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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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156/370

154. 淡水河川と海の貝

※この話には「文中での日付描写の矛盾」が存在しますが、まだ修正されておりません。

 お読みになられます方には大変申し訳ありません。近日中に対処します。

 


     [7]



「―――練兵のための施設が欲しい?」

「はい。是非『神域都市』への建造をお願いしたいのです」


 夏の最終日である『夏月40日』の午前中。

 ユリは執務室を訪ねてきた『白百合(エスティア)』隊長のヘラから、そう要望を受けていた。


「国で徴兵なり募兵なりを行うように求める、という意味では無いわよね?」

「はい。市民を鍛えて兵として運用したいわけではなく、あくまで我々が利用するための練兵施設が欲しいのです。話はクロートから聞きましたが、『神域都市』にお迎えした神を相手に『百合帝国』12名のレイドで模擬戦を行った結果、いとも簡単に敗北してしまったとか」

「いとも簡単と言うほどまで酷い勝負では無かったけれど……。かなり判りやすく負けたのは事実ね」

「思えば我々はこの異世界に来てからというもの、自分たちより遙かに格下の魔物や人を狩るばかりで、格上の相手とは一切戦っておりません。

 これでは腑抜けるのも必定というもの。我々が姫様の臣下としてお役に立つためには、やはり日頃から強敵相手の練兵が不可欠だと判断致しました」

「ふむ……」


 セラが言うことは間違ってはいない。

 『神域都市』は最初から土地を結構広めに確保してあるので、『桔梗』の子達が建造作業に手を付けていない空白地が、まだ沢山残っている。広く取れそうな区画を1つ『練兵所』の用地として利用するぐらいは構わないだろう。


「判ったわ。『練兵所』の用地を確保して、中で激しい戦闘を行っても周辺市街に影響が出ないよう『紅梅』の子達に結界を多重で張って貰うことにしましょう」

「ありがとうございます、姫様」

「感謝は不要よ。私の『放送』のネタにもなりそうだしね」


 全員が極限の『レベル200』に達している『百合帝国』の子達が戦闘している様子は、普段『迷宮地』に潜る探索者の戦闘風景をよく視聴している人が見ても、全く異次元の戦闘に映ることだろう。

 派手な戦闘は視聴者受けも良さそうだから、ユリとしてもメリットはある。

 それにいい加減、毎晩毎晩『放送』のネタを用意するのにも苦労しているのだ。


「アマテラスの話だと、神々の中には好戦的な者も少なくないようだから、模擬戦の相手には事欠かないでしょうし。私がレイドボスの使役獣を召喚することも出来るから、良い訓練にはなるでしょうね」

「はい。練兵所を利用して戦訓を積み、姫様の指揮が得られない時にも集団戦闘が上手く行えるようにしたいと考えております」

「なるほど、それも重要かもね」


 『アトロス・オンライン』のゲーム内に於いて、24人レイドなどで集団戦闘を行う際には、常にユリが戦闘の指揮を執っていた。

 これは『百合帝国』のギルドにプレイヤーがユリ1人しか居なかった以上、当然と言えばあまりに当然のことなのだけれど―――。ともかく、そのせいで『ユリの指揮が得られない状況』で集団戦闘を行う経験が、『百合帝国』の子達には大いに不足しているのだ。


 実際、模擬戦に敗北した理由の1つには『誰も全体の指揮を上手く執ることが出来なかったため、戦い方が安直になりがちだった』ことも挙げられる。

 なので集団戦闘の経験を積みたいとヘラが望むのも、理解できる話だった。


「メテオラには私から話をしておきましょう」

「ありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」


 ユリに向けて深く一礼した後に、ヘラは慌ただしく退室していった。

 おそらくは、これから彼女は『駆逐』に出掛けるつもりなのだろう。


 月が変わって魔物が復活したため、今朝は早い時間から、多くの子達が『駆逐』の為に出掛けて、ユリタニアから離れている。

 皆のレベル上げに対する熱意がいつも以上に高まっているのは、やはり良くも悪くも『模擬戦に敗北した』という事実が、それだけ『百合帝国』の子達に刺激を与えたからだろう。


(自身の成長に貪欲なのは、結構なことね)


 『百合帝国』の子達がより強くなるのは、ユリにとっても嬉しいことだ。


 とはいえ『駆逐』で狩猟する魔物のレベルは大半が50以下ばかりなので、正直それほど経験値効率が良いわけではない。

 あるいは―――そろそろ一般市民向けにではなく『百合帝国』の子達に向けた、レベル200以上の使役獣を配置した『迷宮地』を作るのも良いだろうか。


(……おっと。考え事をする前に、まずは報告書に目を通さなきゃ)


 そう思い、ユリは執務机に積まれている今日の分の報告書に手を伸ばす。

 報告書の1枚目に目を通した時点で、思わずユリの目が点になった。


「は……? 『神域都市』の川から、赤貝と(はまぐり)が採れるようになった……?」


 建造中の『神域都市』には2つの川が流れているのだけれど、どうやらその両方の川から急に、赤貝と蛤が大量に採れるようになったらしい。

 言うまでもなく赤貝も蛤も、どちらも本来は海で採れる貝になる。蛤に関しては河川が注ぎ込む汽水域のほうがよく採れるけれど……さすがに完全な淡水環境である『川』で採れるという話は聞いたことが無い。


(ああ―――そうか、キサガイヒメとウムギヒメが居るからか)


 けれど、ユリはその理由について程なく思い当たった。


 昨日の模擬戦の際に、カミムスヒを護る前衛として大鎌を手に戦っていた少女。キサガイヒメとウムギヒメの2人は、それぞれ赤貝と蛤が神格化された存在だ。

 おそらくはカミムスヒが顕現させたことで、あたかもキサガイヒメとウムギヒメを『土地に宿した』かのような恩恵が『神域都市』に齎されたのだろう。


(まあ、海が遠いから、多少でも海産物が手に入るのは嬉しくはあるわね)


 キサガイヒメとウムギヒメが顕現し続ける限り、『神域都市』の川では採っても採っても赤貝と蛤の2つだけは延々と増え続けることになりそうだ。

 ならば、いっそ土地の名産品として活用する方が賢明だろう。


 赤貝にしても蛤にしても、酒に合う料理が色々と作れそうだ。

 ユーロに頼んで纏めて調理して貰い、出来たての状態の儘『撫子』の子達に保存しておいて貰おうか。


(そういえば『酒』と言えば……)


 昨日の模擬戦が終わった後、ユリはカミムスヒから「良ければ息子もこの都市に()んであげて欲しい」と求められていたことを思い出す。


 カミムスヒの言う『息子』とは、つまり『少名毘古那(スクナビコナ)』のことだ。

 スクナビコナは沢山の権能を持つ神様なのだけれど。その中のひとつに『酒造』が含まれているため、彼を迎えると『神域都市』の産業の1つに酒造を加えられそうな気がする。

 また、彼の権能の中には『温泉』も含まれているため、既にある温泉の管理者を任せるのにも都合が良いだろう。


(次回の勧請の候補に加えておいたほうが良さそうね)


 いま備蓄されているものより、更に美味しい日本酒が飲めるかもしれない。

 その理由1つだけでも、スクナビコナをお迎えする理由としては充分だった。




 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] 酒が飲めるゾ!!
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