く必要があるから大変でしょう? 畑を利用したい人は、申請してくれれば『転移門』で移動できる先の都市に、土地を用意してあげることができるわ。

 使わなくなった時には返還して貰うけれど、土地の貸与自体は無料よ。もちろん税として収穫物の3割を徴収させて貰うけれど、それは別にこの集落に畑を作っても同じことだからね」

「ふむ……。現在は住民数も結構増えておりますし、畑を貸して頂けるというのは有難い話ですね。栽培品目は好きに選べるのですか?」

「ええ、そちらで好きに決めて貰って構わないわ。また借りた畑には、希望すれば【遮蔽結界】と【調温結界】という、2種類の結界も用意できるわ。

 前者は畑に他者が侵入するのを阻害する結界で、これが有ると作物を魔物に荒らされることが無くなるわ。後者は畑がある場所の気温環境を任意に設定できる結界で、これを利用すると例えば結界内を『夏』の暑さに保ち続けて、実際の季節を問わずに夏の作物だけを延々と作り続ける、といったことができるわ」


 他にも、年に4度まで精霊魔法の使い手を派遣して畑の状態を改善し、土に栄養を与えると共に連作障害などを封じ込めるサービスなども行っているのだけれど。これについては別に、説明しなくとも良いだろう。

 ハイエルフは洩れなく精霊魔法の使い手だ。土の状態ぐらいなら、他人に助力を求めるまでもなく、自力だけで最良の状態を保てるはずだ。


「そこまで手厚いサービスがあると、農業を一度やってみたい気になるわね……」


 メルファルーデが漏らした言葉に、ユリは微笑む。


「興味があるなら、実際に挑戦して見ると良いと思うわ。約束通りメルファルーデの身柄は私のものにさせて貰うけれど、その自由まで奪うつもりは無いからね。

 ただ、メルファルーデは弓の優れた使い手でしょう? あなたの関心は畑作よりも『迷宮地(ダンジョン)』の方に向きそうな気もするけれどね」

「……迷宮地?」

「そちらの説明もしなければならないわね……」


 今回のように、新しく支配下に組み込まれる相手に百合帝国のことを逐一説明していくと。百合帝国という国家が、いかに他国と異なる行政を行い、臣民に奇異で特殊なサービスを行っているかというのがよく判る。


 百合帝国という国を興してから、およそ2年と1ヶ月。

 体感的には結構短かった気もするのだけれど、やはりそれだけの期間があれば、色々と国家として実現出来ることも多かった。

 自国の魅力についてファランダとメルファルーデの2人に説明していく度に、国家の運営を手伝ってくれている『百合帝国』の子達や、懇意にしてくれている人達の顔が浮かび、とても誇らしく思える。

 それはユリにとって、なかなか悪くない気分だった。


「そういえば―――ファランダにひとつ訊きたいことがあるのだけれど」

「何でしょう?」

「あなたはメルファルーデの母親なのよね? 自分の娘が、私に身柄を差し出して来たわけだけれど……それについて特に思うことは無いのかしら?」


 もしファランダが娘の身を案じ、メルファルーデの身柄の引き渡しを強固に拒否するようであれば、ユリはそれで構わないと思っている。

 据え膳は遠慮無く頂くほうだけれど、無理強いはユリの趣味ではないのだ。


「ええ、特に思うところはありません。

 そもそも、人間の方には若く見えるかもしれませんが……メルファルーデは既に500歳を超えていますからね。完全に自立してからも久しく、別に母親だからといって、最早どうこう言うような年齢では無いのです。

 それに―――私には既に20名以上の子がいますからね。実娘だからといって、そこまで特別な感情も無いというのも正直なところでしょうか」

「お、おお……多産なのね……」

「森の中に住んでいると、どうしても娯楽に乏しい部分がありますから」


 まあ、ユリの感覚だと17~18歳ぐらいに見えるメルファルーデが500歳を超えているというのだから。40台の後半に見えるファランダの年齢は、少なくとも4桁には達していることだろう。

 それ程に長い年月を生きているのなら……。20名以上の子が居るというのは、割と普通のことなのかもしれなかった。


 ちなみに、ハイエルフはあまり特定の相手だけに執着しない傾向があるらしく、ファランダはこの集落に住む男性の多くと関係を持っているらしい。

 いわゆるポリアモリー的な考え方が、種族全体にある感じなのだろうか。




 

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