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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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128/370

126. 迷宮探索生放送中(前)

 


     [5]



「ここはまだ魔物が出ないから、安心して良いわ」


 地上にある『迷宮地(ダンジョン)』の入口を通り、地下1階まで続く長い階段を降りながら、サユリは同行するリュディナとアルカナの2人にそう説明する。


「はい、放送を見たので存じています。この先にある金属製の扉を潜ってからが、本番になるのですよね」

「ええ、その通りよ」


 リュディナの言葉を受けて、サユリは頷く。

 ユリシスの都市内に作られた建物には、地下室を設けているものも沢山ある。それらの空間と被らないように、『迷宮地』は地下1階からそれなりに深い場所に作られているのだ。

 だから地上の門を潜って地下1階に辿り着くまでの間に、200段近い階段を降りなければならない。これは、幾つかレベルが成長している人にとっては何でも無いものだけれど、レベルが低い人にとっては少しキツい段数になる。


「……感覚が違いすぎて、地味に階段が怖いわね」


 1段1段を慎重に降りているため、サユリは2人よりも降りるペースが遅い。

 普段よりも40cm近く身長が減っているせいで、色々と身体の感覚が違いすぎて、あまりスムーズに階段を降りられないのだ。


「それで戦闘は大丈夫なのでしょうか?」

「最初の数戦は、少し慎重に戦ったほうが良いかもしれないわね……」


 歩幅が変われば移動速度が違ってくるし、腕が短くなればリーチも減る。

 最初は立ち回りや武器の扱いなどが、この身体だと普段とどれぐらい異なるかをひとつひとつ確かめながら、落ち着いて戦うほうが賢明だろう。


「この先すぐの位置に、敵の気配はありませんね」


 地下1階の金属扉に辿り着くと、アルカナがそう報告してくれた。

 〔狩人〕の天職を持つ彼女は、付近にいる魔物の存在を察知することができる。こういう門を通過する際などに、敵がその先に居るかどうかを事前に判別できるというのは、大きな強みだろう。


「ここを通れば、いつ魔物と遭遇してもおかしくないから、準備しておいてね」


 そう告げながら、サユリは〈食品ボックス〉から鎚矛(メイス)を取り出す。

 同じ鎚矛でも、リュディナが携行しているものより一回りは小さく、柄の部分が木製のものだ。非力なサユリには、リュディナが持つ総金属製の鎚矛のような重い武器を扱えるほどの[筋力]が無い。


 金属扉を開けると、20畳ぐらいの広さがある部屋の中に出た。

 魔物はおらず、部屋からは3方向に通路が延びている。また、部屋の中央にはさらに下に降りることができる階段も設けられていた。


「えっと、どちらへ行きましょう?」

「当面の私達の目的はレベル上げだからね。敵が居そうだとアルカナが感じる方向に行って貰う感じで、良いのではないかしら」

「そうですね。私も異存ありません」


 サユリの言葉に、リュディナもまた頷く。

 その提案を受けて、アルカナが先導するように歩き始める。


「この先に、2体居るような……気がします。3体かも?」

「それほど正確に判るわけでは無いのね?」

「今のスキルランクだと、曖昧にしか判らないみたいですね」


 アルカナはそう答えると、少し申し訳なさそうな笑顔を浮かべてみせるけれど。サユリやリュディナからすれば、曖昧にでも魔物の存在を察知してくれるだけで、充分に頼もしいし有難い。

 まあ―――実際はサユリの場合には、自身の使役獣が存在する位置は、全て正確に判っていたりするのだけれど。その事実をリュディナやアルカナに伝えても、探索の面白みを損なうだけにしかならないだろうから、口にするつもりはない。


「そろそろ遭遇すると思います」


 やや右曲がりに湾曲した通路の途中で、アルカナが立ち止まってそう告げる。

 リュディナと共に、覗き込むように通路の先を伺うと。ウサギを二回りほど大きくした体躯の、黄色い体色と大きな耳が特徴の魔物が2体、そこに存在していた。


「あれは『ピティ』ね。ここで一番弱い魔物だから、好都合だわ」

「弱点は何なのでしょうか?」

「火に弱い魔物ではあるのだけれど……。毛皮の品質が下がるから火魔術で攻撃するのは止めた方が良いわね」


 ピティは最も弱いにも関わらず、食用肉と毛皮を落とす換金性の高い魔物だ。

 但し、ピティに限った話でも無いのだけれど。特に『毛皮』系の素材は、魔物にダメージを与える手段を考えないと、倒した後に得られる素材の品質値が下がってしまう場合がある。特に火魔術は毛皮を大きく傷めてしまうため考え物だ。


「突進で攻撃してくるけれど、角が無いから喰らってもあまり痛くないし。金属製の盾などで受ければ、むしろ敵の側がダメージを受けるわ。弱い魔物だから、魔術とかは温存して置いて良いと思う」

「了解です。じゃあ私は弓だけで行きます」

「判ってると思うけれど、応援が1体来るからそれにだけ気をつけてね」


 ユリシスの『迷宮地』は、必ず探索者の人数と魔物の個体数が同数になるように調整される仕様になっている。こちらが3人で魔物が2体なら、戦闘開始と同時に最も近くに居る魔物が1体応援に駆けつけてきて、3対3での戦闘になるわけだ。

 この時、応援に何の魔物が来るか判らないこと。また、応援の魔物が前から来るのか後ろから来るのか、判らないことには注意しておきたい。

 充分に警戒しておかないと、背後から応援に駆けつけた魔物に、後衛のアルカナが不意打ちされるという事態も充分に有り得るのだ。


「アルカナ、いつでも撃って良いわよ」

「はい、サユリお姉さま」


 アルカナが短弓から矢を放つタイミングに合わせて、サユリも〈調理ボックス〉から取りだして持ち替えていた短弓から、矢を撃ち放つ。

 アルカナが放った矢はピティの頭部に、サユリが撃った矢はもう片方のピティの胴体に突き刺さった。ピティが痛みに呻き声を上げると同時に、即座にサユリ達が居る側へ向けて駆け寄ってくる。


「リュディナ、応援が来る前に片方は倒すわよ」

「ええ、承知しております」


 サユリは武器をショートスピアに持ち替えて、先に駆け寄ってきた側のピティの胴体を、その勢いを利用して穂先で貫く。

 その攻撃で身動きが止まったピティの脳天に、リュディナの鎚矛(メイス)による一撃が叩き込まれると。即座にピティの1体は眩い光を発しながら消滅した。


「そういえば、倒した魔物は勝手に回収されるのでしたね」

「ええ、そういう結界が張られているのよ」


 死亡した魔物の骸が即座に消滅したのは、『紅梅』の子達が張った【回収結界】の効果になる。これは効果範囲内で倒された魔物を自動的に『解体』して『回収』してくれるという、大変便利な結界だ。

 倒した魔物の素材は、後ほど『探索者ギルド』の窓口で申請すれば受け取ることができる。なので『迷宮地』に潜っている間には、倒した魔物から得られた素材が荷物として嵩張るということもない。


「後ろから1体来ます!」

「リュディナ、行って頂戴。ピティは私でも問題無いから」

「はい」


 サユリは装備中のショートスピアを〈調理ボックス〉の中へと格納し、代わりに右手にショートソードを、左手に小さめの盾を取り出す。

 ピティの攻撃は突進だけなので、盾さえあれば対処は容易だ。突進を受け止めて動きが止まる度に、ショートソードによる斬撃をピティに加えていく。


「蛇が1体来ました!」

「そいつ毒があるから気をつけて! 盾での防御を優先!」


 堅実にピティに3度の斬撃を加えて、その命を奪ってから。サユリは後方から来た魔物に対処しているリュディナに加勢する。


 アルカナが既に何度か矢を放っている様子だけれど、いずれも蛇には命中していないようだ。

 とはいえ、それは無理もないだろう。蛇のような細長い体躯を持つ魔物に、矢や槍を用いた『点』での攻撃を命中させるのは容易では無い。


 サユリは武器をハンドアックスに持ち替えてから、こっそりリュディナと蛇が対峙している側面側へと回り込む。

 そして―――蛇が噛み付いてきた攻撃をリュディナの盾が防ぎ、蛇が鎌首をもたげた姿勢で硬直している瞬間を狙って。蛇の頭部よりすぐ下の辺りを、ユリはハンドアックスで力任せに薙払った。


 薙払いにより、頭と胴体が分かたれた蛇は、眩い光を放ちながら消滅する。

 蛇は胴体が細いので攻撃を当てにくいけれど、当たりさえすればサユリのような非力な者にでも、容易に倒せる程度の弱い魔物なのだ。


「流石ですね、サユリ」

「あなたが防いでくれていたから、やり易かったわ」


 サユリが上手く攻撃できたのは、蛇が完全にリュディナだけを見ていたからだ。

 蛇がサユリの側にも警戒を割いていたなら、こんなに側面から上手く攻撃することは出来なかっただろう。


「それにしても―――地下1階からもう、毒を持った魔物が出てくるのですね」

「ああ……それについては、ごめんなさい。少し語弊があったかもしれないわね。この蛇は『揺らぎ蛇』という名の魔物なのだけれど、咬まれると文字通り『視界が揺らぐ』ような毒を―――要は『目眩を感じる』毒を受けてしまうのよ。10秒も経たず自然に治る毒だから、喰らってもそれほど被害のあるものではないわ」

「なるほど。毒にも色々とあるのですね」


 目眩がしている間はまともに戦えなくなることを思えば、1人で『迷宮地』に挑む場合などには、少し警戒が必要な魔物であるのは間違いないが。

 とはいえパーティで挑む場合には、数秒間の目眩がそこまで甚大な被害を生むと言うことは少ないだろう。この階層に配置されている魔物の中に、それほど強烈な攻撃を繰り出す相手など居ないのだから。


「私の脚に噛み付こうと、低い位置から攻撃を仕掛けてくるので、防御に専念していないと盾で防ぐのが難しいですね」

「そういう時は、金属製の脛当て(グリーブ)などを装備してみるのも良いかもしれないわね。膝より下が防護されるだけでも、だいぶ盾で護る範囲が減るでしょうから」

「なるほど……」


 当たり前だけれど、金属で保護されている部分に噛み付けば、却って蛇の方が被害を受けることになる。

 膝より上しか護らなくて良ければ、盾で防ぐのは随分楽になる筈だ。


「矢が当たらないのですが、どうしたら良いでしょうか……」

「攻撃を当てにくい魔物は、魔術で対処する方が楽かもしれないわね」


 魔術や魔法で飛ばした発射体は、目標に向かってある程度誘導してくれるため、矢で狙うより弾速は遅くなるけれど、命中自体はさせ易くなる。

 特に、風の刃を飛ばして攻撃する【風刃】のように、『点』ではなく『線』で攻撃できる魔術などは、蛇のような細長い魔物にも命中させ易くて便利だ。


「まあ、ぶっちゃけて言ってしまえば、自分で倒しにくい魔物は味方に任せてしまうというのも手よ。それもパーティを組むメリットのひとつだからね」

「そういうものですか」

「ええ、そういうものよ」


 別に全員が、あらゆる魔物に対処できるようになる必要は無いのだ。

 得意なことは得意な人に任せてしまう。それが賢明なことは、別に『迷宮地(ダンジョン)』に限った話でも無く、実生活上でもよくある話ではないだろうか。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  この回で〈食品ボックス〉と〈調理ボックス〉と。  名前が混在しとりますので、是非統一を。
[良い点] 更新乙い [一言] ロリから戻った時も大変そうだあ
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