247. ハイエルフの集落(前)
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高度を更に落としたユリが、アマテラスと共に林冠を抜けてハイエルフの集落へ降り立つと。すぐに集落に住むハイエルフ達が次々と姿を現し、明確な敵意を向けてきた。
数にして100名ぐらいは居るだろうか。それほどの人数のハイエルフ達から、一斉に矢や槍の切尖を向けられるけれど。ユリにしてもアマテラスにしても、その程度のことを気に留めたりはしない。
「―――【配下NPC召喚】!」
ユリは即座にスキルを行使し、ここに降りてくるまでの間に名前を諳んじていた子達を、その場に召喚しようとする。
スキルを行使したユリの姿を見て、反射的に何人かのハイエルフがユリに向けて鋭い矢を放った。
どんな効果があるか判らないスキルの使用を、妨害しようと放ったものだろう。その判断力と行動の素早さについては、感心できる部分もある。
だが―――ハイエルフ達が放った矢が、ユリの身体を傷つけることは無かった。
隣に立つアマテラスが障壁を展開し、矢の全てを弾き飛ばしたからだ。
ユリが行使した【配下NPC召喚】に応えて、その場に9人の少女が姿を現す。
パルフェとヘラとカシア、プリムラとヘンルーダとミザール、サクラとホタルとセラの9人だ。いずれも『百合帝国』が誇る戦闘部隊の隊長を任されている子達であり、その実力の高さについては最早語るまでもない。
唐突に9名もの追加戦力が出現したことに脅威を感じたのか、すぐにハイエルフの射手達が第2射を放ってくるが。やはりそれも、アマテラスが張った障壁を貫くことはできず、あっさり弾かれる。
続けざまに第3射、第4射も飛んで来るものの、結果が変わることは無い。
良くも悪くも、レベル100に見合った実力しか持たないハイエルフの射手に、レベルが『2520』もあるアマテラスの障壁を破れる威力がある筈もないのだ。
「退路も塞ぎますか?」
「あら、お願いしてもいいの?」
「容易いことです」
アマテラスは詠唱すら口にすることなく、一瞬の内にハイエルフの集落を丸ごと包囲する【障壁結界】を構築して見せた。
【障壁結界】は外からの侵入者を防ぐために用いることが多い結界だが、結界内に居る対象を『閉じ込める』ことにも活用できる。
障壁ひとつ破壊できない彼らの実力では、もはやアマテラスの許しなくこの集落から出ること自体、不可能となったと言って良いだろう。
「ご主人様、いかがなさいますか?」
いつの間にかすぐ傍に立っていた『撫子』隊長のパルティータが、ユリにそう問いかけてきた。
『撫子』は戦闘部隊ではないので、彼女のことは【配下NPC召喚】のスキルで喚んだ覚えは無いのだけれど……。
いつの間にかしれっと混ざっている辺りが、何とも彼女らしい。
「ま、取り敢えずは話し合いでしょうね」
パルティータにそう応えて、ユリは数歩歩み出る。
ハイエルフ達の持つ敵意や戦意の高さから考えても、話し合いで解決するとは思えないが。それでも―――知性無き獣ではないのだから。一応は『最初に話し合いでの解決を試みる』という姿勢を持つことは大事だろう。
既にこの集落は【空間把握】の魔法下にある。
ユリは集落住人との『絆』を確立し、念話でその場の全員に話しかけた。
「―――私は百合帝国の女帝で、ユリと言うわ。そちらの集落の代表者と話がしたいのだけれど、可能かしら?」
直接脳内に語りかけたユリの声に反応して、その場に居るハイエルフ達の多くが驚愕を露わにした表情を浮かべてみせた。
初めての『念話』の体験に混乱したのか―――僅かな静寂の時間があった後に、集落の中には途端に悲鳴と叫声が混じった喧騒ばかりが溢れる。
ハイエルフというのだから、もっと静寂を愛する落ち着いた人達なのかと思っていたのだけれど……。結局は彼らも人族の一種に過ぎず、何も変わらないようだ。
もう何度目か判らない矢が、ユリに狙いを定めて真っ直ぐに飛来する。
当然、その矢にアマテラスの障壁を破るだけの威力はない。当然あっさり弾かれるわけだけれど、構わず矢継ぎ早に何本もの矢がユリへと射掛けられてくる。
「こうも何回も飛んでくると、流石に鬱陶しいわね……。
ヘンルーダ、対処をお願いしても良いかしら?」
「喜んで! ユリ様を射ようとする相手に、生きる価値はありません!」
「……無力化してくれれば良いから、殺す必要は無いわ」
「流石はユリ様! 何とも慈悲深きお心です!」
ヘンルーダが嬉しそうにそう告げながら、弓に4本の矢を同時に番えてみせる。
これは『束ね射ち』と呼ばれる弓技のひとつだ。同時に複数の矢を飛ばすため、本来であれば矢の威力も命中性も、著しく落ちるものなのだけれど―――。
同時にヘンルーダの弓から放たれた4本の矢が、それぞれに全く別の場所に居たハイエルフの射手の元へと向かう。
もちろん狙われたハイエルフ達は咄嗟に遮蔽物に身を隠すけれど、そんなことに意味は無い。ヘンルーダが放ったのは『精霊を変化させて作った矢』であり、その矢には精霊の『意志』が存在する。
遮蔽物を迂回すべく、精霊の意志によって有り得ない軌道を描いた矢が、違うことなく4人のハイエルフ全員の右腕に命中した。
もちろん威力も半端ではなく、あっさりハイエルフ達の腕が吹き飛ばされた。
弓矢は両手が揃っていなければ用いることが難しい武器だ。強制的に隻腕にされてしまえば、彼らはもうこちらへ矢を射掛けてくることは出来ないだろう。
「―――これで少しは静かになるかしらね。私は『話し合い』がしたいとそちらに提案しているの。代表者でもない有象無象は、暫く静かにしていて頂戴」
相手の腕を欠損させるぐらいのことは、ユリは何とも思わない。
性向が『極悪』であるユリは、敵と味方の区別を明確に行う。
この集落に住むハイエルフ達は、百合帝国の財産であるロフスドレイクを殺し、更に騎乗していた臣民の命を奪った時点で明らかに『敵』だ。
相手が腕を失おうと命を失おうと、ユリが心を乱されることは無い。
「何が話し合いだ! 先に攻撃を仕掛けてきたのはそちらだろう!」
「そうだそうだ! 卑劣なる侵略者め!」
「旦那を殺しておいて、よくそんなことが言えるわね!」
ユリの言葉を受けて、集落に住むハイエルフ達が口々に抗議の声を上げた。
とは言っても―――先程ヘンルーダが放った矢の威力に恐怖したらしく、少し前までユリ達を包囲していたハイエルフ達は、今は家屋などにその姿を隠している。
姿を見せずに、威勢の良い言葉だけを口にするその様子は。何と言うか……あまりにも滑稽で、そして情けないものだった。
(……面倒ね)
そう思い、ユリが〈支配者の威厳〉のスキルをオンにすると。
ハイエルフ達が上げる喧騒があっという間に静まり、再び静寂が戻って来た。
〈支配者の威厳〉は周囲の者に《萎縮》の状態異常を与える効果がある。
そして《萎縮》の状態異常は、彼我のレベル差に応じて効果が増す。
ハイエルフ達のレベルはそれなりに高いが、ユリに較べると『100』近いレベル差があるため、その効果は強烈なものとなる。
中には気圧されるだけで済まず、身動きひとつ出来なくなった者もいるようだ。
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