217. 2年目の結び(中)
『最近1話1話が短すぎだろう』と思われるかもしれませんが、これは私が暑さにすっかり参っているせいです。
今日も凄く短くて申し訳ないです。せめて前後編で終わらせたかった……。
最近は早朝でさえ暑過ぎると思うのですが、何とかならないものでしょうか。
*
「今年も代わり映えのしないもので、申し訳無いのだけれどね」
「わぁ……!」
預けていた『撫子』の子から回収して来たばかりの、蕎麦が入った6人分の器をユリが〈インベントリ〉から取り出し、炬燵の卓上に並べていくと。
まだ熱々の湯気を湛えているその料理を見て、エシュトアが嬉しそうな声を漏らした。
「ご主人様の故郷の料理なのですよね」
「―――ええ、そうよ。ユベルがまだ知らないと思うから説明させて貰うけれど、これは『蕎麦』という麺料理で、今日みたいな年末に好んで食べるものなのよ」
「なるほど……。麺料理は好物なので、とても楽しみです」
そう告げて、ユベルが嬉しそうに顔を綻ばせた。
元々この世界に『麺料理』のようなものは殆ど無かったらしいのだけれど。この2年間で百合帝国の国内では、一気に普及が進んでいた。
原因はユリが毎日行っている『放送』コンテンツの1つとして、『百合帝国』の調理番を務める〈耀食師〉のユーロが調理する料理を撮影した『料理番組』を、定期的に流していることにある。
この『放送』ではレシピが紹介されるだけでなく、実際に料理が作られていく手順を視聴者が見て確認できるため、国内のあらゆる料理人にとって絶対に見逃せない番組となっている。
その中でユーロがこれまでに幾度となく『麺料理』を紹介してきたことで、一気に国内では食文化が広まったというわけだ。
特にユリシスの都市では現在、屋台の5台に1台ぐらいが麺料理を専門で振る舞う店になっている。
調理時間が短いため短時間で客に提供され、腹持ちも良いことが『迷宮地』に潜る探索者には受けが良いのだろう。
そのユリシスの都市で暮らしており、健康になったことで探索者としての活動も始めているユベルが、麺料理を愛好しているというのは頷ける話だった。
「あ、でもこれは私が普段食べている麺料理とは、全然違う香りがします」
「スープの材料が全く異なるからね。主に海の材料から味を出しているのよ」
「海のですか? こんな内陸で海の味が楽しめるなんて……嬉しいです」
目の前に置かれた蕎麦の器の香りを確かめて、ユベルが嬉しそうに目を細めた。
どうやら鰹出汁の香りは、ユベルにとって心地良いものであったらしい。この様子であれば、きっと彼女にも気に入って貰えることだろう。
「今年も麺はユーロ様がお作りに?」
「いいえ、リゼリア。今年は私が作ったわ」
「わ、そうなのですね。旦那様の手打ちだなんて、贅沢です」
「まあ、出来はあまり期待しないで頂戴」
ユリは半ば苦笑気味に、リゼリアへそう言葉を告げた。
料理はユリの趣味としてすっかり定着しており、現在では〔調理Ⅳ〕までスキルを修得している。だから出来にもそれなりの自信はあるのだけれど―――。
とはいえ、それでもレベル200の〈耀食師〉であるユーロが作るものに較べれば、遙かに劣ることは言うまでもなかった。
「あ、ご主人様。私には箸を頂けますでしょうか?」
〈インベントリ〉から取り出したフォークを皆に配っていくと。不意にソフィアが、そんな風にユリへ告げてきた。
「あら、使えるようになったの?」
「はい。少し前に日河比売ちゃんに教えて貰いました」
「……そ、そうなの」
ヒカワヒメは『蓬莱』にお迎えしている水神の1柱だ。
人見知りをする性格らしく、神々の統括役であるアマテラスでさえ、普段あまり会話をする機会が無いのだと聴いているけれど。
そんな相手でさえ―――ソフィアになら関係を築くことは造作もないらしい。
相変わらず異常なコミュニケーション能力の持ち主だと、舌を巻くばかりだ。
……ちなみにヒカワヒメは大変に可愛らしい少女なので、お近づきになりたくてユリも幾度となくコミュニケーションを試みたことがあるのだけれど。少なくとも現在までは、悉く失敗していた。
次回コンタクトを試みる際には、いっそソフィアにお願いして、対面の場を用意して貰う方が賢明なのかもしれない。
「あ、私もアマテラス様にお願いして、お箸の使い方を教えて頂きました」
「あら。ロゼロッテは流石ね」
炬燵の左斜め前に座るロゼロッテの頭を、ユリは褒めながら優しく撫ぜる。
神域都市『蓬莱』にある料理店は、その大半がお迎えした神々によって経営されているので、何も言わなければ来店した客には当然のように『箸』が提供される。
そんな都市なので、『蓬莱』の領主役を引き受ける以上は、最低限『箸』の使い方ぐらいは習得しておく必要がある―――と、おそらくロゼロッテはそのように考え、頑張って覚えたのだろう。
何とも、生真面目で努力家なロゼロッテらしい所だ。
もちろん、そんな相手だと理解しているからこそ、ユリも安心して彼女に領主役を任せることが出来るわけだけれど。
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