160. 相互防衛(前)
今回投稿分は未推敲な上に大変短いです。申し訳ありません。
(昨日誕生日だったのですが、夜に友人が急に来たため全然書けませんでした)
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『撫子』から情報を受け取ったその日の内に、ユリはレイピア王国を訪問した。
情報は確度が一番重要だけれど、二番目には鮮度も重要になる。早めに情報提供を行った方が、レイヴン王に喜ばれると思ったからだ。
「悪かったわね、無理に付き合わせたりして」
「いえ。私も気軽に移動できるなら、たまには帰りたいと思っていましたので」
「そう言って貰えると助かるわ」
転移魔法を利用した今回の訪問には、ユベルを同行させている。
ユリ1人で訪問すれば、それは『国主が国主を訪問する』のに他ならないため、事前に百合帝国から先触れを派遣する必要があるし、相手にも歓待の面倒を強いることになりかねない。
ユベルを同行していれば、彼女の帰省に『転移魔法の使い手として付き合った』という建前をユリは主張できる。やや強弁に近いかもしれないが、これならば事前の通告無しに訪問しても、咎められることは無いだろう。
以前レイピア王国を訪問した際に、王城前に作成しておいた『転移ポイント』へ転移した2人は、すぐに王城を訪問する。
こちらの国では『放送』を行っていないので、ユリの顔は殆ど知られていない筈だけれど。ユベルが同行しているお陰で、王城の中に入っても衛兵から咎められることは無かった。
「この時間でしたら、お父さまは執務室でしょう」
「案内して貰える?」
「勿論です」
広い王城の中を、迷うことも無くユベルは先導してくれる。
いや、彼女にとって実家のような場所だろうし、迷わなくて当然なのだけれど。
王城の中で遭遇する兵士や騎士、あるいは貴族といった人達の中には、ユベルとユリの姿をみて、ありありと驚きの表情を浮かべる人も少なくなかった。
おそらく大半は、あれほど病弱だったユベルがすっかり健康を取り戻し、元気に歩いている姿を見て驚いているのだろう。もちろん一部にはユリの顔を把握していて、他国の女帝が普通に王城内を闊歩していることに驚いている人も居るのだろうけれど。
レイヴン王との面会は、すぐに叶えられた。
王は唐突に訪問したユリの姿を見るなり、目を剥いて驚いていたけれど。ユリが「急ぎそちらにお伝えしたいことがあります」と静かに告げれば、すぐに対応してくれた。
但し「他国の女帝に立ち話をさせるわけにはいかない」とレイヴン王が言うものだから、場所だけは応接室に移ることになったけれど。
「ユリ殿、先日の一件では大変お世話になりました」
「それについては気にする必要は無いわ。むしろこちらこそ、ユベルを第五側室に迎えたいという私の希望を叶えて下さった事に、お礼を申し上げるべきでしょう」
そう告げてユリが頭を下げると、レイヴン王は何故か苦笑してみせた。
「ユリ殿からの話を拒否した場合、一生私は誰にも嫁ぐことはない―――と。そう娘から手紙で脅されれば、私から何か言えよう筈もありませんな」
「……ユベル、あなたそんなことをレイヴン王に言ったの?」
「あ、あははは……」
決まりが悪そうな表情で、視線を逸らしてみせるユベル。
「……まあ、こうはっきり言ってしまうのも何ですが。本来であれば王家の女子は他国の王族か、あるいは国内の重用したい貴族に嫁ぐことも役目の内とはいえ、ユベルは身体が弱く、誰かの元に嫁がせること自体が考えづらかったですからね。
ユベルがユリ殿に側室として迎えられ、百合帝国との誼を結ぶ契機となってくれるのであれば。それは充分に王女としての役目を果たすことになるわけですから、こちらとしても望ましいと思っていますよ」
「そう言ってくれると嬉しいわね。何なら百合帝国と同盟でも結ぶ?」
「それは……嬉しい提案ですが、こんな小国とでも宜しいのですか?」
「こちらとしては是非ともお願いしたいわね。―――近いうちに、レイピア王国は他国から侵略を受けることになるでしょうから、予め同盟を結んでおく方がこちらとしても速やかに援護できるでしょうし」
「………? 当国が、他国より侵略を受ける……ですか?」
「ええ、今後ほぼ間違いなくそうなるでしょう」
「穏やかな話ではありませんな。是非とも詳しくお聞かせ頂きたいものです」
「もちろん、こちらも初めからそのつもりで来ているわ」
レイヴン王が片手を上げて何か合図すると、すぐに部屋の隅に控えていた2人の侍女が応接室から退室した。
どうやら人払いをしてくれたらしい。
「まず、先にひとつ断っておかなければならないのだけれど。私はレイピア王国に自国の手の者を―――密偵を何名か潜伏させているわ」
「珍しくもない話ですな。それで?」
「あら、怒るぐらいはするかと思っていたのだけれど?」
「密偵を送り込むぐらいは、よくある話です。百合帝国はちょっと距離が遠すぎるので対象外ですが、当国も近隣諸国では諜報活動を行っております。当国のような小国家にとって『情報』は大きな武器になり得ますからな」
「なるほどねえ」
小国家が他国と張り合える武器にできるものは少ない。ましてレイピア王国のように、実りが少ない土地ばかりの国であれば尚更だ。
情報戦に国家として重きを置かなければならない時点で、色々と国家運営に苦労していることが何となく察せられた。
ユリは〈インベントリ〉から書類を取り出し、それをレイヴン王とユベルに一部ずつ手渡す。これは今朝『撫子』から受け取った報告書と同じものだ。
「とりあえず目を通してみて貰えるかしら?」
「承知しました」
『撫子』の従者の子が作った書類は、要点が簡潔に纏められていて判りやすい。
だから―――読み始めてから然程の時間も経たないうちに、レイヴン王の表情は険しいものへと変わることになった。
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お読み下さりありがとうございました。




