207. 神域都市産の食べ物(前)
最近は暑さでバテているせいで、帰宅後に即就寝することが多いため朝方に書いているのですが。本日投稿分は寝違えが酷かったのでかなり短いです、すみません。
(どうせなら、もう少しマシな理由でありたかった……)
[6]
ユリタニア宮殿の敷地内にある別館―――『生産棟』。
事実上『竜胆』が占有利用しているその建物に、今日はユリの姿があった。
隣にはユリの側室であるソフィアとエシュトア、そしてロザミアの姿もある。
前者の2人はユリが誘って連れてきた同行者だけれど、後者のロザミアは勝手にユリに付いてきただけだ。
彼女は召喚して以降、特にやりたいことも無いのか、まるで護衛のようにユリの傍に侍っていることが多い。
他愛もない話を4人で交わしながら、生産棟の『調理場』を訪ねると。ユリ達が来たことにすぐに気付き、この区画の主であるユーロが駆け寄ってきた。
「ユリ姉やん、わざわざ来てもろて申し訳ないなあ」
「あなたから呼ばれれば、もちろん足を運ぶわよ。一応、予め言われていた通り、ソフィアとエシュトアの2人も連れてきたわよ?」
ユリの言葉を受けて、ソフィアとエシュトアが小さく頭を下げる。
「助かるわあ。今日頼みたいのは『試食』なんやけど、住む土地に応じて人の味覚なんて変わるものやん? ニムン聖国の人とシュレジア公国の人にも、是非試食をお願いしたくてなあ」
「ああ、なるほど―――それで私達というわけですか」
「すまんなあ。特にソフィア嬢ちゃんは普段から忙しいのに」
「ユーロちゃんには普段から何かとお世話になっておりますからね、気にしないで下さい。それに上に立つ者というのは、存外自由に暇を作れるものなのです」
ソフィアは『百合帝国』の全ての子達と交友関係を築いている。
どうやらユーロとも『ちゃん』付けで呼べるだけの充分な関係を、既に構築することが出来ているようだ。
「余分なのも1人付いてきちゃったけれど、構わないわよね?」
「余分って何よ、もう」
ユリの言葉を受けて、ロザミアがわざとらしく唇を尖らせた。
「もちろん試食してくれる相手が多くなる分には大歓迎やね」
「それで、今日は何の料理を試食させてくれるのかしら?」
〈耀食師〉の職業を持つユーロは、料理のスペシャリストだ。
ユリは普段から彼女に『試食』を頼まれる機会がちょくちょくあるのだけれど。彼女が振る舞ってくれた料理に感動を覚えなかったことは、過去に一度さえ無い。
充分な信頼と実績があるからには、いやが上にも期待が高まろうというものだ。
「ああ―――すまんなあ、ユリ姉やん。今日は私が作る料理やなくて、食材そのものを試食してみて欲しいんよ」
「食材を?」
「もっと詳しく言えば、『神域都市』で採れた食材やね」
そう告げて、ユーロはどこからともなく1つの籠を取り出した。
沢山のフルーツが山盛りに乗せられた籠だ。今までは彼女の〈インベントリ〉に収納されていたのだろう。
「あら、色々と入っているわね。ミカンにイチゴに、モモもあるじゃない」
「籠には入らなかったけど、あとこれもな」
いつの間にかユーロは、左手に大玉のスイカを抱えていた。
「スイカを食べるのなんていつぶりかしら……。私、結構好きなのよね」
「ああー……。ユリ姉やん、あんま期待せず食べたほうが良いかも」
「え?」
わざわざ呼び出して試食させるぐらいなのだから、ユリは相当に美味しいのかと期待していたのだけれど。
ユーロが先にそう言ってくるということは―――おそらく味に何かしらの問題があるのだろうか。
流石はレベル200の〈耀食師〉と言う所だろう。大きめのスイカであるにも拘わらず、ユーロは〈インベントリ〉から取り出した包丁を器用に用いて、10秒と掛けずに食べやすい大きさにまでカットしてくれた。
カットされたスイカのひと切れをユリは手に持ち、矯めつ眇めつ眺める。
鮮やかな赤色に染まり、見るからに瑞々しくて美味しそうなスイカだ。何か問題があるようには、全く見えないのだけれど―――。
「………」
実際にスイカを囓ってみると。ユリは、思わず困惑した表情になった。
「ユリ姉やん、どう?」
「何だか……ちょっと物足りない味がする、わね……」
味が薄いわけではない。果汁は充分にあるし、決して不味くもないのだけれど。
けれど―――正直を言って、あまり美味しくもない。
何となくぼんやりとした、曖昧な味わいであるように感じられるのだ。
「これは、甘さが足りていませんね」
ユリの隣に座るロザミアが、端的にそう感想を口にした。
「おお。確か……ロザミア姐やんやったか? ええ味覚しとるなあ」
「うふふ、おだてても何も出ませんよ」
そのロザミアの言葉を受けて、思わずユーロが感心する。
甘さが足りていない、という言葉は。なるほど、言われてみると―――ユリにもストンと腑に落ちるものがあった。
全く甘さが無い、というわけではないのだけれど。このスイカには、食べる側の期待を満たしてくれるだけの甘さが明らかに足りていない。
果物にとって『甘さ』というのは、味わいを印象づける上で重要な要素となる。
そこが欠けているだけで。どうにも果物全体の味わいが、何だかはっきりしない曖昧なものであるかのように感じられてしまうのだ。
-
お読み下さりありがとうございました。




