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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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247/370

245. 亡骸の調査

 


     [3]



 およそ1時間後に、ユリタニア宮殿まで来てくれたアマテラスと合流してから。ユリは転移魔法を行使して、新たに『転移ポイント』に登録した地点へと飛ぶ。

 転移した先の、本当にすぐ目の前にロフスドレイクの死骸が転がっていたものだから、少しだけユリは驚かされてしまった。

 ユリの後ろでは、アマテラスが「ひっ」と小さな悲鳴を上げている。


「……これは、酷いわね」


 亡骸を眺めて、ユリは悲しい気持ちになる。

 ロフスドレイクの身体に、無残にも突き刺さっている30本ばかりの矢の数々。

 (から)が長めの矢が針山のように突き刺さっている様は、特に動物愛護の精神を持ち合わせていないユリから見ても、随分と残酷な仕打ちであるように見えた。


 また事前に報告があった通り、ロフスドレイクの骸には槍が突き刺された痕跡が2箇所確認できた。

 穿痕の1つは腹側部にあり、もう1つは頸部の側面にある。

 前者は射落とした後にロフスドレイクの状態を確認するために突き刺した痕で、後者は確実にトドメを刺すために急所を貫いた痕だろう。


「和弓用ほどではないですが、やや長めの矢ですね。ロングボウ用でしょうか?」

「おそらくは、そうでしょうね」


 アマテラスの言葉に、頷き答えながら。試しにユリはロフスドレイクの骸に突き刺さっている矢を1本引き抜き、〈鑑定〉スキルで詳しい情報を()てみる。




----

 □エルヴンアロー/品質[73]


   物理攻撃力:42


  * エルフの里に植えられる樹木の柄と、エルフの錬金術師が作成した

    鏃を合わせることで生産された矢。


----




 どうやらこの矢は『エルヴンアロー』と言うらしい。

 名称と説明文から判断するに、矢を射たのは十中八九エルフの仕業だと判断して間違いないだろう。エルフ以外の人族が、わざわざエルフに関わりある素材で作られた矢を使うとは考えづらい。


「なかなか性能が高めの矢ですね。素人が使う物では無さそうです」

「……そうね。今回の相手は、雑魚とは見なさない方が良いかもしれない」


 矢の攻撃力は、大体射手のレベルの半分程度が目安となる。

 攻撃力が42の矢なら、大体『84』レベル付近の者が使うと丁度良いわけだ。

 それ以上のレベルの者が常用するには性能が見劣りするし、逆にそれ以下のレベルの者が常用するには、稼ぎの割に矢のコストが高くつくだろう。


 レベル『84』となれば、『迷宮地(ダンジョン)』を利用する探索者で賑わうユリシスの都市でも、充分に一線級として認められる実力があることになる。

 レベルが『200』であり、しかも課金装備を満載しているユリ達からすれば、それほど脅威となる相手ではないが。少なくともロフスドレイクなら、苦もなく殺せる程度の腕前はあるわけだ。

 ロフスドレイクの騎乗していた者も、レベル『84』付近の敵が相手となれば、全く歯が立たなかったことは想像に難くない。


「―――ご主人様」


 不意にユリの背後から、掛けられる声があった。

 もちろんユリは振り向くまでもなく、それが誰なのかすぐに判る。


「その声はフォルラーヌね、どうしたの?」

「はい、ご報告に上がりました。既にこの近辺の『大森林』外縁部にハイエルフの集落があることが、複数の『撫子』の者によって確認できております」


 フォルラーヌは『撫子』に所属するメイドの1人だ。

 大変に生真面目な性格をしているけれど、2人きりの時にだけはよくユリに甘えてくれる子だ。残念ながら今は近くにアマテラスが居るので、彼女は毅然とした姿勢を崩すつもりは無いようだけれど。


「フォルラーヌも森の調査に参加してくれていたのね、ありがとう。

 ところで相手の集落の規模は―――って、ハイエルフ(・・・・・)?」

「はい。〈鑑定〉で確認しましたので間違い御座いません。近くにある集落に住むエルフ達は、おそらくその全員がハイエルフです」

「それはまた……」


 ハイエルフとは、エルフの上位とされる種族のことだ。

 『アトロス・オンライン』のゲームでは、メインシナリオに絡む特殊なNPCの一部がこのハイエルフとされていて、プレイヤーや仲間NPCには選択が不可能な種族という扱いになっていたが。

 どうやら―――この世界には、普通にハイエルフなる種族が存在するらしい。


「フォルラーヌ。『撫子』の皆には、充分に警戒するように伝達しておいて頂戴。仮に相手のレベルが全員100以下だとしても、ハイエルフという未知の上位種族である以上、こちらより弱いとは限らない。……くれぐれも、単独で喧嘩を吹っ掛けたりはしないようにね?」

「承知しました、すぐに全員に伝達しておきます」


 まあ、仮に相手の実力がこちらより上だとしても。ユリや『百合帝国』の皆は、殺されても生き返れることが既に判明しているので、特に問題は無いのだが。

 とはいえ―――戦うに際して、わざわざ敗北の可能性が高いやり方を選ぶ必要も無いだろう。少なくとも、戦闘部隊ではない『撫子』だけで戦わせるというのは、流石に考え物だ。


「ユリ」


 指示を受けたフォルラーヌが場を去ると、アマテラスがそう名前を呼んだ。


「どうするのです? 誓約(うけい)を行えば、確実に敵意を煽ることになると思いますが。相手の実力が測れない間は、様子見した方が良いのではないですか?」

「いいえ、アマテラス。やって頂戴」

「……宜しいのですね?」

「ええ」


 確認するアマテラスの言葉に、ユリは迷うことなく首肯する。


 相手は国の財産であるロフスドレイクを屠ると同時に、おそらくは騎乗していた百合帝国の臣民も害している。

 強者なのか弱者なのか判別がつかないとしても―――自身の財産と民に手を出してきた敵が存在する以上、戦闘を回避するという選択肢はユリの中に無かった。



 

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