199. 帝国領の初期統治(前)
飲み会への出席のため、今話は短め&無推敲です。ごめんなさい。
地域コミュニティの催し毎は無事に完了しました(※今日はその宴席)
少なくとも今夏はもう召集令状は無い筈です。多分……。
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ヴォルミシア帝国を滅ぼしてから、5日が経過した『冬月30日』。
5日前までは『帝都』だったドリスダールを含む、百合帝国によって征服された全部で12の都市は、俄に活気ある街並みへと姿を変えつつあった。
いや、その言い方は適切ではないだろう。
おそらく嘗ては―――この『活気有る街並み』こそが、本来の姿だった筈だ。
『泥土狼』によって都市周辺に存在していた衛星村落が軒並み壊滅したせいで、供給が殆ど無くなり、価格が急騰した食料品は多くの人達にとって、まず手が届くような金額では無くなってしまった。
飢えに苦しみ、明日以降の食料は元より、その日食べる食料の確保にさえ事欠くようになっていた市民達。それが、広場の中央に設置された『転移門』から商人が絶えず運び込んでくる膨大な食料のお陰で供給が安定し、高騰していた市場価格もあっという間に是正された。
人は食わなければ活力を持つことができない生き物だ。
逆に言えば満足に食べることさえ出来ていれば、人は充分な活力を持って日々を生きることができる。
各都市に『活気有る街並み』が取り戻されたと言うことは、即ち、食料の確保に苦労する市民が誰も居なくなったことを意味していた。
食糧問題を速やかに解決したことで、百合帝国という新たな支配者は、各都市の市民達から諸手を挙げて歓迎されることになった。
市民の中には、自身が『帝国の民』であることに自負を持つ人も少なく無かったようなのだけれど。新たな支配者である百合帝国もまた『帝国』であるせいか、特に市民から拒否反応が出る様子は見られなかった。
むしろ女帝のユリが主神の1柱であり、この世界において最も著名な主神である癒神リュディナからも頼りにされていることもあってか。今まで以上に特別な君主に支配されることを、市民は喜んでくれているようだ。
―――百合帝国の統治下になってから、各都市は目まぐるしく変化する。
まず、都市に蔓延していた悪臭が嘘みたいに消滅した。しかも冬の真っ最中であるにも拘わらず、都市の全域で『寒さ』が僅かにさえ感じられなくなった。
食糧不足の最中には著しく悪化していた都市の治安状態が嘘みたいに回復して、それまで幅を利かせていたゴロツキの姿が全く見られなくなってしまった。
広場では食料品を販売する仮設店舗に加え、何台もの屋台が営業を開始し、高級食材であるはずの『魔物の肉』をふんだんに使った美味しい料理が、誰でも安価に食べられるようになった。
『放送』が開始されたことで、市民は誰でも統治者であるユリの姿を知ることが可能となり、その言葉を聞くことができるようになった。また市民は誰でもお金を消費することなく、24時間いつでも『迷宮地に挑む探索者の勇姿を視聴する』という娯楽を楽しむことができるようになった。
これらの変化全てが、各都市が百合帝国の統治下になって僅か5日の間に起きたと言うのだから。変化の享受側である市民達からすれば、何とも忙しない話だ。
ヴォルミシア帝国によって、宣戦布告から3日の間に施された世論誘導の影響もあってか。元帝都ドリスダールに住む市民の中には、百合帝国をあからさまに嫌悪する人達も居たらしいのだけれど。
今はもう―――そんな人達なんて本当に居たの? と思えるぐらいに、元帝都の市民達は百合帝国のことを手放しに歓迎してくれていた。
結局は市民にとって、目に見える形で幾つもの恩恵を与えてくれる相手以上に、統治者として望ましい相手など居ないということだろう。
現金と言えばそれまでだが、何にしても市民からの反発が全く起こらないのは、ユリとしても有難いことだった。
ちなみに一般市民が百合帝国に対して大変好意的なのとは対照的に、都市に住む富裕層などからは少なくない反発があった。
統治を開始して間もなく、百合帝国が都市内に住む全ての『奴隷』の徴発を実行したためだ。百合帝国の法では一般市民が他者を奴隷にすることを明確に禁止しているので、これはユリからすれば当然の措置だと言えた。
徴発した奴隷は『転移門』を潜らせて、未成年者は神都ユリタニアの孤児院に、大人は建造中の『神域都市』へ移動させた。大人は住居と生活費を国から支給することで、『神域都市』の初期住民となってくれることを期待している。
奴隷は財産の一種なので、それを徴発された側からすれば堪らない。
奴隷を所有していたのは主に、ヴォルミシア帝国の貴族と富豪だ。前者の貴族は先日の侵攻戦の際に処断、または捕縛しているため、反応がある筈も無いのだけれど。一方で後者の富豪の人達は、即座に抗議の声を上げてきた。
彼らは自身が経営する商会の中で、奴隷を労働力として活用していることが多かったようだ。なのでユリが行った徴発により労働力を喪失し、商会の経営に大きなダメージを負う羽目になったらしい。
抗議の声を上げると共に、彼らは商会が負った損失を国が肩代わりするよう求めてきたのだけれど。それをユリがまともに取り合うことは無かった。
むしろユリは『撫子』の子達に命じて、裏で抗議してきた商会を探らせる。
奴隷を率先利用していた商会など、どうせ後ろ暗いことの1つや2つはやっている筈だ。そう思ってユリは調査を命じたわけだけれど―――案の定と言うべきか、過去の悪事が面白いように『撫子』の手によって暴き立てられたため、彼らの商会を廃業へ追い込むのは実に簡単なことだった。
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