196. 『天災』の群れ
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この異世界では、押し並べて『天災』として認知されている『竜』だけれど。
少なくとも『アトロス・オンライン』のゲーム内では、偏に『竜』と言っても、その中に明確な格付けが存在していた。
最も格が低いのは『劣等竜』と呼ばれる種で、これはワイバーンを指す。
空を自由に駆け、戦闘能力が高く知恵も回ることから、人族からは竜の一種として恐れられる存在であるワイバーンだけれど。大半の竜からは『竜の出来損ない』と見なされ、最も下等な竜と蔑視されている。
次いで格が低いのは『下位竜』で、レベルが130以下の個体は大体がこれに該当する。
魔法や魔術を扱い、己の得意とする属性のブレスを吐くなど、戦闘での脅威性はワイバーンの比ではないが。とはいえ、このレベルでもまだ竜の中では『未熟』と見なされ、少なくとも一人前として扱われることはない。
この2種よりも格上の竜が『竜も認める竜』になる。
いずれも暴力的な戦闘能力を有した個体ばかりになるため、下位のものと明確に区別して『高貴なる竜』と呼称することも多い。好戦的でない場合が多く、また人語も解するため話し合いが可能な個体が多くなるのが特徴だ。
その『高貴なる竜』の中でも特に、転生を何度も何度も繰り返した人族の到達点である『レベル200』という限界さえ、更に踏み越えた先の強さを有する個体は『上位竜』と呼ばれる。
この辺になると転生を1度も経験していない人族では、群れて対抗しようとも勝てる見込みは殆どない。
もちろん軍隊レベルで数を揃えれば、流石に別かもしれないけれど。
『上位竜』よりも更に倍の、つまり『レベル400』のラインを超えた個体にもなると『古竜』と呼ばれ、人々からは大きく畏怖される存在となる。
この辺りになると『魔物の1種』というよりは『神の1種』に近い扱いとなり、『アトロス・オンライン』でも『天災』と称されるのはここより格上の竜だけだ。
魔物の頂点に君臨する『竜』の中でも、更に頂点に君臨する『レベル1000』以上もの個体は『祖竜』と呼ばれ、急激に個体数が少なくなる。
『祖竜』ともなると、最早通常のフィールドやダンジョンに配置される魔物ではなくなり、ゲーム内の最難関エリアを支配するレイドボスとしての役割を与えられている場合が殆どだ。
ユリが使役する覇竜ラドラグルフや氷竜リンドヴルムも、元々はそうだった。
―――その『祖竜』が今、ユリ達の目の前に『360体』居る。
いずれもユリの使役獣だ。流石に360体も同時に召喚すると、魔力の消費量が膨大になって維持できなくなるかと思ったのだけれど―――実際にやってみると、意外に問題無く出来てしまった。
現在のユリの最大魔力量は『100万』以上にも達している。
これは〔女神〕の天職で得たスキルにより、信徒の力が自身に還元されるようになったり、自身に集まっている信仰量に応じて[加護]の能力値が増加すると共に、生命力や魔力の最大値までもが大幅に増加するようになったためだ。
そしてユリは身に付けている装備品の効果により、1分間に『最大値の15%』程度の魔力を自然回復することができる。
昔は魔力の最大値が『6万』程度だったので、自然回復量も1分間に『9千』点ぐらいだったのだけれど。今は1分間に『100万』の15%、つまり『15万』もの膨大な魔力を自然回復できるようになったため、魔力はかなり使い放題のような状況になっている。
今みたいに、ユリタニアの都市外にレイドボス級の『祖竜』を大量召喚していてもなお、ユリの魔力は一向に減る気配が無かった。
―――言うまでもなく、大量の召喚獣によって消費される魔力を、自然回復量が完全に上回っているからだ。
「か、感服致しました……。流石は姫、最早我々の及ぶ所ではありません」
ユリの隣に立ち、驚愕した声でそう漏らすのは『紅薔薇』隊長のプリムラだ。
魔力を扱うことに最も長けた〈六星賢者〉の職業を持つ、プリムラでさえ呻らせるぐらいなのだから。これらの魔物を同時に召喚できるユリの能力が、かなり途方も無いレベルであるのは想像に難くない。
「そう言ってくれるのは嬉しいけれどね。どんなに強い竜を沢山召喚できた所で、私が最も頼りにするのは、竜ではなくあなた達の方よ」
「―――はい、ありがとうございます。姫の期待に応えられますよう、これからも精進させて頂きます」
「向上心があるのは良い事ね」
高い実力と強力な装備品を兼ね備えている『百合帝国』の子達であれば、24人を集めて『レイド』を組まずとも、6人で『パーティ』を組めば『祖竜』とも良い勝負が出来るだろう。
それは―――逆に言えば、単身では『祖竜』に全く勝ち目が無いと言うことを意味している。360体もの祖竜を同時に召喚できてしまうユリは、ユリ自身を除いた『百合帝国』359名の子達の総合力を、最早個人でさえ超越してしまっているのかもしれなかった。
(……あまり、嬉しくないものね)
『百合帝国』の主なのだから、皆に負けない程度の実力を有していたいとは常々思っていたけれど。
その思いを超えて、『百合帝国』の子達から掛け離れたレベルの力を有している事実を思い知らされてしまうと……。嬉しいと言うより、少し悲しくさえあった。
とはいえ、持っている力は有効活用すべきだろう。
「皆、聞いて頂戴」
ユリがギルドチャットで語りかけると。その場に居る『百合帝国』の子達、総勢359名全員の視線がユリに集まった。
「これから私はヴォルミシア帝国の首都ドリスダールを奪るわ。その際に、皆には私が召喚したこれらの『祖竜』に乗って、彼の地まで攻め込んで貰う。
この世界では、竜なら何でも『天災』と呼ばれているそうだけれど―――真なる意味での『天災』が、どの程度の格の竜のことを指すのかを。私達が敵国の人達に教えてあげることにしましょう?」
ユリがそう呼びかけるや否や、359名の全員から威勢の良い声が上がった。
強い戦意が籠められたその声を聞いて、ユリは満足げに微笑む。
相手の騎士や兵士達のレベルを考えれば『祖竜』を召喚するまでもなく、『百合帝国』の子達だけでもオーバーキルが過ぎることは判っているけれど。それでも敢えてユリは、彼の地を征服する際に『祖竜』を用いることを選んだ。
―――全ては、帝都ドリスダールの民を『恐怖』で支配するために。
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