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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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174. 教育機関(2)

 


     [2]



 ユリに仕事を求めてきたその日から、ロゼロッテはユリの秘書役のようなものを務めることになった。

 ―――と言っても、ユリの仕事はそれほど多くあるわけではない。

 ユリが毎日決まって行う仕事というのは、せいぜい毎日の午前中に決裁の必要な書類の是非を判断したり、報告書を確認したりすることぐらいで。

 そうした午前中の執務以外の全ての時間を、ユリはその日その日の判断で、常に好きなことをしながら過ごしている。


 但し、この国の『女帝』であるユリにとっては、ただ『好きなことをする』という時間さえ、何らかの価値を持つことも多い。

 例えばユリが市井をただ見て回ったり、食べ歩きを行うだけでも、市場は大いに活性化することになる。都市から離れた村落などを訪えば、国主直々による慰問と同じだけの効果を生み、それは民心の安定化にも寄与する。

 分体のサユリの身体で『迷宮地(ダンジョン)』に挑むことも多いけれど、それにも『放送』を見た人達の『迷宮地』に対する関心を大いに引き上げる効果があった。


 もちろん、単純に仕事の延長のようなことをしていることもある。

 ルベッタやアドスといった百合帝国が誇る主だった各商会の長の元を訪ねたり、レイピア王国への食糧支援事業を任せたソフィアから話を聞いたり。

 あるいは同じ国主の立場であるカダイン公やアルトリウス教皇、レイヴン王の元を訪ねて何か相談を受けたり、他愛もない雑談を交わしたり。

 『撫子』の子達が作ってくれた、百合帝国や同盟国の国土の地図を確かめながらカナヤマヒコやカナヤマヒメを転移魔法で連れ回して各地を巡り、埋蔵されている資源や源泉などを調査したり―――。


 何だかんだでユリは、国主として精力的に働いているという自負こそ無くとも、それなりに国主にしかできない役目を色々と果たしていたりするのだ。

 そして―――ユリは今日も、午前中の執務を終えた後の自由な時間を利用して、建造中の『神域都市』を訪れていた。


「何だかこの街にいると、全くの別世界に来た気分になります」

「ふふ、実際そういう都市にしようと思っているからね」


 秘書役として同行しているロゼロッテの言葉に、ユリは微笑む。

 楽しそうに周囲を見回しているロゼロッテの姿を眺めていると。街中に沢山溢れている『和の建物』の趣きが、この世界の人達にも理解されることが確認できる気がして、ユリは嬉しい気持ちになった。


「この街には、もう人が住んでいるんですか?」


 街路を歩く最中に遭遇した夫婦が、ユリ達に向けて軽く手を振ってみせる。

 その姿を見て、ロゼロッテが不思議そうにそう問いかけた。


「この都市に今住んでいるのは、異世界から招いた神様だけよ?」


 孤児院の子達がニワトリを世話するために訪れることはあるけれど。この地に居住しているのは、現時点ではまだ『神様』だけだ。


「え、じゃあ先程の夫婦は、2人とも神様なのですか?」

「そうよ? 男性が『火遠理命(ホオリ)』という山の恵みや穀物を司る神様で、女性のほうが『豊玉姫(トヨタマヒメ)』という安産や子育ての神様ね。畜産や漁業にも御利益があるわ」

「わ、わわ……。結構凄い神様なのではないですか?」

「ふふ、どうかしらね」


 この地にお迎えしているのは、あくまでも『アトロス・オンライン』のゲーム内世界『リーンガルド』の神様であり、日本神話に登場する本来の神様ではない。

 なので、神様が凄いか凄くないかという問いに答えるのは、案外難しい。

 古事記に登場する本来の神様自体は大変に尊く、凄い存在であるのは疑いようも無い事実だけれど。この場に存在する神様に、それに準ずる評価をして良いものかどうかは、正直ユリ自身にも図りかねる所だ。


「まあ、仮に相手が凄い神様だとしても、変に遠慮したりはしないことね。少なくとも彼らは別に、この世界の神様というわけでは無いのだし。

 それに―――そんな関係は向こうも望んでいないわ。遠慮無く踏み込んで来て、この世界の人達が積極的に関わってくれることを望んでいる筈よ」

「そ、そうなのですか?」

「ええ、そうなのよ」


 信仰は別に、崇拝とセットの行為ではない。

 隣人として関わり、友人として接し、相手のことを知り、些細な敬いを持つ。

 それだって―――立派な『信仰』の形なのだから。


「ちなみにこの都市って、神様がどのぐらい住んでいらっしゃるのですか?」

「現時点では大体140柱ぐらいかしら。最終的には200柱ぐらいにまで増える予定だけれど」


 幾度となく『リーンガルド』の世界との接続を確立して、『お迎え』することを繰り返した結果、この都市の神様の数は当初よりも随分と増えている。

 もちろん最終的にはリーンガルドの高天原に住んでいた全ての神様―――全部で200柱の神様を全て、この都市に喚ぶつもりだ。

 中には荒々しい気性の、好戦的な神様も居るけれど。アマテラスやオオゲツヒメを筆頭に、一部の神様は特別な御神体を用いることで大幅に強化されているので、そうした荒っぽい神様達も力で捻じ伏せ、統率してくれることだろう。


「そ、そんなに神様がいらっしゃるのですか……?」

「きっと数え切れないほど沢山の御利益がある都市になるわね」


 神様を宿すと、その土地には様々な恩恵が齎される。

 リーンガルドの神様の中には、特に農業や漁業、畜産や養蚕などに恩恵を与えるものが多く存在する。恩恵が何重にも齎されることで、この都市の発展はある意味約束されているようなものだ。


 この都市のことについて色々と話しながら、ユリはロゼロッテと共に街路を暫しの間のんびりと散歩して。やがて神様達の御神体を安置している正宮の建物の近くにある、一軒の住宅へと辿り着く。


 ユリは玄関の戸をノックするまでもなく、念話によって今日の訪問目的である、建物の中の住人に直接到着したことを連絡する。

 すると、パタパタと慌ただしく室内を走る音が聞こえてきて。すぐに玄関の戸が内側から勢いよく開かれた。


「ああ―――よく来て下さいましたね、ユリ」


 豪奢な和装に身を包んだ女性が、ユリの姿を確かめるなりそう告げる。


「こんにちは、アマテラス。私が来たからと言って、別にそんなに慌てて出てくる必要は無いのよ?」

「いえ、ユリを待たせるわけにはいきませんからね。

 ……あら、お連れの女性は初対面ですよね。どちら様でしょうか?」

「今日はこの子をアマテラスに紹介したくて、連れてきたのよ。

 この子の名前はロゼロッテ。私の第四側室である彼女に、この都市を治める領主役を任せようと考えているのだけれど、構わないかしら?」

「―――えっ!?」

「まあ! ユリの側室であれば、私が歓迎しない道理はありませんよ!」


 ユリの言葉を受けて、アマテラスが忽ちその表情を綻ばせる。

 一方、当の本人であるロゼロッテは。ユリの言葉に大層驚いたようで、その場で目を丸くしながら硬直していた。



 

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