135. 3国君主と商人の会合(1)
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「悪かったわね、呼びつけるような真似をしてしまって」
「いえ。ユリ陛下が『転移門』を設置して下さっているお陰で、移動に殆ど時間が掛かりませんからね。楽なものですよ」
「ええ、全くです。帰りに美味しい食事も楽しめますし、いつでも呼んで下さい」
ユリタニア宮殿1階の会議室。
そこに集められたシュレジア公国君主のカダイン・テオドール公と、ニムン聖国聖王のアルトリウス教皇が、それぞれ笑顔でそう応えた。
3国の国主が集まる機会は、実はそれほど珍しいことではない。
カダインが告げた通り、『転移門』が設置されていれば移動には然したる手間も掛からないから。大体月に1~2回ぐらいは、こうして国主3人で集まって、会合の場を設けているだろうか。
他国と密に連絡を取れて、しかも直接会って話が出来るというのは。先方2国の認識からすると「とても贅沢」なことに思えるらしい。
『転移門』さえ無ければ、この世界では『早馬』が最速の情報伝達手段であることを思えば、無理もないことだが。
「だんな様、『放送』お疲れさまでした」
「今夜の旦那様の『放送』も、とても面白かったです」
「ええ、ありがとう2人とも」
ユリは先程まで別室で、3国の民に向けて毎日定例の『放送』を行っていた。
そのことをリゼリアとロゼロッテの2人から労われて、思わずユリの顔が綻ぶ。
ユリの『第三側室』と『第四側室』であるリゼリアとロゼロッテの2人は、ユリに愛された翌日から、ユリのことを『旦那様』と呼ぶようになっていた。
女の身で『旦那』と呼ばれるのは、多少複雑ではあるけれど。2人からの親愛の呼称だと思えば、悪い気はしない。
会合の場には、他の2人の側室―――エシュトアとソフィアの姿もある。
また今回は『貨幣』に関する話をする予定なので、商人視点からの意見を求めるために『ロスティネ商会』会頭のルベッタ、『トルマーク商会』会頭のアドスとエリンの夫妻、及び『ヘイズ商会』会頭のオーレンスにも来て貰っていた。
「では、会合を始めるわね。先に訊いてしまうけれど―――今回は百合帝国からの話が多くなるから、もし聖国や公国から何か話があるようなら、先に挙げて貰って構わないけれど?」
「聖国としては、特にありませんね」
「公国も同じく」
「そう。では有難く、今日は私の話の主導で行わせて貰うわね。
まずは連絡事項から―――3日後に暦が『夏月』に変わるわけだけれど、それと同時に百合帝国では『鉱山都市ユリーカ』の都市運営を開始するわ。
これは公国から和睦時に割譲して貰った山岳地帯の鉱山付近に新造した都市で、現在ある『鉱山都市ダカート』の代替都市になるわね。なのでダカートの住民を、そのまま移住させる形での運営になる。移住期間は半年、移住完了後にはダカートの都市は破棄する予定でいるわ」
ユリがそこまで説明した所で、アルトリウスがゆっくりと挙手をする。
どうぞ、と声を掛けてユリの側から発言を促した。
「何か都市を造り直さなければならない重大な問題点が、そのダカートという都市にあったという事でしょうか?」
「そう言っても良いでしょう。まず第1に、ダカートは都市設計が皆無の状態で無計画に拡大を繰り返したせいで、都市内に無駄に『防壁』が多く、また狭くて湾曲した街路が多すぎる。都市内の移動が非効率になり過ぎているわ。
第2に、鉱山都市という割に、その『鉱山』がちょっと遠いのよ。大体都市から徒歩で移動したとして、1時間ぐらいは掛かるかしら」
「それは……鉱山から出る毒水などの汚染が都市にまで及ばないようにするには、致し方無いことなのでは無いでしょうか?」
「我々であれば、鉱水は【浄化結界】で無毒化できるからね。だったら、わざわざ鉱山から離れた位置に都市を造る理由も無くなるから」
「ああ、なるほど―――。それはそうでしょうね」
「ついでに言えば、都市に上水道や下水道を配備するのであれば、1から新造してしまった方が楽ということもあるのよね」
既に存在している都市に、後から上水道や下水道を敷設するというのは、大変な労力を要することだ。
傑出した建造能力を持つ『桔梗』を擁している百合帝国からすれば、都市自体を新しく作ってしまう方が、正直色々と面倒が無くて良い。
「まあ、これ自体は本当に、ただの『報告』ね。百合帝国の都市が1つ新しく造り直されるからといって、別に聖国や公国に影響があるわけでもないし。
但しルベッタやアドス、オーレンスには、是非ともユリーカの都市でも幾つか、店舗を営業させることを検討してみて欲しいわね。レベルが高い店舗が多く経営されていれば、それに牽引されて都市全体の店舗のレベルも引き上げられる、という恩恵も期待できることだし」
「承知しました、では『ロスティネ商会』からは食料店や飲食店、衣料店などを幾つか出店させて頂こうと思います」
「『トルマーク商会』からは、魔導具を商う店を出させて頂きましょう」
「屋台を追加でお貸し頂けますなら、ユリーカの都市でも『屋台街』を開いてみたいと思うのですが」
ユリからの要請を受けて、ルベッタとアドス、そしてアドスの妻でありユリタニアとユリシスの屋台を管理しているエリンが、それぞれにそう即答した。
即座に判断してくれる商人というのは、何とも有難いものだ。
「屋台はとりあえず追加で30台ほど、後で貸与しましょう。足りなければ言ってくれれば、もう30台ぐらいまで追加で用意するわ」
「ありがとうございます、ユリ陛下」
「ふうむ……うちはどうすれば良いかい? 折角造った新しい都市に、うちの娼館なんかを出されても、あんたが困るだけじゃないかねえ」
「え、別に歓迎するわよ? 坑夫のような肉体労働職の人なんて、いかにも娼館を利用しそうな層じゃないの。好きに稼いでくれて構わないわよ?」
「そう言ってくれるのは有難いけれどねえ。娼館が造られれば、治安だって悪化することになるだろう?」
「その程度のことで治安が悪化するほど、温い都市運営をするつもりは無いわよ」
娼館が都市に存在する程度のことで、頭が緩くなって犯罪を行ってしまうような人間など、どうせもともと都市に居ても居なくても良い人間なのだ。
犯罪者はユリの魔法で即座に発見できるし、全て『国外追放』に処せば良い。面倒な輩を早期に炙り出してくれるなら、むしろメリットにさえ感じる。
「それに、オーレンスには『化粧品』の販売店も任せているでしょう? いつまで娼館経営だけでやってる商会の気分で居るのよ」
「お、おお、そう言えばそうだったねえ……。娼館ババアとしての性根が骨の髄にまで染みこんじまったせいで、化粧品のことなんてすっかり忘れてたよ。今じゃあ娼館よりも化粧品の商いのほうが、ずっと稼げてるって言うのにねえ……」
「しっかりして頂戴。それにもう、あなたは外見的に『ババア』を名乗るのには、ちょっと無理があると思うわよ?」
現在のオーレンスの姿は、出逢った当初からは想像も出来ないほどに、若々しい肉体へと変化している。
言うまでもなく、ユリが供与している『変若水』の効果によるものだ。
「―――で、ここからの話が本題なのだけれど。『鉱山都市ユリーカ』の都市運営を開始すると同時に、現在一時的に閉鎖している鉱山を一般開放するわ。
但し、鉱山は『迷宮地』として解放する。中に私の使役獣を―――つまり魔物を配置するし、ユリシスの都市と同じように【救命結界】が護ってくれるから、戦闘に敗北したとしても命を喪うことも無いわ」
「なんと、迷宮地の数が更に増えるのですか?」
「ええ、3つ増やす予定よ」
カダインの言葉に、ユリは頷きながらそう応える。
『迷宮地』の存在は百合帝国を富ませているけれど、一方では同盟国のニムン聖国、そして属国であるシュレジア公国にもまた、寄与しているところが大きい。
その数が増えるとなれば、当然各国へ齎される恩恵もまた、更に増える可能性が高いわけで。カダインの表情が期待に緩むのも、当然のことだった。
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