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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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135/370

133. 都市建造の進捗

 


     [5]



 最近、少し妙な輩がユリシスの都市に来るようになった。

 例えば6日前には、公国の都市から『転移門』を利用して、ユリシスの都市へとヴォルミシア帝国の5名の暗殺者が侵入してきた。

 ユリシスの都市は【空間把握】の魔法で監視されており、犯罪歴のある者が都市内に侵入すると、その存在は即座に術者であるユリの元へと通知される。

 なのでユリが指示したことにより、暗殺者達は当然、すぐに『百合帝国』の子達によって捕縛されることになった。


 いずれもヴォルミシア国籍の者なのだけれど、軍部に属しているわけではなく、どうやら暗殺仕事を金で請け負っている少人数のグループらしい。

 軍部に属する暗殺者を送り込んできたとなれば、それは充分開戦事由になり得る一種の攻撃行動とも見なせるけれど。流石に民間の暗殺者グループが訪問してきただけで相手国に責を問うのは、酷というものだろうか。


 暗殺者達は男性が2人に女性が3人だったので、男性は『黒百合』の子達の養分に変えて、女性達はユリタニアに連行して都市地下に収監。

 『黒百合』の子達による調教が完了すれば、彼女達が持っている情報を全て提出させることができるし、手駒としても利用可能になる。

 一体何が目的でユリシスへ侵入してきたのかは知らないけれど、それも遠からず明らかになることだろう。

 人的資源が向こうから来てくれるのは、ユリとしては歓迎すべき事だ。


 また昨日には8輛編成の馬車で、公国から交易路を通ってユリシスまでやってきた商人の集団が、ユリシスへの移住を申請してくることがあった。

 昨今のユリシスはかなりの賑わいを見せているので、商人が店舗を経営しようと商会ごと移住してくるというのは、それほど珍しいことではない。

 ユリシスへの移住者も常時受け付けているので、基本的には歓迎すべき事態なのだけれど。この商人の集団は、30人以上もの『奴隷』を引き連れていた。


 百合帝国の法では、一般市民が他者を奴隷にすることは明確に禁止されている。また他国籍の者でも国内へ奴隷を連れてくること自体が違法で、基本的には発見次第奴隷は没収されることになる。

 この商人達は、ユリシスへの移住手続きを終えた時点で国民になったとみなし、犯罪者として捕縛。商人達は全員を『国外追放』に処し、奴隷達には都市内の住居と2ヶ月分の生活費を与え、ユリシスの市民として迎え入れた。


 奴隷達はかなり酷使されていたようで、どの者も生傷が多く、また見せしめとして重度の怪我を負わされている者も少なくなかった。

 おそらく商人達は、【救命結界】で護られているユリシスでは天寿の者を除けば絶対に死亡者が出ない事実を知り、この都市でならより奴隷を苛烈に酷使できると考えて、移住を希望してきたのだろうか。

 『睡蓮』の手で怪我を完全に治療されたことで、奴隷の者達は百合帝国に対して深い感謝の意を示してくれたので、今後は良き市民となってくれることだろう。

 人口が向こうから来てくれるのは、ユリとしては歓迎すべき事だ。


 ―――という感じで、基本的には速やかな対処が行えていると思う。

 ユリシスに関する良い噂が広まれば、それだけ発展著しい都市にあやかろうとして良からぬ輩がやってくるのは、ある程度は想定出来ていたことでもある。

 今後も基本的には手際良く内々に処理しつつ、国の利益に変えられる部分はそうしていくつもりだ。




「あるじ様。『桔梗(ききょう)』のメテオラから『鉱山都市』の名称をそろそろ決めて欲しいと要望が来ておりますが」

「ああ、そうだったわね……」


 今夜の寵愛当番である『紅梅(こうばい)』のムラサキが、執務室でお茶を淹れてくれながら告げたその一言に、ユリは頭を悩ませる。

 『桔梗』の子達は自分たちが建造した都市に『ユリ』の名が含まれる都市名が与えられることを望む。なのでユリタニアとユリシスのように、『鉱山都市』にもまた、何か『ユリ』から始まる名称を考えなければならないのだけれど……。


 実はユリは名前を考えるという行為自体が、あまり得意ではないのだ。

 まして『ユリ』から始まる名称に限定されるとなれば、尚更決めるのは難しい。


「うーん、そうね……。ユリイカ―――いえ、『ユリーカ』という都市名にしようと思うのだけれど、どうかしら」

「大変良きお名前かと存じます」


 ユリの言葉を受けて、ムラサキがそう即答した。


 ユリーカは『Eureka(エウレカ)』、ギリシャ語で「見つけた」という意味を持つ、感嘆詞に由来する言葉だ。アルキメデスが体積の測量方法を思いついた際に風呂場で叫んだとされる、例のエピソードで一般には知られているだろうか。

 鉱山に潜って、希少な鉱物資源を探し求める者達が住まう都市の名称としては、ある意味で非常に相応しいものでもあるだろう。是非とも魔物を怖れず果敢に挑戦して、坑道の中で「見つけた(ユリーカ)!」と叫んで欲しいものだ。


「では新都市の名前はユリーカで決まりですね。そういえば―――結局ユリーカの坑道では、一体どのような鉱石が採れるのでしょう?」

「……割と何でも採れるらしいわよ?」


 ムラサキが問いかけた言葉に、半ば苦笑混じりにユリはそう応える。

 ユリーカの鉱山には、カナヤマヒコとカナヤマヒメの両名がやろうと思えば、大半の鉱物資源なら何でも自由に追加できるらしい。

 現状でも『銅』や『鉄』、『銀』などに加えて、『金』や『白金』、『亜鉛』に『(すず)』、『クロム』に『ニッケル』、『ボーキサイト』や『石炭』まで採れるらしいのだから、もう訳が判らない。


「う、うーん……。ですがクーナはきっと喜ぶでしょうね」

「ああ、うん。彼女は、それはもう大喜びしていたわ」


 『竜胆』の副隊長であり、鍛冶系の最上位職である〈神鎚(オデロ)〉の職業(クラス)を持つクーナは、ユリーカの鉱山から思いのほか数多の鉱石が採れると知り、欣喜雀躍といった様子で大喜びしていた。

 まだ鉱山都市の稼働も開始していないというのに、速攻で鉱山を訪問して幾つもの鉱石を採掘して来て、その日の内に『ステンレス鋼』まで造っていたというのだから、彼女も大概だ。

 まあ、ステンレス鋼は何かと用途の多い合金でもあるので、国としては有難い部分も大きいのだけれど。


「何にしても『鉱山都市』のほうが済んだのですから、これで『桔梗』が次の『神域都市』の建造に着手できますね」

「そういえば、都市予定地の神域化についてはもう済んだのかしら?」

「都市面積をかなり広く取る予定のようなので、正直難航しておりますね。6割方は既に完了しておりますが、一応今月末ぐらいまでは掛かるとお考え下さい」


 ユリの問いかけに、ムラサキがそう回答する。

 次の『神域都市』を建造する最初の段階の、都市予定地の『神域化』作業は、ムラサキが所属する『紅梅』の子達が務めてくれている。


「今月末ね、判ったわ。これで『八百万の神々が住まう温泉都市を作る』という計画がスタートしたわけね。

 ああ―――そういえば、温泉は無事に出たのかしら?」

「はい、そちらは調査に着手した初日にはもう掘り当てていたとか。

 カナヤマヒコ殿が『ここを掘ればおそらく出る』と告げた地点から、一分の誤差も無かったそうですから、掘削コストも最小限に抑えられたそうです」

「それは素晴らしいわね。後でカナヤマヒコには礼をしておくとしましょう」


 地中の事情には些かばかり見通しが利く、と言っていたカナヤマヒコの言葉は、どうやら真実だったらしい。

 但し『些か』という部分には、大いに謙遜が含まれているようだけれど。


「……ちなみに、もう入れたりするのかしら?」


 ユリタニアの宮殿に風呂はあるけれど、やはり『温泉』となれば興味も沸く。

 けれどそう訊ねたユリに、ムラサキは(かぶり)を振ってみせた。


「残念ながら、熱すぎてそのままでは入湯に向かないそうです。何でも源泉のままだと90℃を超える高温だとか。適度に冷まさなければ入浴に適した温度になりませんので、『桔梗』が湯殿を設えるまでお待ちになる方が賢明かと思われます」

「そう……。残念だけれど、そのぶん期待しておくことにするわ」

「それが宜しいかと。あと先程の話に戻りますが―――神域都市の予定地を『神域化』するに当たり、その作業で御神酒(おみき)(あわ)を大量に消費しております。作業完了までに、備蓄の8割近い量を消費することになると思われますので、これについてはご承知おき下さい」

「8割かあ……なかなか手痛い量ね。こちらの世界での米と粟の栽培を、本格的に考えた方が良い時が来たのかもしれないわ」


 粟と、御神酒(おみき)の材料である米は、まだこちらの世界では一度も見かけたことが無い穀物になる。

 備蓄量が2割に減るとなれば、栽培して備蓄量を補充することを考えなければならないけれど。『リーンガルド』は1年が『365日』の世界なので、あちらの世界の米をそのまま、1年が『160日』しか無いこちらの世界で栽培しようとしても、おそらく上手くは行かないだろう。


 場合によっては【気象操作】の魔術を用いて、あたかも1年が『365日』単位で推移するかのように季節環境を逐次操作しながら、水田などを運営する必要があるかもしれない。

 【気象操作】の使い手である『紅薔薇(エンクレーズ)』の子達には負担を強いることになりそうだけれど、米は食生活上でも不可欠のものなので、こちらの世界でも栽培を行うことは、どうせいずれ必要になる。


「あるじ様。それに関しては大宜都比売(オオゲツヒメ)をお迎えすれば解決するかと」

「え? ああ―――そういえば、そんな神様が居たわね」


 オオゲツヒメは日本神話に登場する女神で、その名は『大いなる食物の女神』を意味する。

 『アトロス・オンライン』のゲーム中では非常に格が高い神様として登場しており、任意に五穀―――稲と麦、粟、大豆と小豆を生産できる能力を有していた。

 なので確かに、この世界にオオゲツヒメを()べば、わざわざ水田や畑での栽培を行わずとも、米や粟が幾らでも手に入ることになる。


 またオオゲツヒメは『五穀』の他に『養蚕』の神でもあるため、彼の女神を土地に宿すと、付近一帯での五穀の栽培や養蚕の効率が大幅に向上する恩恵がある。

 その辺のメリットを活かして『神域都市』を農業と養蚕の都市にする、というのも面白いかもしれない。




 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] >>良いうわさ せめて、先に奴隷を手放す選択肢はくれてあげてwwww >>おんせん 90℃でも問題無く入れそうかなって
[一言] 名前つけるの苦手なの分かるー 特にユリさんは全部にユリがついてるから「こいつどんだけ自分の事好きなんだよ」って思われそうで余計に嫌そう
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