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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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248/370

246. 誓約

 



 ユリは転移魔法をロフスドレイクの亡骸に対して行使する。


 転移魔法は行使する際に意識すれば、特定の相手や物品だけを、転移の対象から除外することができる。

 ユリは意図的に『エルヴンアロー』だけを除外して行使することで、ロフスドレイクの死体だけを2m先へと転移させ、亡骸に刺さっていた矢を全てその場に落下させることに成功した。

 地面に落ちた矢は、事前に召喚していたシルフが風を操作することで全て回収して、ユリの手元にまで運んできてくれる。


「ありがとう、シルフ」


 ユリが優しく頭を撫ぜると、小さな風の妖精は嬉しそうにはにかんでみせた。

 シルフが集めた30本ほどの矢を、そのままユリはアマテラスへと手渡す。


「矢が飛んだ先が判り易いように、少し高度を取りましょうか」


 これから行うことを理解しているアマテラスが、天を見上げながらそう告げる。

 けれど、準備をすっかり失念していたユリは、困ったように眉を落とした。


「ああ……。ごめんなさい、靴を履き替えるからちょっと待って貰っても?」

「シルフから力を借りて飛べば良いのでは無いですか?」

「疲れるから嫌なのよ……」


 ユリは『(リンク)』を活用することで、使役獣が持つスキルや魔法、魔術などを、あたかも自身が修得しているかのように扱うことができる。

 但し、これを行うには使役獣との『絆』をかなり強く太いものに確立しなければならず、実行すると非常に疲れることが過去の経験から既に判っていた。


 魔力の消費自体は、今のユリにとっては大したこと無いのだけれど。必要も無いのに、疲労すると判っている行為に耽るような趣味はユリには無い。

 疲労に見合う分だけ、愛しい女の子が喘いでくれるというのなら別だが。


「……ん。準備できたわ、飛びましょうか」

「はい」


 〈インベントリ〉から取り出した『黒羽根の靴』に履き替えてから、ユリはアマテラスと共に空へと舞い上がる。

 装備に頼って飛行するユリとは違い、アマテラスは自力だけで空を苦もなく飛翔することができるようだ。まあ―――彼女が毎日天高く昇る『太陽』を司る神であることを考えれば、それぐらい出来て当然なのかもしれないが。


「このぐらいで充分でしょう」


 アマテラスが停止したのは、結構な高さまで昇ってからだった。

 地上1000m程度の高度はあるだろうか。周囲を眺めると、幾つかの雲が今のユリ達とちょうど同じぐらいの高さに浮いているのが確認できた。


「ユリ、準備はよろしいですか?」

「臣下の子達に伝えるから、ちょっと待って」


 ユリはギルドチャットを利用して、ハイエルフの集落を監視している『撫子』の子達に呼びかける。

 そして彼女達に、今から森の中へと落とされる矢がハイエルフの集落内へ落ちるようであれば、その到達先を観測して欲しい旨を通達した。


「いいわ、やって頂戴」

「判りました」


 アマテラスは両手で胸に抱えていた30本程の矢から、その場で手を離す。

 それでも―――矢は空中に留まったまま、落ちる様子が無い。既にアマテラスの神力が充分に浸透しており、物理法則より優先する力に支配されているからだ。


「―――高天原の主宰神たるアマテラスが占断せん。これらの矢が、もしロフスドレイクとその騎乗者に害を為さんとして放たれた矢であれば、射掛けし者の元へと還りて当たれ。もしロフスドレイクに魔物の脅威を感じ、自衛の意志のみによってこれを攻撃したのであれば、射掛けし者の元へ往還すれども当たるな」


 アマテラスの言葉を受け、浮遊する30本程の矢が金色の強い光を帯びる。

 そして―――まるで意志を持つかのように、森の一所に向かって降り注いだ。


「どうやら、あの辺りにハイエルフの集落があるようですね」


 矢が降り注いだ地点を眺めながら、アマテラスがそう告げる。


「そうみたいね。私達も降りましょうか」

「ええ」


 アマテラスがいま行ったのは『誓約(うけい)』と呼ばれる占いの一種だ。

 これを行えば、宣言した事象のどちらが起こるかによって、未来・過去を問わず何でも占い、真実を知ることができる。

 今回の場合であれば、ロフスドレイクへ矢を射た者が『騎乗者もろとも害を与えよう』として矢を射たのか、あるいは『自衛』のために矢を射たに過ぎないのか。それを、どちらの結果が起こるかによって見極められるというわけだ。


 実質的に、自分に都合の良い事象を起こすことが出来てしまう能力なので、あくまで占いの一種でありながらも、この力の実用性は非常に高い。

 アマテラスが送り返した矢は、ロフスドレイクを殺した相手を確実に炙り出すことだろう。更には、もし相手が害を為さんとして放った矢であるなら、射手の元へ返って確実に命中する攻撃にもなるわけだ。


『―――矢はハイエルフの集落にある6軒の家屋へ落ちました。いずれの家屋でも悲鳴が上がると同時に、俄に騒がしくなっております。但し残念ながら、矢が敵に命中したか否かや、相手に与えた被害の度合いまではまだ判りかねます』

「報告ありがとう、レクイエム。集落の監視を継続して頂戴」

『はい、ご主人様』


 ギルドチャットで観測結果を教えてくれたレクイエムに、ユリは感謝を告げる。

 ちなみにレクイエムは『撫子』に所属する子の1人だ。もちろんユリには、ギルドチャットで聞こえてきた声だけで、彼女であることがすぐに判った。


「……ふむ。つまり射手が6人居たということでしょうか」


 ユリの口から報告を又聞きしたアマテラスが、そう感想を漏らす。

 まあ、ロフスドレイクの骸に30本近くもの矢が刺さっていたことを考えると、射手の人数がそのぐらい居るのは自然なことだろう。


(とりあえず、敵集落の全容を把握しておくべきでしょうね)


 相手の人数も判らずに戦いを仕掛けるのは、馬鹿のやることだ。


「アマテラス、少し止まって頂戴。詠唱を伴う魔法を使うわ」

「判りました」


 ハイエルフの集落がある地点の、高さ400m辺りまで降りてきたユリ達は、その位置で浮遊したまま停止する。

 集落があるだろう位置を空から見下ろしても、森の緑しか見えないけれど。ユリには仲間NPCが存在する位置が―――つまりハイエルフの集落を監視を行っている『撫子』の子達が居る位置がはっきりと判る。


「―――全てを我が前に曝け出せ、【空間把握】!」


 90秒間の詠唱の後に、ユリは【空間把握】の魔法を行使する。

 『撫子』の子達が包囲している、半径300m弱の区域(エリア)が丸ごと収まるように、魔法を行使したわけだ。

 この魔法の効果により、ユリはハイエルフの集落に住まう人達の人数やレベル、能力値、修得しているスキルや魔法、装備品といった情報を、一瞬のうちに纏めて詳らかにしてしまう。


「住民の人数は全部で625名、その中で特に戦闘に長けている者は140名ね。レベルは最も高い者で『97』とまあまあだけど、能力値的にも修得しているスキルや魔法的にも、我々の脅威となる相手は居なさそうよ」


 看破した情報を、即座にユリはギルドチャットを介して『百合帝国』の全員に周知すると共に、隣にいるアマテラスにも伝達する。


 ハイエルフの集落に住む者達が有しているのは『天職』だけで、『職業(クラス)』は取得していないようだ。

 おそらくは森に集落を作り、宗教と無縁の生活を送っている為に。神殿施設で儀式を受ければ『職業』を得られるということ自体を、彼らは全く知らずに生きているのだろう。


 レベル『97』はなかなかのものだけれど……。『天職』だけしか持たない相手というのは、それだけで大幅に実力が値引きされているようなものだ。

 上位種族だからといって能力値が優れているわけでもないようだし―――。

 ―――まず間違いなく、ユリ達の敵では無いだろう。



 

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