168. 戦勝のあとに(前)
昨晩非常に忙しかったもので、その影響で本日投稿分はとても短いです。
申し訳ありません。
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ハイドラ王国との戦争から2日が経った『秋月16日』。その日の午前中から、ユリはソフィアを連れてレイピア王国の首都ワンキーアを訪ねていた。
転移魔法で移動すると、ハイドラ王国への侵攻時に用いた『転移門』が王城前にまだ残されているのが見えて、ユリは少なからず驚かされる。
魔法陣を消せば『転移門』は消滅するので、事が終わったら好きに消してくれて構わない旨を、レイヴン王にはちゃんと伝えておいた筈なのだけれど。
……おそらく、現状ではハイドラ王国まで一瞬で行き来できる方が便利なので、敢えてそのまま残しているのだろう。
「―――ユリ陛下。ようこそお越し下さいました」
「ふふ、すっかり顔を覚えられてしまったわね」
ユリの姿を認めて、王城前で警備をしていた衛士の何人かが集まってくる。
まだレイピア王国では『放送』を行っていないのだけれど。最近はここを訪れる機会が多かったせいで、衛士からは完全に顔を覚えられてしまったようだ。
「レイヴン王に会えるかしら?」
「はい。執務中と思われますので、応接室にて暫しお待ち頂けましたら」
「判ったわ。応接室の位置なら覚えているから、案内は無用よ」
「はっ、承知致しました」
レイピア王国の王城はそれほど大きくも無い。なので何度も通っているうちに、流石に応接室のある場所ぐらいは覚えてしまっていた。
とはいえ、ソフィアからすれば初めて足を踏み入れる王城なわけだから、戸惑う気持ちもあるのだろう。ユリは萎縮した表情を浮かべるソフィアの手を取り、彼女と一緒に並んで廊下を歩く。
「先程、王城前にあった『転移門』は、ご主人様が設置したものですよね?」
「ええ。……もう少し設置する場所をちゃんと考えれば良かったわね」
ハイドラ王国への侵攻時に使うだけだと思っていたから、特に場所も考えず設置していたけれど。こうして今も残されている姿を見ると、王城を出てすぐの場所に『転移門』を置くというのは、通行の邪魔以外の何物でも無い。
あとで別の場所に設置し直すことを、レイヴン王に提案した方が良さそうだ。
王城内を歩いて応接室へ到着すると。室内には既に2名の侍女が待機しており、お茶を用意するなど歓待の準備を済ませていてくれた。
それを飲みながら暫く待っていると。10分と経たない内に、レイヴン王がレクマー王子を伴って応接室へと姿を見せた。
「ユリ殿。先日はありがとうございました」
「お陰様で大変助かりました。ありがとうございました」
「どういたしまして。ハイドラ王国の支配については、順調かしら?」
揃って頭を下げてきたレイピア王家の父子に、ユリはやんわりと応対する。
それを見て、何故か隣に座るソフィアがちょっと嬉しそうに微笑んでいた。
「今のところは、特に問題もなく順調ですな。ハイドラ王国の各都市を治める貴族達は、挙ってレイピア王国に恭順する意志を示してくれております。ハイドラ王国の首都デラクの住民達も、むしろ我々を歓迎してくれているようです」
「ザサール王は、自国の民にかなりの重税を課していたようだからね。他国に支配された不安もありつつ、減税の期待などをせずにいられないのでしょう」
大軍勢を組織しようとすれば、当然その軍費のツケは国民に回される。
ハイドラ王国にとって2万弱もの軍隊を組織するというのは、かなり無理をした結果のものなのだろう。特に首都では、庶民に対して概ね7割近い税を掛けていたことが、『撫子』の事前調査でも明らかになっていた。
もちろん首都以外の都市に対しても、ハイドラ王国は巨額の軍費を納めるように要求しており、これが各都市を治める貴族達にとって大きな負担になっていた。
まだ現時点では首都を占領したに過ぎないレイピア王国に、貴族達が即座に恭順の意志を示した背景には、そもそも彼らがザサール王を快く思っていなかったということも大いにあるのだろう。
「レイヴン王は無論、そのような無体を国民に押しつける人では無いわね?」
「当然ですな。国は民あってのものですから」
ハイドラ王国の首都デラクに関しては、今年一杯の税を4割に、来年以降の税は当面5割にまで下げる予定らしい。
占領した直後の都市というのは、何かと金が掛かるものだ。それを思えば、充分に良心的な税率だと言って良いだろう。
「……ところで、そちらにいらっしゃるのはソフィア嬢ではありませんかな?」
「ご無沙汰しております、レイヴン王、レクマー王太子」
レイヴン王の問いに、こくりと頷いてソフィアがそう応える。
「ああ―――そういえば面識があるのだったわね」
「はい。ニムン聖国で催事がある際には、レイピア王国とシュレジア公国の両方に招待が届きますから。宴席でよく顔を合わせて、お話しさせて頂いておりました」
「ソフィア嬢は当時から、シュレジア公国の才姫として大変に有名でしたからな。実を言えばソフィア嬢と会話を重ねて懇意になり、レクマーの嫁として当国に迎えることができないものかという下心も、当時は少なからず持っておりました」
「……ち、ちょっと、父さん!? 急に何言い出すの!」
レイヴン王が発した言葉に、レクマー王子が慌てて声を上げた。
先日『転移門』を利用してハイドラ王国へ乗り込む際には、随分と精悍な顔つきをした青年だと思ったものだけれど。父親に向けて抗議の声を上げる今のレクマー王子の姿からは、そうした格好良さは微塵も感じられなかった。
「ふふ、当時でしたら有難い話と受け取っていたかもしれませんが。今は私にも、ユリ陛下という最愛の方ができてしまいましたもので」
「そうね、こちらとしてもソフィアを譲るわけにはいかないわね」
「残念だったなレクマー。諦めてまた他の良い女性を探すのが良いだろう」
「いや、何で僕が振られたみたいになってるのさ!?」
憮然とした顔と共に、情けない声で抗議するレクマー王子。
父親にからかわれて、茹で蛸のように顔が見事に赤くなった王子の様子を見て。ユリとソフィアは今にも噴き出しそうなのを堪えるのに、精一杯だった。
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