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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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167. あとは2国間で決着を

 


     [3]



「ユリ姉様、お疲れさまでした」


 空高くに浮かび、大地を静かに俯瞰していたユリの傍に音もなく近寄り、労いの言葉を掛けてくれる少女の姿がそこにはあった。

 『黒百合(ノスティア)』のラケルだ。掛けられたその言葉は、奇しくも以前エルダード王国の軍隊を殲滅した時に掛けてくれた言葉と、一字一句変わらないものだった。


「相変わらず『放送』には映りたくないみたいね?」

「あぅ、すみません……」

「別に責めているわけではないわよ」


 ラケルの手には、つい先程まで彼女が使用していたものと思われる『隠者のマント』が携えられている。

 身に付けることで【透明化】の魔法と〈気配隠蔽〉スキルの効果が、同時に得られるという便利なものだ。装備中は当然『放送』にも映らなくなる。


「ユリ姉様も、このあとお使いになられますよね?」

「え? ―――ああ、そういえばそうね。貸して貰っても?」

「もちろんです」


 この後にユリは転移魔法でハイドラ王国の首都デラクへと移動し、その王城前に『転移門』を設置するという作業が控えている。

 レイピア王国の軍隊が、ハイドラ王国の王城を直接制圧できるようにするための重要な作業だ。『転移門』の設置には10分程度の作業時間を要するため、敵国の王城前で堂々と設置作業を行う際に『隠者のマント』は役立つだろう。


 差し出してきたラケルの手から、ユリは『隠者のマント』を受け取る。

 『隠者のマント』は百合帝国の全員が持っているものなので、当然ユリも所持しているのだけれど。生憎と〈インベントリ〉の中に入れ忘れて来てしまった。

 今日の所はラケルの『隠者のマント』を有難く使わせて貰おう。


「あ……そういえば、ユリ姉様。今回は敵軍の『馬』だけでなく『竜』も回収しておられましたね。とてもお見事な手際でした」

「相変わらず、ラケルはよく見ているわねえ」


 ユリは【星堕とし(メテオ・ストライク)】を召喚して、落とすまでの間に。予め『発動遅延』の状態にしておいた【強制集団転移】の魔法を行使し、敵軍の騎兵隊と輜重隊の『馬』と、竜騎兵(ドラグーン)の『竜』を、それぞれ残らず自国の領土にまで攫って(・・・)いた。

 今頃は『紅梅(こうばい)』の子がユリタニアの都市に近くに設置してくれた、【障壁結界】の檻の中に転移している筈だ。どちらも無駄に殺してしまうのは勿体ないので、今後は百合帝国で有効活用させて貰おうと思う。


 尚、輜重隊の人達に関しては馬だけでなく、人も一緒に転移させている。

 攫った人達は、嘗てエルダード王国軍から攫った5000頭の馬を飼育・繁殖させているコルトの村落に、今回追加する馬と共に住んで貰おうかと思う。

 更に人口と馬の数が増えれば、いよいよもってコルトが『村落』という規模には納まらない集落になりそうな気もするけれど。まあ、些細な問題だろう。


 ちなみに馬に関しては、そろそろ『桔梗(ききょう)』の子達に都市間の交易路を整備して貰い、馬を交易路の途中で何度か交換しながら、高速で馬車を運行できるシステムを整備したいとユリは考えている。

 ……のだけれど。『桔梗』の子達が優秀すぎるが故になかなか手が空かないのが悩み所だ。他にもエルダード王国から併合した領土にある都市や村落の改善など、『桔梗』の子達にやって貰いたい仕事など幾らでも山積しているのが現状だった。


(竜の具体的な使い途も、考えなければいけないわね)


 今回捕獲した竜の数は300頭。

 魔物ではあるものの、既にハイドラ王国によって飼い慣らされた個体である筈なので、そのまま運用しても良いし―――あるいは『魔物』なのだから、いっそ全ての竜をユリが単身(ソロ)で討伐し、自身の使役獣にしてしまうという手もある。

 活用方法については、今後検討したいところだ。


「あの……ユリ姉様、そろそろやらないと」

「あ、そうだったわね。ごめんなさい、少し考え事をしていたわ」


 ラケルの『究極奥義(アルティメット・スキル)』である【死者の軍勢アーミー・オブ・ザ・デッド】は、付近で10分以内に死亡した敵を全部纏めて任意のアンデッドとして蘇生させ、レベルを30底上げすると共に服従させる効果を持つ。

 死後10分以内に行使しなければ意味が無いものなので、あまり悠長にしている暇は無い。すぐにユリは『究極奥義』の実行をラケルに指示した。


「また『スケルトン・ナイト』に加工(・・)すればよろしいでしょうか?」

「ええ、お願いするわ」


 今回、ハイドラ王国から出発した兵の数は『18300』。

 この内、輜重隊1000の兵は転移させているため、残る『17300』の兵が【星堕とし】により殺害した人数になる。


 『撫子』が事前に掴んでいた情報によれば、出兵する兵の数は『16300』という話だったのだけれど、直前になって2000だけ増えたようだ。

 とはいえ、ユリからすれば多少増えようと【星堕とし】一発で全滅できることは変わらないし、生成される骸骨兵が2000も増えるのは嬉しいことでしかない。


「ユリ姉様、骸骨兵の生成が完了しました」

「ありがとう、ラケル。ちょっと地上に降りてみましょうか」

「はい」


 高高度から見下ろしている分にはあまり判らないのだけれど。地上に降りてみると、17300もの大量の骸骨兵がずらっと並んでいる様子がはっきりと見える。

 何とも壮観な光景だ。これだけの大量の骸骨兵を作り出したとなれば、なるほどいかにも『極悪』らしい所業だなと、自分でも少し笑ってしまう。


「―――聞け、不死なる軍勢よ」


 ラケルが大量の骸骨兵達に向けて声を張り上げる。


「お前達の主は私だが、私の主は隣にいらっしゃるユリ陛下である。故に、お前達は私の命令にだけでなく、ユリ陛下の命令にも服従すべきと理解せよ」


 ラケルがそう命じると同時に17300体の骸骨兵達が一斉に跪き、ユリに対する忠誠を示してみせた。

 【死者の軍勢】で生成したアンデッドの支配権は、あくまでもスキルの行使者であるラケルにある。なのでいまラケルがしてみせたように、ユリにも服従するよう予め骸骨兵達に命じておくのは重要なことだ。


 それからユリは転移魔法を行使して、ラケルと17300体の骸骨兵と共に、ユリタニアの都市付近にある平地へと転移する。

 大軍勢を纏めて転移させるような真似は、魔力を大量に消費するのもさることながら、それに加えて術者であるユリが非常に疲労してしまうため、あまりやりたくないのだけれど。流石に大陸の西端に近いこの場所から百合帝国まで、骸骨兵達に徒歩で帰ってきて貰うというのは、色々と問題もありそうなので致し方無い。


 骸骨兵達はラケルに監督を任せて、暫く平地に放置する。

 そこからユリはユリタニア宮殿へと転移し、待機していた『竜胆(りんどう)』の子達を伴って、再び先程『隕石』を落とした地点へと転移で戻った。


 【星堕とし(メテオ・ストライク)】で落とした『隕石』からは、貴重な『隕鉄(メテオライト)』の鉱石が採れる。

 『竜胆』の採掘部隊には、その資源を確保して貰う必要があるのだ。


 更にユリは『隠者のマント』を身に付けてから、ハイドラ王国の首都デラクの王城前へと転移し、そこで10分ほど時間を掛けて『転移門』の魔法陣を描画する。

 既にもう片方の―――レイピア王国の王城前にも魔法陣を設置してあるので、即座に接続が確立されて『転移門』が利用可能になったことが、術者のユリには明確に認識できた。


 僅かな燐光を放つ『転移門』の存在は、暗い夜の中では非常に目立つ。付近の衛兵達が騒ぎ始めるまで、然程の時間も掛からないだろう。

 すぐにユリは稼働を開始した『転移門』の中に飛び込み、レイピア王国の王城前へと転移する。そこにはレイピア王国の歩兵3000が待機しており、また百合帝国が誇る『白百合(エスティア)』の24名も勢揃いしていた。


「―――姫様!」

「ヘラ。『転移門』の開通が完了したから、準備をして頂戴」

「はッ! 白百合は各自、支援魔法をレイピア王国軍に掛けよ!」


 『白百合』は甲冑に身を包んで槍を扱う騎士部隊であると同時に、神聖魔法を行使する能力を有している。なので回復魔法はもちろんながら、自身や味方の能力を向上させる支援魔法の扱いにも非常に長けているのだ。

 ヘラから指示を受けて、24名の『白百合』の子達が一斉に手持ちの支援魔法をレイピア王国の兵達に行使していく。10種類以上の強化(バフ)を受けて、レイピア王国軍の能力は本来よりも大幅に引き上げられた。

 これなら―――数に劣るハイドラ王国の兵達を相手にする分には、怪我ひとつ負わされることは無いだろう。


「ありがとうございます、ユリ陛下!」

「時間が経つと強化魔法が徐々に失われるから、手早く済ませてしまうと良いわ。あと判っていると思うけれど、まず城門の制圧を優先するようにね」

「はい! ―――よし、皆行くぞ! レイピア王国の武威を見せつけるのだ!」


 レクマー第一王子が上げた声に呼応し、レイピア王国の3000の兵達もまた、非常に気迫が籠った声を上げた。

 列を成して『転移門』を潜り、ハイドラ王国へと雪崩れ込んでいく兵達。ユリは『白百合』の子達と共に、その姿を見送る。


「……行ったか」


 最後の1兵が『転移門』の中へ姿を消した後に、ユリの背後から静かにそう声が聞こえた。

 ―――レイヴン王だ。どうやら彼も、兵と息子の見送りをしていたらしい。


「出発の直前に侵攻軍に2000の兵を追加したため、ハイドラ王国の王城内には当初の予定以上に兵が残っていないようです。レクマー王子が敗北する可能性は、万に一つも無いと思われます」

「そうか、ではゆっくりと吉報を待つとしよう。

 ……都合が良ければ、ユリ殿には私と妻とお茶を共にしては頂けないだろうか。息子を戦地に送り出している以上、2人だけだと気が休まらなくてな……」

「ふふ、そういうことであれば、喜んでご相伴に預かりましょう。

 ―――悪いけれど『白百合』はここに待機していて頂戴。レイピア王国の兵には事前に、怪我を負った場合には『転移門』を利用して即座に戻るよう伝えてあるから、怪我人が戻って来た場合には治療してあげて頂戴」

「はっ! 承知致しました!」


 神聖魔法に特化した『睡蓮(すいれん)』の子達に較べれば劣るとは言え、『白百合』の子達も充分に高度な回復魔法まで行使することができる。

 生きて戻ってさえくれれば、どんな怪我人でも即座に治してくれることだろう。



 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] おうまさんと空飛ぶトカゲげっとー
[一言] 街道整備は一般人を雇用した国家事業でも良いんじゃないかとも思ったりもします
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