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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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128. 迷宮探索生放送中(後)

 


     [6]



 ユリシスの都市に存在する、全部で6つの『迷宮地』。

 それぞれが地下5階まである迷宮地は、階ごとに5種類の魔物が配置されている場合が多く、この『初級者向けⅠ』の地下1階でもそれは当て嵌まる。


 大きめの兎に似た魔物の『ピティ』、目眩を引き起こす毒を持つ『揺らぎ蛇』、高度を稼がれると厄介な『吸血コウモリ』、判りやすい弱点があるのに攻撃せずに倒したい『犬キノコ』。

 サユリ達がここまでに遭遇した魔物は4種類だけで。迷宮地に入ってから早くも1時間が経とうというのに、残る1種類の魔物とはなかなか出逢えずに居た。


(今晩の『放送』で、地下1階の魔物は一通り紹介しておきたいのよね……)


 そういう思惑もあり、アルカナにお願いしてサユリはパーティの先導役を少しだけ代わって貰うことにした。


 この迷宮地に配置されている魔物は全てユリの使役獣なので、どの魔物がどこに存在しているかが、常にサユリには手に取るように判る。

 だからサユリが先導役を務めれば、まだ遭遇していない魔物が居る側へ、最短距離で向かうことも容易なわけだ。


「サユリ。この『迷宮地(ダンジョン)』の中では、私達は死なない(・・・・)のですよね?」

「うん? ええ、そうよ。この迷宮地では―――というか、ユリシスの都市自体が全部丸ごと【救命結界】に覆われているからね。この結界内で命を落とした場合、強制的に『救命』されて指定した場所へと転移することになる。だから、より正確に言うなら、死なないと言うより死ねない(・・・・)ようになっているわ」


 リュディナの疑問に、サユリは回答する。

 これは『探索者ギルド』で登録作業を行う際に、必ず窓口で説明される内容のひとつでもある。だからその事実は、探索者全員に周知されている筈だ。


「……天寿を全うした人も『救命』されるのですか?」

「良い質問ね、アルカナ。普通に【救命結界】を運用すれば、その通りになるわ。でも、そこは結界に適用対象の『例外』を設定することで、寿命で亡くなった方には適用しないようにしてあるのよ」


 『救命』された対象は傷病状態が治療され、生命力も全快するのだけれど。寿命で死亡する相手は『救命』したところで、また当日中には死ぬ定めにある。

 若返りの秘薬である『変若水(おちみず)』を振る舞えば、寿命で逝く人を助けることも可能ではあるけれど。流石に充分な備蓄量があるとはいえ、一般市民にまで振舞えるほどではない。

 なので、寿命で亡くなる人は結界効果の『例外』に設定して、自然のままに逝かせるようになっている。


「この迷宮地に配置されているサユリの使役獣も、結界の効果で『救命』されているから、倒されても何度でも復活するのでしょうか?」

「ああ―――いえ、それは違うわ。使役獣も【救命結界】の例外に登録しているから、天寿を全うする人と同じく『救命』されることは無い。

 主人である私がこんなことを言うのは、少し残酷かもしれないけれど―――倒された使役獣の子達には、ちゃんと『死んで貰う』必要があるのよ。そうでないと素材が手に入らないからね」

「……言われてみればそうですね。魔物の骸を解体して、それで初めて素材が得られるわけですから」


 探索者の命が保護されている一方で、使役獣の側だけが戦いにより命を落とすというのは、少し不公平(アンフェア)な気もするけれど。こればかりは迷宮地が『素材産出地』である以上、致し方無いことだ。


「ちなみに倒された魔物は、この迷宮地の『隠し部屋』に設置されている『象徴(トーテム)』の効果で、5分後ぐらいに自動的に復活するようになっているわ。

 流石に倒された使役獣達を、私が【蘇生召喚】して回るのは大変だからね」


 『象徴(トーテム)』は〈精霊術師〉系の職業が扱う設置物で、設置地点を中心に一定範囲内に様々な効果を及ぼすことができる。

 この迷宮地に設置されているのは『魔物の象徴(モンスター・トーテム)』というもので、これは『付近で倒された魔物を無差別に設置地点で復活する』という効果がある。

 だから迷宮地の中で倒された使役獣は全て『隠し部屋』で復活する。後は各階の天井裏に風導管(ダクト)のように張り巡らされた魔物専用の隠し通路を通って移動し、付近に探索者が居なさそうな場所で再登場(リスポーン)するわけだ。


「色々と構造を考えて『迷宮地』を作っているのですね……」

「私の『嫁』は優秀だからね」


 迷宮地の構造については、多少の口出しこそしたものの、基本的には『桔梗』の子達が設計から施工まで担当している。

 自分の愛する子が褒められるというのは、サユリとしても悪い気はしない。


「―――あっ、前方に4体です」

「判ったわ。ありがとう、アルカナ」


 通路の先に何の魔物が居るのかは、もちろんサユリには判っているのだけれど。知らない振りを装いながら、リュディナと共に通路の先側を覗き込む。

 そこには、やや黒ずんだ緑の体色をした、50~60cm近いサイズの『蛙』が4体、通路を遮るようにじっと佇んでいた。


「あれは『ガマ』という魔物ね。重たい身体を持ち、高いジャンプ力も備えているから、頭上から踏みつけられると危険なので気をつけて。

 それから表皮が結構硬い上に『ぬめぬめ』しているから、甘い角度で斬撃や打撃を加えようとすると、表皮を滑って有効なダメージを与えられないことが多いわ」

「む、それは厄介ですね……。対処法はありますか?」

「点で攻撃する武器の方が、楽に表皮を貫けるわ。だから攻撃は、アルカナの弓と私の槍に任せて、リュディナは2体を受け持って防御に専念して頂戴」

「なるほど、承知しました」


 敵の突進を金属の盾で受け止めれば、むしろ敵の側が痛い思いをする。

 だから下手に攻撃を狙って貰うより、リュディナには防御に専念して貰う方が、却って堅実にダメージを与えて貰えそうだ。


「……あのう、サユリお姉さま。私、折角〈魔術師〉の職業を取得したのに、今日殆ど攻撃魔術を使っていないのですが。何か有効な魔術は無いのでしょうか?」

「一応、属性は『火』と『雷』が有効ではあるわね」

「どちらも使えます!」

「但し火魔術で攻撃すると、倒した後に得られる『ガマの油』という素材の量が減少してしまうし、雷魔術で攻撃すると『蛙の肉』の品質が下がっちゃうけれど」

「うう……! ま、またそのパターンですか!?」


 火魔法で攻撃すると、ガマの表皮のぬめりを燃やして充分なダメージを当てて、更に攻撃もしやすくなるのだけれど。一方で、このぬめり成分こそが『ガマの油』という素材なので、燃やすと討伐後の獲得量が激減してしまうのだ。

 薬品の材料となる素材で、レベルの割に金銭価値が高いものでもあるので、安易に燃やしてしまうというのは考え物だ。


 『アトロス・オンライン』の魔術や魔物は、敵の弱点を突くことで大変な優位が得られることが多いのだけれど。一方ではこの例のように、ドロップアイテムに何らかの悪影響を及ぼしてしまう場合もとにかく多い。

 『ダメージ効率は良いのに使いづらい』という仕様が、魔術師系プレイヤー達の頭を悩ませるというのは、ゲーム内で非常によくある話だった。


 結局、アルカナは短弓1本で戦うことに決めたようだ。

 サユリもまた〈調理ボックス〉から短弓を取り出して、矢を番える。


「私達から見て、最も遠い1匹は逃げると思うから、それ以外の敵を狙って頂戴」

「判りました!」


 今回はサユリ達が3人に対して、ガマの魔物が4体。

 相手のほうが1体多いため、戦闘が開始されるとサユリ達から一番離れた位置にいる1匹は、戦闘から即座に離脱することになる。

 その敵に開幕でダメージを与えても、逃げられて無駄になってしまうのだ。


「では、一番左の敵を狙います」

「いいわね、私も同じ敵を狙うわ」

「私がカウントしますね。3、2、1―――」


 リュディナのカウントに合わせて、アルカナとサユリの2人は同時に矢を放つ。

 ガマは通路でじっとしているだけで、微動だにしない。だから狙い撃つのも容易で、2本の矢は見事にガマの丸々と大きい双眸にそれぞれ突き刺さった。


 悲痛な蛙の呻き声が、細い迷宮地の通路に響き渡る。

 敵の1匹が逃亡すると同時に、残る2匹がサユリ達目掛けて駆け寄ってくる。両目を穿たれて視力を失ったガマは、気付けば光となって消滅していた。


「リュディナ、1匹だけで良いから受け持って」

「承知しました」


 片側をリュディナに任せて、もう片方をサユリが受け持つ。


 ガマが繰り出してくる低い位置での突進攻撃と、高い位置からのジャンプ攻撃。高低を使い分ける2つの攻撃はどちらも充分な威力があるけれど、一方で予備動作が大きくて見破りやすいものでもある。

 サユリはジャンプ攻撃を仕掛けてきたガマの勢いを利用して、ショートスピアでガマを腹部から一気に貫く。

 腹部はガマの身体の中でも、最もぬめぬめした場所なのだけれど。『点』で攻撃する槍であれば、そうそう滑ることはない。穂先よりも深くにまで胴体が食い込んだ当たりで、ガマは絶命して光へと変わった。


 残り1匹になれば、最早ガマは敵ではない。

 リュディナが防いでいる横から、アルカナと一緒にちくちくダメージを負わせていると、2分と持たずに残る1匹も絶命した。


「―――わわっ!?」

「あら」


 ガマの討伐が完了した後に、迷宮地の通路に青白い光が溢れて。リュディナとアルカナの2人が、それぞれに驚きの声を上げた。

 光を発したのは2人が身に付けている『探索者の指輪』だった。これは『探索者ギルド』に登録した者に支給される指輪で、これを身に付けて魔物を倒すことで、指輪に魔物の討伐数が記録されるようになっている。


「おめでとう、2人とも。レベルアップよ」

「……今のって、その演出なのですか?」

「ええ。最近『探索者の指輪』に付加した新機能なのよ」


 魔導具である『探索者の指輪』には魔物討伐数を記録する以外にも、『探索者ギルド』に預けているお金を自由に使えるようにする『電子マネー』に似た機能や、自分限定で〈鑑定〉が行える機能などが、元々組み込まれているのだけれど。最近になって、これに加えて『装着者のレベルが成長した時に光を放つ』機能も追加されたのだ。

 自身の成長がその場で実感できれば、それが探索者のやる気を増進する効果を生むだろうと、そう思って付加した機能なのだけれど。これは思いのほか、探索者の人達からも好評を得ている。

 やっぱりゲームの時と同じような『レベルアップの演出』というのは、体感することで嬉しい気持ちになれるものなのだ。


「サユリはまだなのですね。私達だけが先にレベル2に上がってしまいましたか」

「リュディナとアルカナのほうが、私より以前から『分体』を作っていたからね。その分の経験差が出たのでしょう」


 この世界では、日常生活でも少量ずつの経験値を得ることができる。

 だから今日作られたばかりの『分体』であるサユリが、2人より少しだけレベルアップが遅いのは、仕方の無いことだ。


「ちなみに現在は『探索者の指輪』に、『迷宮地』の入口に転移できる機能なども付けてあるのよ。使用する時には、1分ぐらいの間動かずにいる必要があるから、非戦闘中じゃないと使えないけれどね」

「それは便利ですね……。帰り道で迷っても安心できそうです」

「但し、利用は有料になるわ。帰還した後に窓口で受け取れる魔物の素材の量が、3割近く減らされることになるから気をつけて」

「……収入3割減は、大きいですね……」


 保険として付けた機能なので、あまり便利には使って欲しくない。

 なので敢えて手数料は高めに設定している。基本的には、ちゃんと帰り道のことも考えながら、探索者の人達には『迷宮地』に潜って貰いたい。


 それからサユリ達は入口まで帰還する間に、更に9体の魔物を討伐して。無事にサユリも『レベル2』へと成長することができた。

 レベルが成長すれば、ステータスが増加する。身体能力値が増えれば、それだけ日々の仕事や生活も、楽にゆとりを持って行うことが出来るようになるだろう。


 レベル1の生産職でも、充分に『迷宮地』で戦えるということ。

 この事実がより広まって、副業でも遊びの一種としてでも構わないので、もっと探索者として活動してくれる人達が増えてくれると嬉しく思う。


 国民の平均レベルが上がれば、それだけ人口当たりの生産性が増す。

 それはきっと、更に国を豊かにすることに繋がると思うのだ。





 

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