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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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153. 模擬戦

 


     [6]



 身の丈を遙かに超える大鎌が、信じられない速度で振るわれる。

 『白百合(エスティア)』副隊長のクロートが即座に大盾でその刃を防ぐものの、弾けるような金属音が打ち鳴らされると同時に、2メートル近くノックバックさせられた。


 それほどに力強い一閃を繰り出しておきながら、大鎌を握る少女の表情はいとも涼しげだ。

 すぐに2撃3撃と追加の刃が繰り出されてくるのを、同じく『白百合』副隊長のラケシスがクロートと息を合わせて上手く凌いでいく。けれど一撃一撃を受け止める度に大きく後退させられてしまうその様子を見れば、明らかに大鎌の少女に戦況を押されていることが、素人から見ても明白に判るだろう。


 ―――しかも、大鎌を手に持つ少女の数は2人居る。

 もう1人の少女もまた負けず劣らす、小柄な体躯に全く見合わない信じられない程の膂力を遺憾なく発揮して、大鎌を振るう。

 その一撃を『姫百合(パティア)』副隊長のプラリネが盾で防ぐ―――が、防ぎきれない。

 プラリネの身体は空を舞い、十数メートル近くも弾き飛ばされた上に、衝撃で結構なダメージを受ける羽目になった。


 防御能力と神聖魔法のみに特化された『白百合』と、攻防に加えて一通りの魔術も魔法もと、万能性を追求した『姫百合』では性能に大きな隔たりがある。

 かろうじて『白百合』が受け止められるレベルの攻撃を、『姫百合』の子が充分に防ぎきれる筈も無かった。


「―――我等が敵を捕らえ、その力を吸い尽くせ! 【精霊の葛縛(エネソ・グラーパ)】!」

「濁腐の呪いよ地に満ちよ! 穢血(あいけつ)を望め渇きの軍勢! 【呪業泥地(ラブラン・バイン)】!」


 とはいえ『百合帝国』の子達も一方的にやられるばかりではない。

 仲間が大鎌少女達の攻撃を受けてくれている間に詠唱を完成させ、『青薔薇(シュクレーズ)』副隊長のデネボラが拘束の精霊魔法を、『黒百合(ノスティア)』副隊長のリオが死霊魔術を、それぞれに行使する。


 【精霊の葛縛】はレベル140の地属性精霊魔法で、大地から急速に伸びた無数の蔓が狭い範囲内に存在する全ての敵を拘束し、その動きを封じる。更に拘束中の敵から生命力と魔力、身体能力値の一部を吸収してしまうという強力な魔法だ。

 ちょうど大鎌の少女2人が近い位置に立っていたこともあり、デネボラが行使した【精霊の葛縛】は上手く2人を纏めて拘束することに成功する。

 大鎌の少女達は[筋力]や[敏捷]の能力値がかなり高いようだけれど、能力値の吸収に成功すればその動きを鈍らせ、脅威を削ぐことが出来るだろう。


 【呪業泥地】はレベル185の死霊魔術で、自身を中心に半径20メートル範囲の大地を『呪業の泥』で満たし、自身の味方となって戦うアンデッドモンスターが30秒毎に自動生成されるようにするというものだ。

 生成されるアンデッドモンスターはランダムながら、最低でも『レベル100』が保証され、運が良ければ最高で『レベル185』までの個体が出現する。

 術者が維持する限り『呪業の泥』は存在し続けるため、この魔術を行使しておくだけで、延々とこの場にアンデッドモンスターが増え続けることになる。


 【精霊の葛縛】の耐久力は『4000』。

 拘束中の敵は完全な無防備状態だけれど、拘束中の敵に攻撃を加えてダメージを与えると、その分だけ【精霊の葛縛】の耐久力が減少してしまい、耐久力が0になれば拘束が解除されてしまう。

 なので、ここは一旦攻撃の手を止め【精霊の葛縛】に敵の能力値を吸わせつつ、【呪業泥地】によるアンデッドモンスター誕生を待つのが賢明だろう。


「土地神の祖たる私を前に、愚かなことを―――」


 けれども『百合帝国』の子達の策謀を、3人目の敵が許さない。

 ここまでは大鎌の少女2人に前衛を任せて、後衛としてただ場を眺めていた女性が、不意に柏手を打つかのように両手で大きな音を立てる。

 すると―――【精霊の葛縛】も【呪業泥地】も、どちらの魔法・魔術も瞬く間に打ち消されて、初めから無かったかのように雲散霧消してしまった。


「「―――なッ!?」」


 まさか呪文の詠唱ひとつも無しに、高レベルの魔法と魔術を打ち消されるとは、思っても居なかったのだろう。デネボラとリオの表情が驚きに染まる。

 けれど『百合帝国』の子達が驚きに包まれたのとは対照的に、大鎌の少女2人は仲間が解除してくれると何の疑いもなく信じていたようだ。少女2人が攻撃の手を即座に再開し、再び『百合帝国』の子達は押されていくことになった。




「彼女は最も尊き『大地創造の女神』ですからね。『地属性の魔法』や『大地に特殊効果を被覆する魔術』を打ち消すことなど、造作もありませんよ」

「なるほどねえ……」


 戦いの様子を傍観していたアマテラスが、状況をそう解説してくれた。

 その説明を聞いてユリも得心する。冷静に考えてみれば、確かにその通りだ。


 ―――いまユリとアマテラスの2人の前で行われているのは、模擬戦だ。

 片方は『百合帝国』の副隊長12名によって構成された2パーティのレイドで、もう片方はアマテラスが『大地創造の女神』と称した『神産巣日神(カミムスヒ)』に、その配下の『蚶貝比売(キサガイヒメ)』と『蛤貝比売(ウムギヒメ)』が加わった3名のパーティになる。

 キサガイヒメとウムギヒメの2人は『アトロス・オンライン』のゲーム中では、カミムスヒが召喚する配下神という扱いだったのだけれど。実際には『召喚』と言うより『生成』に近いらしく、カミムスヒはこの異世界でも問題無く2人の配下神を顕現してみせた。


 アマテラスと同じく御神体に『八咫鏡+10』を用いたことで、カミムスヒのレベルも『2546』にまで強化されている。

 配下神であるキサガイヒメとウムギヒメもまたレベル『1782』と、かなり高いものとなっている。ぶっちゃけ覇竜ラドラグルフと較べても遜色ない強さだ。

 おそらくはユリ達が行使する【従者召喚】スキルと同じように、実行者のレベルに応じて召喚される個体のレベルも高くなるタイプなのだろう。


「そろそろ決着が付きそうです」

「優秀なヒーラーまで居る相手を崩すには、12名では足りないようね」


 前衛を務めるキサガイヒメとウムギヒメは『一番近くに居る敵を大鎌で斬る』という判りやすい行動しか取っていないのだけれど、その攻撃で毎回盾役(タンク)が押し戻されたり弾き飛ばされたりするものだから、距離を詰めることができない。

 だから後衛のカミムスヒが安全を確保できてしまっている。カミムスヒは『大地創造の女神』であると同時に優れた治療術の使い手でもあるため、攻撃一辺倒のキサガイヒメとウムギヒメに手傷を負わせても、即座に完全回復されてしまう。矢や攻撃魔術で多少のダメージをカミムスヒに負わせても、それは同じことだ。


 一方的に追い詰められていく状況下で唯一『百合帝国』に勝機があるとすれば、ヒーラーのカミムスヒを一気呵成に攻め立てて、先に落とすことぐらいだろう。

 だから『百合帝国』の子達は広く散開し、全員でカミムスヒを狙うという賭けに出たようだ。


 けれども、それは悪手だ。『大地創造の女神』であるカミムスヒは大地を自在に操ることができる。カミムスヒが再び両手を打ち鳴らすと、地面が大きく隆起すると共に、一瞬のうちに彼女を囲む簡易の全方位防壁が形成されてしまった。

 その防壁の破壊を試みている間に、散開したせいで盾役から離れている攻撃役にキサガイヒメとウムギヒメの凶刃が向かえば―――命を落とすのに、然程の時間も掛かりはしない。


「―――そこまで!」


 場に展開されている【救命結界】が2度起動したのを確認して、ユリは模擬戦の終了を宣告する。

 落とされたのは『黒百合』副隊長のリオと『桜花(おうか)』副隊長のレンゲの2人だ。攻撃役の要である2人が倒されてしまえば、もう逆転の目も無いだろう。


 ユリの宣告を受けて『百合帝国』の子達全員がその場に崩れ落ちた。

 敗北に落胆したのではなく、純粋に疲労からのものだろう。それだけ緊張の糸を張り詰めさせ、限界を超える戦いを強いられていたということだ。


「付き合って貰ってありがとう、カミムスヒ。長らく強い相手と戦う機会が無く、うちの子達も緩んでいただろうから、今回の模擬戦は良い刺激になったと思うわ」

「こちらこそ、ありがとうございます。現在の自身の力量を見極めるための、大変良い機会になりました」

「お三方とも大した強さね。うちの子達など歯牙にも掛かっていなかったかしら」

「……それに関しては、どう考えてもユリ陛下が最高の品を用いて、私の神体として下さったお陰でしょう。どうやら現在の私の力は、以前の10倍近くにまで強化されているようです。以前と同じ儘の強さしか持っていなければ、歯牙にも掛からないのは私達の側だったことでしょう」


 カミムスヒの言葉に、キサガイヒメとウムギヒメが即座に首肯する。


「というか―――百合帝国の皆様の実力は、計り知れぬものがありますね。今回は12名でしたので勝てましたが、倍の24名が相手であれば、現在の私達でも全く勝ちの目は無いかと」

「そこは装備の差もあるからね」


 『百合帝国』の子達は、本人が持つ『レベル200』の実力も然ることながら、装備品の性能が極めて強力だという点でかなりの優位がある。

 課金装備を満載すれば、それほどに実力が極端に押し上げられるものなのだ。


「私にせよ、カミムスヒにせよ。どちらの力も今はユリ陛下の為にあるものです」

「ええ、アマテラスの言う通りです。ユリ陛下が望んで下さるなら、私達は喜んで死兵ともなりましょう。何でも気軽にご命令下さいませ」

「忠誠心が重いわねえ……」


 アマテラスとカミムスヒの言葉に、思わずユリは顔を引き攣らせる。


 カミムスヒもアマテラスと同じく、長年に渡って『紅梅』隊長のホタルの身体に憑依していたため、ホタルが持つ忠誠心が感染(うつ)ってしまっている。

 お陰で彼女もまた最初から『忠誠心MAX』の状態にあった。ユリが望めば喜んで死兵になるという言葉にも、おそらく全く誇張は含まれていない。


(2人に何かお願いをするときは、慎重にならないといけないわね……)


 どちらも『レベル2500以上(オーバー)』という、尋常では無い力を有しているのだ。

 容易く国を陥落せしめるレベルの神々が、自分の意志ひとつで動くというのは。もちろん有難いことではあるのだけれど……それ以上に、恐ろしいことのようにもユリには思えてならなかった。




 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] 元から過剰戦力だったから大体問題無いね
[一言] つまらないです。
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