215. 総括と展望(後)
ユリの言葉を受けて『薔薇』の名を持つ3部隊に所属する子達が、明らかに狼狽した様子を見せた。
まあ―――その反応は当然のものだろう。本来であれば交易路の敷設は、工作部隊である『桔梗』が担うべき役割だ。それを戦闘部隊の『紅薔薇』や『黄薔薇』、『青薔薇』に任せようというのだから、彼女達が混乱を覚えるのも無理はない。
「姫の命とあらば、我々に異存はありませんが。……何故我々なのでしょう?」
3部隊を代表して、そう問いかけてきたプリムラの言葉に。
ユリは静かに一度頷いてから、落ち着いた調子で回答する。
「もっともな疑問ね。まず、これは言うまでも無いことだけれど―――『桔梗』の子達はほぼ常に何らかの建造仕事が割り当てられていて、逼迫した状態にあるわ。
予てより私は、国内の交易路を荷馬車が快適に走行できるよう、もう少し上等なものに整備したいと思っていたのだけれど……この上『桔梗』に都市の建造だけでなく、交易路の敷設仕事まで割り当ててしまうと言うのは、流石に酷使しすぎだと思うのよ」
「なるほど。それで私達に―――ということですか?」
「『黄薔薇』と『青薔薇』は精霊魔法を得意としているわね?」
「はい、ユリ様! 大得意です!」
「頼もしい返事ねヘンルーダ。望む儘に大地の精霊の助力を得られるあなた達は、土砂や岩盤、植物などに干渉することが可能でしょう?
起伏の多い土地を平らに均したり、あるいは逆に平坦な土地を岩盤で埋め尽くして遮蔽物の多い地形に変えたり。そういうことが容易に出来ると思うのだけれど」
「問題ありません!」
「はい、大丈夫だと思います」
ユリの問いかけに、ヘンルーダとミザールがそれぞれ首肯する。
嘗て『アトロス・オンライン』のゲーム内で行われていた『ギルド戦争』の際にも、即席の塹壕ぐらいなら『桔梗』に頼らず、『黄薔薇』や『青薔薇』の子達が造ることがよくあった。
―――要は、それの応用だ。
結局のところ交易路とは、荷馬車が走りやすい道でさえあれば良い。
車が揺れるのを抑えるために路面にある岩石を取り除いて平坦にし、雨天時にも地面がぬかるまないよう路面を砂利や石畳などで被覆する―――。
そのレベルの作業しか求めないのであれば、別に『桔梗』の子達に頼らずとも、『黄薔薇』や『青薔薇』の子達が精霊魔法を駆使すれば、充分に務まるのではないかと考えたのだ。
そのことをユリは口頭で説明し、それからヘンルーダとミザールの2人に問う。
「試しに『桔梗』の手を借りず『黄薔薇』と『青薔薇』の部隊でそれぞれ、ユリタニアと近隣村落を結ぶ交易路の敷設を担当してみて貰えないかしら。
もし上手くいくようであれば、あなた達を頼りに出来る案件がひとつ増えるし、仮に失敗したとしても、それはそれで全く構わないから」
「承知しました! 精一杯やってみます!」
「立派な交易路をユリ様にお披露目できるよう、最善を尽くします」
「ありがとう、ヘンルーダ、ミザール。成果を楽しみにしているわ」
『百合帝国』には全部で12の部隊があるが、その内の実に9部隊が戦闘に特化された能力を有している。
けれど先にも宣言した通り、ユリは少なくとも今年いっぱいは他国へ侵略戦争を行うつもりが無いのだ。なればこそ『黄薔薇』や『青薔薇』といった戦闘部隊の子達にも、当面は内政の一部を担って欲しかった。
「姫。『紅薔薇』は、別方向からのアプローチを。即ち『魔法』では無く『魔術』を用いて、同じことができないかを試せば良いわけですね?」
「プリムラは話が早くて助かるわね。お願いできるかしら?」
『紅薔薇』の部隊は〈六星賢者〉の職業を持つ子達だけで構成された部隊だ。
彼女達は精霊を使役する『魔法』こそ扱えないけれど、あらゆる属性の『魔術』を行使することができるため、大地に干渉する術も当然有している。
なので、もし『黄薔薇』や『青薔薇』の子達が上手く行かなかったとしても。『紅薔薇』が別方向のアプローチから、交易路の敷設を上手く成し遂げてくれる可能性は充分に有り得るのだ。
「……出来る限りの努力はしてみましょう」
「ありがとう、プリムラ。『紅薔薇』からの報告を楽しみにしているわ」
「はい。あまり期待せずにお待ち下さい」
自信無さそうな口振りにも聞こえるけれど。プリムラは慎重な性格であり、実現の可能性が判らないことに対して、安易に『出来る』と口にしたりはしない。
だからプリムラからは『出来る限りの努力はする』という言葉を貰えれば、それで充分だった。
その言葉通り、彼女は最善の努力を果たしてくれることだろう。
「というわけで、薔薇の3部隊には交易路の敷設を任せるから、従来の『駆逐』は当面、他の部隊だけで頑張って貰うことになるわ。
ヴォルミシア帝国を征服したことで国土も随分拡がってしまったし、大変だとは思うのだけれど……どうか無理をしない範囲で、頑張って頂戴」
「問題ありません、主君。この世界の地上に居る魔物は雑魚ばかりですから、駆け回るのが些か手間というだけで、処分には然程苦労もしませんので」
「まあ、それはサクラの言う通りなのだけれどね……。
ああ―――それと、今後は『空輸』を重視していくことになるから、特に空を飛行する魔物は漏らすことなく、きっちり処分しておいて貰えると助かるわ」
「はい、お姉さま。それについては重々承知しております」
ロフスドレイクはレベルが低い魔物が相手であっても、簡単に負けてしまう程度の脆弱な戦闘能力しか備えていない。
もし空を飛ぶ魔物に襲われることがあれば、騎乗者もろともあっさり命を失うことになるだろうから、ここは徹底しておく必要があった。
「生産部隊の『竜胆』には、特に私から言うことは無いわ。あなた達に関しては、私から何をしろと命じるまでもなく、どうせ各々が勝手に得意とする分野で成果を上げてくれるでしょうからね。
ただ、今後は都市や村落に、そして出来れば交易路にも『街灯』を順次設置していきたいと考えているから、その量産体制だけは手配して貰えると助かるわ」
「承知しました。それについては私がしっかりと担当致します」
「ありがとう。頼むわね、クローネ」
生産部隊『竜胆』の隊長を務めるクローネは、特に魔導具の生産を得意とする。
ユリが求めている『街灯』も魔導具の一種なので、クローネが頑張ってくれれば量産体制がすぐに整えられることだろう。
「『撫子』には、百合帝国と同盟国の周辺にある国家の情報収集をお願いするわ。今年いっぱいは他国を侵攻するつもりは無いけれど、もし相手が私達に向けて拳を振り上げてきた場合には話が別だもの。そうした事態にも即対応できる程度には、常日頃から各国の情報が適宜収集されている状態が望ましいわね」
「承知致しました、ご主人様。周辺諸国を丸裸にしてご覧に入れます」
「ええ。頼りにしているわ、パルティータ。
それでは皆―――来年の1年間もまた、有意義な年にするよう、各人が努力することに致しましょう。この百合帝国を、我々にとって住み良い国にするためにね」
「「「はっ!」」」
この国を。引いては―――この世界の全てを。
私と私の愛する子達にとって、いつまでも幸せに暮らせる場所にするために。
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