213. 総括と展望(前)
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―――年末の『冬月40日』。
この日、ユリタニア宮殿1階にある『謁見の間』に、1000名を超える者達が集まっていた。
年端もいかぬ少女から充分に大人と言える淑女まで、『謁見の間』に集う人達はいずれも若々しい女性ばかりだ。
その内の360名は人族の限界であるレベル200に達しており、それ以外の者でさえレベル150未満の者は全く見当たらない。
しかも玉座の隣に立つ2人に至ってはレベルが『1710』と『4000』と、どちらも人族の限界を遙かに超越した強さを誇っていた。
「―――皆、本日はよく集まってくれました」
玉座に在る少女―――ユリが、声を掛けると。その場にあった小さなさざめきが一瞬にして静まり、1000もの人達が犇めく謁見の間に静寂だけが満ちた。
玉座の隣に立つ2人の女性は『源悪の魔女ロザミア』と『氷竜リンドヴルム』。
そして玉座から数段低くなった場所で、床に片膝を付いてユリに対する忠誠を示すのは『百合帝国』の子達と、召喚されたその従者達だ。
『百合帝国』に所属する子達の全員が【従者召喚】スキルを行使したなら、その総数は少なくとも1500名以上には達するだろう。
だから現在『謁見の間』に居る従者達は、これでも一部だけに過ぎない。
「百合帝国は明日で建国から、無事に3年目を迎えることが出来るわ。言うまでもないけれど、これは偏に皆の助力あってのこと。
―――いつも皆、ありがとう。そして、これからも頼りにしているわ」
「勿体ないお言葉です、お姉さま」
「我等の力は、常に姫様の為にあります。如何様にもお使い下さい」
「ええ、有難く頼りにさせて頂くわ」
『白百合』隊長ヘラの言葉に、ユリは鷹揚に頷く。
それから、僅かに眉を落としながらユリは言葉を続けた。
「それと皆にはひとつ、詫びておかなければならないことがあるわ。今から1年と少し前に、私は皆に対して『向こう2年間は更なる国土の拡張を望まない』という意志を伝えていた。そして私のこの希望を、皆は尊重してくれてもいたわ。
―――にも拘わらず、知っての通り私はヴォルミシア帝国の国土を自ら主導して征服するに至っている。もちろん理由は幾つもあるけれど……それでも、私自らが戒めたことを破るというのは、世辞にも褒められた行いでは無いでしょう。これについては改めて、この場で皆に謝罪させて頂くわ」
そう告げて、ユリが小さく頭を下げると。『謁見の間』に集まっている子達の間に、抑えられつつも小さな動揺の声が溢れた。
「そのようなことを言うものではないわ。ユリを侮辱されることは、何より私達にとっても酷く耐え難いこと。もしユリがヴォルミシア帝国の征服を主導していなければ、真っ先に『黒百合』が彼の国を滅ぼしていたことでしょう。
―――後でユリに叱られると判っていても、我慢できることでは無かったもの」
「こればかりは『紅薔薇』としても全く同感です。姫への侮辱は断じて許せることではありません。『放送』を見たことで、この場に居る誰もがヴォルミシア帝国に対する耐え難い憎悪を感じていました。
むしろ姫が主導して下さったお陰で、轡を揃えて彼の国へ侵攻することが叶い、皆が等しく溜飲を下げる機会を得られたのですから。大変有難いご判断でした」
「ふむ……。カシア、プリムラ。あなた達の気持ちはよく判りました。
―――何か彼女達の言葉に異存がある者があれば、申し出なさい」
ユリの言葉を受けて、場がしんと静まり返る。
その反応を確かめてから、ユリは優しく微笑んだ。
「私への侮辱に対して怒ってくれるなんて、皆は本当に優しいわね。
……では、先程の謝罪は取り消させて頂くわ。その上で、皆に対しては改めて、こう言わせて頂きましょう。―――私のために怒ってくれてありがとう、と」
皆の気持ちがひとつであったのなら、必要なのは謝罪ではない。
感謝の言葉こそが、最も相応しいものだ。
「さて―――ヴォルミシア帝国を征服したことで、図らずも百合帝国の国土は大きく拡大されたわけだけれど。私は従来の方針そのものを撤回するつもりは無いわ。
予てより宣言していた通り、来年の『冬月20日』までは―――いえ、どうせなら判りやすく『来年いっぱい』は、とさせて貰おうかしら。この期間に於いては、私はこれ以上の国土の拡張を望まないものとするわ。新たに土地を拡げるよりも、先に既にある都市や村落の改善を優先したいからね」
新たに支配した、ヴォルミシア帝国領にある都市も当然そうだが。既に併合してから結構な時間が経過している旧エルダード王国領にある都市や村落についても、居住環境の改善については未着手も同然の状況が続いている。
少なくとも都市には最低限、上水道と下水道ぐらいは整備したいと、常々思っているのだけれど、なかなか実行できずにいるのだ。
別に、喫緊の課題というわけでも無いけれど。とりあえず、出来れば来年中には改善に幾らか着手した上で、ある程度の成果を上げておきたい。
「但し、再来年以降に向けて他国の侵攻案を提示するのは、来年の内から許可するものとするわ。もしどこかに百合帝国が征服すべき国や土地が在るようであれば、書面に認めていつでも私に提案して来なさい。
尚、その際に『侵攻の大義名分は必須』とさせて頂戴ね。理由無き他国への侵略を許容するつもりは無いから、提案する際には心に留めて於いて頂戴」
濫りに他国を侵略しようとすれば、民心が離れる可能性がある。
別に国家として、民心を掌握しておきたいわけでも無いのだけれど―――民心が離れれば、それだけ主神としてのユリに集まっている信仰が減少し、リュディナへ返せる『恩』が目減りすることになりかねないのだ。
「もちろん何か良い案が挙がった場合でも、実行は再来年以降であって、来年中は内政にのみ専念することにする。―――『桔梗』」
「はい! 何でもご命令下さい、姐様!」
「内政に専念するからには、来年も最も頼りにするのはあなた達になるでしょうけれど―――。まずあなた達には、充分な休暇を取って欲しいわ。長らく都市建造に従事させてしまったから、暫く休んでその疲れを癒して頂戴」
「そ、そんな! 姐様、我々はすぐにでも働けます!」
「駄目よ。愛するあなた達を酷使するような非道な真似は、お願いだから私にさせないで頂戴。『桔梗』の子達には、少なくとも来年の『春月20日』までは休暇を命じます。良いわね?」
「はぅ……。し、承知致しました。有難く『休暇』の任、拝命致します」
ユリから強く望まれれば『百合帝国』の子達に否やは無い。
やや気落ちした表情を見せながらも。メテオラは明確に承諾の意を示した。
「……まあ、休暇中も建築仕事を『絶対にするな』とまでは言わないわ。禁止してしまえば、その方があなた達にとってはストレスになるでしょうから」
「―――あ、ありがとうございます!!」
「但し、私が『充分な休みを取って欲しい』と切望する想いは汲んで欲しいわね」
「う……。わ、判りました。休暇を重視しつつ、勘が鈍らない程度にだけ建築にも携わることに致します」
「結構」
メテオラの回答に、ユリは満足げに頷いた。
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