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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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126/370

124. 『迷宮地』挑戦の事前準備(後)

 


     [3]



 司祭の人に案内されて、1人ずつ大聖堂の奥にある『神像の間』の中へと入る。

 『神像の間』の中心に立ち、周囲の壁沿いに並べられた八神像に祈りを捧げて、速やかにサユリ達は儀式を済ませた。


 案内してくれた司祭はユリの知らない人だった。

 こちらに癒神リュディナと楽神アルカナが同伴している以上、この大聖堂で最も高い地位にあるバダンテール高司祭が居たなら、間違いなく応対しに出て来ていただろうから。出てこないということは、ちょうど不在にしていたのだろう。


 何かと世話になっていることもあり、ユリはバダンテール高司祭に『全ての転移門を自由に利用できる』許可証を発行している。

 バダンテール高司祭は大変な健啖家なので、休憩時間には転移門を利用して他の都市にまで食事を楽しみに行っていることも多いだろう。

 サユリ達が大聖堂に居る間には、戻ってこない可能性が高そうだ。


 ちなみに『神像の間』の中には、今はちゃんと『ユリ』の像も置かれていた。

 自分の容貌を模した神像が置かれているというのは、何だか少し気恥ずかしく、そして居心地の悪いものだったから。とりあえずサユリは、自身の像に背を向けながら、他の七神の像にだけ祈りを捧げたのだけれど―――。


 そんな適当な祈り方でも、普通に『天職』を得ることが出来てしまった。

 実は真面目に祈りを捧げる必要は、あまり無いのかもしれない。


「サユリお姉さまは何の『天職』が当たりましたか?」


 サユリが『神像の間』から出ると、先に儀式を終えていたアルカナがすぐに駆け寄ってきて、興味深そうな表情でそう訊ねてきた。

 現時点で得たのは、まだ『天職』のほうだけだ。『天職』は無作為(ランダム)に抽選されるものなので、その結果を見てから『職業(クラス)』もこの後に選ぶことになる。

 与えられた『天職』に近しい『職業』を選び、己に与えられた長所をより伸ばすのか。あるいは『天職』とは方向性の異なる『職業』を選んで、己の持ち味をより多彩なものとするかは、本人の選択次第ということだ。


「私は〔細工師〕だったわ」

「〔細工師〕―――ということは、生産職ですよね?」

「その認識で合っているわ」


 サユリは〔細工師〕の天職を得ると同時に、2つのスキルを得ていた。




+----+


 〔細工師の慧眼Ⅰ〕 - パッシブスキル


   細工や構造などを透視して、それを正確に記憶できる。

   また、不審な構造が組み込まれている場所や物体を看破できる。


-


 〔細工技巧Ⅰ〕 - パッシブスキル


   細工道具を器用に用いて、工芸品を製作することができる。

   また、鍵が掛かった扉や箱を解錠したり、罠の解除も行える。


+----+




 ひとつは〔細工師の慧眼Ⅰ〕というスキルで、これは細工品を精査することで、その品がどう作られているかを『透視』して、更には『構造的に理解できる』というものだ。

 例えば、機械式時計を見れば、その時計がどういう機械構造によって作られているのかを『透視』して理解できる。つまり、外装を剥がす必要は無い。

 構造を完全に『記憶』することもできるため、その構造を自分の手で再現して、全く同じ物を作ることも不可能では無いわけだ。

 もちろん、そこには『製作技術が足りていれば』という但し書きが付くのだが。


 また〔細工師の慧眼Ⅰ〕には副効果として『不審な構造が組み込まれている場所や物体を看破できる』という能力も附随している。

 罠が組み込まれた扉や床、箱なんかを見破ることができるのだろう。


 もうひとつは〔細工技巧Ⅰ〕というスキルで『細工道具を利用して工芸品を製作できる』という、いかにも生産スキルらしいもの。

 こちらにも副効果があって『鍵が掛かった扉や箱を解錠』したり、『罠の解除』も行うことができるらしい。


 サユリの天職は『生産職』なので、戦闘そのものに天職が役立つことは無いわけだけれど。一方で『迷宮地(ダンジョン)』を探索する上でなら、多少は役立ちそうだ。

 ユリシスの都市に製作した6つの『迷宮地』の場合は、原則として壁や床などに罠が仕掛けられていることは無いけれど。但し『迷宮地』の中で発見できる4種類の宝箱のうち、唯一『赤』の宝箱にだけは、必ず罠が仕掛けられている。


 罠の解除が行えるサユリが同行していれば、『赤』の宝箱の中身を比較的安全に取り出すことも可能だろう。

 もちろん解除に失敗して、罠を暴発させてしまうこともあるだろうけれど。それでも罠の発動を覚悟して、力任せに開けるよりはずっとマシな筈だ。


「アルカナは何だったのかしら?」

「私は〔狩人〕でした」

「あら、良いものが当たったわね」


 『百合帝国』の子達の全員が、今は既に天職を得ているわけだけれど。彼女達から聞いた話によれば、様々な天職の中でも〔狩人〕は比較的『当たり』なのではないかと言われているそうだ。

 近接・遠隔武器の両方を扱うスキルを修得でき、軽装であれば素速く動けるようになるスキルも修得する。更には、付近に存在する魔物を察知するスキルなども得られるらしい。


「前衛と後衛のどちらもいける天職だと聞いているから、この後にリュディナがどんな天職を得たとしても、バランスは悪く無さそうね」

「私は〔重戦士〕でしたよ、サユリ」


 ちょうど『神像の間』から出て来たリュディナが、そう言って会話に加わった。


「お帰りなさい、リュディナ。また、がっつり前衛な天職を引いたわね」

「そうですね……。これはもう、私は『職業』のほうも『天職』に合わせたものを選んだ方が良さそうです」

「……ふむ。〔重戦士〕は単体で完成された戦闘スタイルだから、何を合わせるかはなかなか悩ましい所ね」


 〔重戦士〕は金属製の鎧を身に纏い、更に大きな盾を構えて、最も先頭に立って味方全体を護る役割を担うことになる。

 金属鎧を身に付ければ身体の動きが大きく制限されてしまうし、大きな盾を片手にずっと構えることになるから、防御動作を阻害しないサイズの片手武器だけしか扱えなくなってしまう。

 戦闘スタイルがほぼ固定されているせいで、そこに何の『職業(クラス)』の能力を付加するかは、なかなか悩ましい。


「私は〈調理師〉を選びたいのだけれど、構わないかしら?」

「……え? サユリお姉さまは既に〔細工師〕の天職をお持ちなのに、更に生産職を追加されるのですか?」

「ええ、そのつもりよ。折角だから、生産職だけしか持たない人でも『迷宮地』に問題無く挑戦できるということを、『放送』を通じて広めようかと思って」


 『迷宮地』に挑む探索者の姿は、自動的に『放送』される手筈になっている。

 リュディナやアルカナが同行している以上、サユリ達が探索する様子を視聴する人は、きっと少なくないだろうから。これを機に、戦闘には何の恩恵も得られない『天職』と『職業』を選んでいても、充分に戦える事実を周知したいのだ。


 それに―――『迷宮地』に魔物を配置したのは、他でもないユリだから。

 当然ながらユリは、各々の『迷宮地』の何階に、何の魔物を何体ずつ配置したかなどを全て把握しているし、魔物自体の情報についても精細に知悉している。

 更に、自身の使役獣が存在する位置も何となく判ってしまうので、『迷宮地』の中で敵から奇襲を受けるという危険性が殆ど存在しないなど、有利な点も多い。

 職業的なハンデぐらいは、背負って然るべきだと思うのだ。


「その場合、サユリは前衛と後衛のどちらになるのでしょうか?」

「前衛として戦うつもりよ。別に生産職だからといって、武器を扱えないわけでは無いし。それに、今は訓練でスキルを得ることも可能でしょう?」

「ええ、その通りです」


 ユリが今までに〔製菓Ⅱ〕や〔調理Ⅱ〕のスキルを会得したように。今は充分な訓練を積みさえすれば、スキルが得られるように世界の仕様が変革されている。

 だから時間と手間を掛けさえすれば『戦う生産職』というのも、充分に成り立たせることが可能なのだ。


「リュディナもサユリお姉さまも前衛なら、私は後衛のほうが良さそうですね」

「3人ぐらいなら、全員前衛でも別に問題は無いから。アルカナがなりたい職業を選んで良いと思うわ」


 アルカナは暫く悩んだ後に〈魔術師〉の職業に決めたようだ。

 〔狩人〕の天職で弓を扱い、〈魔術師〉の職業で攻撃魔術を扱う。どうやらアルカナは、あくまでも後衛として隙の無い職構成にすることを選んだらしい。


 リュディナもまた、少し悩んだ末に〈神官〉の職業に決めていた。

 戦闘スタイルとしては〔重戦士〕だけで確立されているので、そこに治療魔法が扱えるようになる〈神官〉の職業を加えることで、より堅牢に味方を護れる盾役となれる選択にしたわけだ。


職業(クラス)はお決まりになりましたか?」

「ええ、もう一度儀式をお願いするわ」


 司祭の人にそう告げて、サユリ達は順にもう一度儀式を受ける。

 そうして―――各々が望む『職業(クラス)』を選び取った。




----

 サユリ

   人間/分体・女性/性向:極悪

   〔細工師〕- Lv.1

   〈調理師〉- Lv.1


   生命力: 14 / 14

    魔力: 36 / 36


   [筋力]   6

   [強靱]   4

   [敏捷]  23


   [知恵]  24

   [魅力]  12

   [加護]  10


----




 宮殿から持ってきた『鑑定の片眼鏡(モノクル)』を用いて、自身のステータスを確認してみると。『天職』と『職業』の両方を得たことで、それなりに能力値が増えていることが判った。

 正直、前衛向けのステータスとは言い難いのだけれど。とりあえず2桁の生命力があるなら、頑張れば務まらないことも無いだろう。


 儀式を済ませて大聖堂を出た後に、サユリ達はまず神都ユリタニアにも設置されている『探索者ギルド』の支部を訪れる。

 そこで探索者としての登録する手続きを済ませれば、ユリタニアの都市中央部に設置された『転移門』を利用することが可能となる。

 そうして、サユリ達は30分後にはもう『迷都ユリシス』へと転移(ワープ)してきていた。


「どこかで武具を買わなければなりませんね」


 ユリシスの街並みを見渡しながら、リュディナがそう言葉を零した。

 〔重戦士〕であるリュディナは戦闘スタイル上、装備品への依存度が高い。早めに店を探して調達しなければ、手ぶらの儘では心許ないのだろう。


「それなら、ユリシスの北東部で店を探しましょうか」

「……? サユリお姉さま、どうして北東部で店を探すのでしょう?」

「最も難易度が低い『迷宮地』が、都市の北東側にあるからよ。ここでは初心者向けの武具を扱う店は、初心者向けの『迷宮地』の近くで営業されているの」


 なのでユリシスの南側には中級者向けの武具店が、西側には上級者向けの武具店が並んでいることになる。

 まあ別に、中級者や上級者向けの武具店で買える品でも、初心者に扱えないとは限らないのだけれど……。良い武具はそれなりに値段が張るものなので、金額的にはどうしても『初心者には優しくない』ことが多くなるわけだ。


 都市北東部の目抜き通りを歩いて、途中で見かけた大きめの武具店に入り、サユリ達はそれぞれの欲しい武具を買い揃える。


 リュディナは金属鎧と大盾に加えて、鎚矛(メイス)を購入していた。

 〈神官〉の職業では、治療魔法などに加えて鈍器を扱うスキルも少しだけ修得できるから、それに合わせたのだろう。

 鎧も盾も鎚矛も、装備の全てが金属製なので、重さとしてはかなりのものになる筈なのだけれど。リュディナはそれらの装備を軽々と着こなし、持ち上げていた。

 おそらく〔重戦士〕の天職で最初から得られるものの中に、装備品の重量を軽減するスキル等が含まれているのだろう。


 アルカナは動きを阻害しない軽めの革鎧の他に、短弓と矢筒を購入していた。

 杖は購入しなかったようだ。〈魔術師〉は杖を装備していなければ魔術を使用できない―――というわけでは無いので、装備品はあくまでも〔狩人〕らしく弓一本で行くということだろう。

 ショートソードを買おうかどうかを悩んでいる様子だったけれど、それも最終的には買わずに済ませたようだ。少なくとも今回はサユリとリュディナの2人が前衛を務めるので、不要だと判断したのだろう。


 サユリは硬めの革鎧と一緒に、鎚矛(メイス)とショートソード、ショートスピア、更にはハンドアックスと短弓、小さめの盾まで買い揃えた。

 〈調理師〉の職業を得ると〈食品ボックス〉という収納スキルが手に入る。これは別に食品だけに限らず何でも収納できるのだけれど、侍女(メイド)系職業で得られる〈侍女の鞄〉のスキルに較べると、収納できる枠数は遙かに少ないものとなる。

 とはいえ異空間への収納能力があるというだけでも、『迷宮地』を探索する上で何かと便利なのは間違いない。サユリは様々な武器を購入して〈食品ボックス〉の中に収納し、必要に応じて装備を切り替えるつもりなのだ。


 他にも、バックパックや雑貨などを幾つか購入する。

 『迷宮地』を探索する際に役立つアイテムは、意外に多岐に渡るものなのだ。


 武具店を出る頃には、いつしか辺りも暗くなり始めていた。

 この分だと『迷宮地』に着く頃には、毎日定例の『放送』を行うのに、ちょうど良い時間になっていそうだ。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] 調理師は生物系を〆る為の弱点看破と、ドロップ増加の解体系スキルと、調理器具マスタリーで普通に前衛だよ!!だよ!! ヨシ!!
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