表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

164/370

162. レイピア王家の滞在

 


     [5]



 結論から言えば、当初1泊だけを予定していたレイピア王家の迷都ユリシスへの滞在は、それなりに伸びることになった。

 レイピア王家の全員が―――つまりレイヴン王とその妻のアレイア王妃、そしてレクマー第一王子が、それぞれに滞在の延長を希望したからだ。


「私はこの国を知り、自国を繁栄させる術をより深く学ばねばならん」


 とはレイヴン王の弁だ。嬉しいことに、どうやら王家の方々には迷都ユリシスのことを、とても気に入って貰えたらしい。


 『観光区画(リゾートエリア)』のホテル『ユリシス・バタフライ』、その最上階を丸ごと占有する最高級スイートルームは、国賓を泊まらせる為だけの場所なので、一般の客が利用することはない。

 部屋が埋まることが無いので、そう言う意味では延泊に問題は無いのだけれど。とはいえ王が予定通り帰国しなければ、それはそれで問題がある。最悪、国家間のトラブルにだって発展しかねないのだ。


 なので一度はレイヴン王を、ユリが転移魔法でレイピア王国へ送ったりもした。

 ちゃんと本国の人達に、もう数日留守にする旨を伝えてきて貰うためにだ。


「レイヴン王は、私の国のどこを気に入ってくれたのかしら?」


 転移魔法での送迎の際に、ふと疑問に思ってユリがそう訊ねてみると。

 レイヴン王は迷うことなく即答してみせた。


「目です」

「……目?」

「うむ。この都市の住人は、目の中に希望を宿している。毎日を必死に生きているだけの人間では持ち得ない輝きを、その目の中に宿しているように見えるのです」

「ふむ……」


 なかなか含蓄に富んだ言い方だな、とユリは思う。

 まあ―――何にしても、国民が褒められるのは、悪い気はしない。


 ちなみにレイピア王家の方々の滞在は4泊に延長された。

 レイヴン王としてはせめて1週間は滞在したかったらしいのだけれど。一度国に戻った際に宰相から、国を空けるなら4日までに留めて欲しいと、半ば懇願に近い形で泣き付かれてしまったらしい。


 ユリが『転移門』を自由に利用できる許可証を発行したこともあり、レイヴン王はその4日の間ずっと、護衛の人達を引き連れて実に様々な場所を見て回っていたようだ。

 百合帝国の首都であるユリタニアはもちろん、最近は『鉱都』の愛称で国内外の民から親しまれているユリーカの都市にも、更にはユリが付けた案内役を同伴した上で、現在建造中の『神域都市』にも訪問していた。


 レイヴン王は、それぞれの都市が全く異なる国に存在しているかのように、特色豊かなことを手放しに賞賛していたらしい。

 確かに―――言われてみれば百合帝国の各都市は、それぞれに景観というものがまるで異なっている。


 例えば、レイピア王家の一行を滞在させているホテルがあるユリシスの都市は、北部の『観光区画(リゾートエリア)』は広大な湖の上に築かれた都市であり、南部の『迷宮区画(ダンジョンエリア)』は階層の高い建物が多く建ち並んだ、人口密度の高い都市であったりする。

 首都のユリタニアは『水路が張り巡らされた都市』であり、鉄道馬車も走っているなど、なかなか趣が強い。そしてユリーカは『山』の形状をした鉱山に隣接する都市であるため、勾配の強い土地を最大限活かした景観の良い都市となっており、カナヤマヒコ夫妻を祀る神社もあるなど、こちらもこちらで趣がある。

 建造中の『神域都市』に関しては、最早説明する必要も無いだろう。建物の全てが『和』の雰囲気で纏められ、非常に異国情緒が強い場所となっている。


 特に意識したわけではないのだけれど―――気付けばどの都市も、それぞれが確かな個性を持った都市として確立していることが、ユリには嬉しい。

 きっとそういう部分が、レイヴン王の心を惹きつけたのだろう。


 ちなみにレイヴン王の妻であるアレイア王妃は、最近ヘイズ商会が営業を開始したばかりのエステサロン1号店に通い詰めたり、最高級の化粧品を買い漁ったり、ホテル内のパーラーで甘味を楽しんだりと、基本的に『観光区画(リゾートエリア)』を出ることなく毎日を楽しんでいるようだ。

 また、レクマー第一王子は護衛の騎士達と共に『迷宮地(ダンジョン)』へ挑戦したり、あるいは『迷宮地』に挑む著名な探索者の様子が『放送』されるのを、護衛の人達と共に熱心に観戦しているそうだ。


 ちなみに王子が『迷宮地』に挑むことについては当初、護衛の騎士達から猛烈な反発があったのだけれど。これは、ちょうど迷宮地に挑戦するアルトリウスの姿が『放送』されたことで、すぐに静まった。

 同盟国の王であり『八神教』の教皇でもあるアルトリウスが、潜っても問題無いほど安全が確立されていることが、信用の根拠となったからだろう。


 一度反発が無くなれば、護衛の人達は手のひらを返したかのように『迷宮地』のことを絶賛するようになった。

 安全に魔物と戦う術を身に付けられる場所があることの有益性が、騎士である彼らにはよく判るからだろう。時にはレクマー第一王子を伴わず、護衛騎士の人達だけで『迷宮地』に挑戦したりもしていたようだ。




「―――良ければレイピア王国にも『転移門』を設置して貰えないだろうか」


 レイピア王家が4泊の滞在を終えたその日、レイピア王国へ送るべくホテルを訪ねてきたユリに対し、レイヴン王は真っ先にそう打診してきた。

 アレイア王妃もレクマー第一王子も何も言わないところから察するに、既に王家の中では充分に話し合った上での要望なのだろう。


「流石に『転移門』を設置するとなれば相互防衛条約だけでなく、百合帝国(うち)と正式な同盟関係を結んで貰う必要があるけれど?」

「無論こちらとしては異存は無い。……そちらに利があるかは自信がないが」

「ふむ……」


 ユリからすれば好ましい申し出ではある。

 レイピア王国に『転移門』が設置されれば、そちらの民からも探索者に登録して『迷宮地』に挑む者が出てくる筈だ。それは百合帝国の利益に繋がる。


 とはいえ―――流石に今は、些か都合が悪いか。


「悪いけれど、ハイドラ王国との戦争が終わってからにして貰えないかしら?」

「む……。最悪の事態(・・・・・)の際には、国民を逃がす経路として利用したい思惑もある。故に設置は早ければ早いほど有難いが……」


 最悪の事態とはつまり、ハイドラ王国の侵攻軍に押し切られて周辺都市が征服され、更にはレイピア王国の首都にまで敵軍が迫ってきた場合のことだろう。

 確かに、その際に予め逃げ道が確保されているか否かは、多くの民の生死に関わることにもなる。


「私は無闇に敵に情報を与えるべきでは無いと思う」

「情報を……?」

「『転移門』を設置すれば、レイピア王国の人達が自由に百合帝国を訪問できるようになる。そうなればレイピア王国と百合帝国が同盟関係を結んだ事実は、すぐに敵方に知られることになるわ。おそらくハイドラ王国だって、レイピア王国の中に密偵をある程度潜らせている筈だからね」

「む、それは確かに、そうでしょうな……」

「なるべく私は、レイピア王国との戦争に百合帝国がしゃしゃり出てくることを、相手が予見できない状態にしておきたいのよ」


 嘗てユリが【星堕とし(メテオ・ストライク)】を用いて王国軍を一網打尽にしたことは、当時から百合帝国の住民であった者なら誰でも知っていることだ。


 百合帝国がレイピア王国を庇護する可能性や、ユリが超広範囲殲滅魔法を行使できる事実が、下手にハイドラ王国へ伝われば。敵方が侵攻を取り止めてしまう可能性だってあるわけで。

 それは骸骨兵を補充したい思惑を持つユリにとって、望ましい展開ではない。


「そういうことであれば致し方ありません。ただでさえ防衛戦を買って出て頂いた恩義があるというのに、その上に我侭まで重ねるわけには」

「悪いわね。その代わり無事に戦争が終わったら、ちゃんと要望には応じるから」

「その言質を頂けるだけでも、充分に有難いです」


 レイヴン王が差し出してきた手を、ユリはすぐに握り締める。

 事実上、同盟関係が両国主によって締結されたと言っても良い瞬間だった。



 

-

お読み下さりありがとうございました。


※以前に154話の日付矛盾を誤字報告機能から指摘下さいました方へ

修正が遅れておりますが、もう少しだけお待ち下さい。すみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] 神様が運営してる国を参考にできたら、神様に並べるのでは
[一言] キャラクター紹介のページないの?
[良い点] つまりユリは「どうしてもメテオ落としたい!メテオ落としたい!メテオ落としたい!」と駄々こねている?まあ、気持ちいいですからね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ