表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/370

123. 『迷宮地』挑戦の事前準備(前)

 


     [2]



 暫くの間、リュディナが手ずからに淹れてくれるお茶を楽しみながら、他愛もない会話を交わしていると。やがて昼前ぐらいの時間帯になった頃に、アルカナが神域の庭園へと姿を見せた。

 アルカナに「今日これから3人で『迷宮地』に挑戦してみない?」とユリの側から提案してみると、案の定アルカナは大喜びしてみせた。

 喜びようから察するに、アルカナが『探索者』の側も体験したいとリュディナをせっついていたというのは、どうやら本当の話らしい。


 ちょっとだけ3人でお茶を楽しんでから、それからユリはユリタニアのほうへと意識を戻し、宮殿を訪ねてきたリュディナとアルカナの分体と合流する。

 宮殿前の広場に沢山設置されている屋台を巡り、3人で昼食を取ってから。一旦ユリタニア宮殿へと移動して、自身の私室でユリはリュディナとアルカナの2人から『分体』の作り方を教わった。


 『分体』の製作作業自体は、特に難しいこともなく、すぐに完了する。

 先程、神域の庭園で話をした際に「本体とは違う見た目にするほうが賢明」だとリュディナから言われていたこともあり、ユリは作成する『分体』の姿を本体とは明らかに違うものにしてみた。


 顔立ちや髪など、容貌自体はユリ本体と共通する部分も多いのだけれど。一方でユリの分体の背丈は、たったの『120cm』程度しか無い。

 つまりユリは、本体との見分けが容易なように、敢えて『子供サイズ』の身体で分体を製作してみたわけだ。


「分体の名前は『サユリ』にしませんか?」

「……分体には、本体と別の名前を付ける必要があるの?」

「必要はありませんが。付けて駄目ということも無いでしょう?」


 リュディナがそう言ってくれたので、分体の名前が即座に決定する。

 確かにリュディナの言う通り、こちらの身体(ぶんたい)を操作する時だけ別の名前を名乗るというのも、それはそれで悪くないことのように思えたのだ。


 『アトロス・オンライン』のゲーム内キャラクターである『ユリ』の名前は、言うまでもなくプレイヤーである『蓬莱寺百合』の本名から付けたものだ。

 そのユリの小型(ミニマム)版なのだから。百合に『小』の文字を加えて『小百合(サユリ)』という名前にすることには、特に違和感もない。




----

 サユリ

   人間/分体・女性/性向:極悪(-100%)


   生命力:  6 /  6

    魔力: 20 / 20


   [筋力]   2

   [強靱]   2

   [敏捷]   5


   [知恵]  10

   [魅力]  10

   [加護]  10


----




 あらかじめ用意しておいた『鑑定の片眼鏡(モノクル)』という魔導具を使用して、自身のステータスを確認してみると。

 予想できていたことだけれど―――その数値はどれも酷いものだった。


 明らかに民間人そのもののステータスだ。……いや、それどころか身体能力値の3種類に関しては、一般人のそれにさえ大きく劣る数値になってしまっている。

 子供同然の体躯をしていれば、[筋力]や[強靱]の能力が劣るのは当然のことだ。本体と見分けが付くよう、小柄な身体にした弊害であるなら致し方無い。


 種族欄には『人間種(ノルン)』ではなく、ただ『人間』とだけ書かれている。

 『人間種(ノルン)』は『アトロス・オンライン』のゲーム内世界『リーンガルド』の種族なので、こちらの世界に準拠した種族になったのだろう。


 一方で、性向の欄には『極悪』と書かれていた。

 性向はいかにも身体ではなく、心に依存していそうだから。これは当然と言えば当然かもしれない。


「……あー、あー。テス、テス」


 操作する身体を『分体(サユリ)』に切り替えて、ユリはそう声を発してみる。

 自分のものとは思えない程に、高くて可愛い声が出て、ちょっとびっくりした。

 どうやら子供サイズの身体にしたせいで、声まで幼くなっているらしい。


「とりあえず『天職』と『職業(クラス)』を得るべきでしょう。その結果でステータスも、ある程度変化するでしょうからね」

「それもそうね。では、まず大聖堂のほうへ行くとしましょうか。

 ―――っと、そうか。分体(サユリ)だと『ギルドチャット』が利用できないのね」


 ユリの私室から、明らかにユリを子供にしたような容貌の少女が出てくれば、宮殿内で遭遇する『百合帝国』の子達を驚かせてしまうことは目に見えているから。

 事前に自身の分体についての情報を、皆に『ギルドチャット』を通して伝えておこうと試みたのだけれど。その機能自体を利用できないことに、今更ながらに気付かされてしまう。


 分体(サユリ)本体(ユリ)と全く別個の存在なのだから、考えてみれば当たり前の事だ。

 試してみたところ〈インベントリ〉の機能も使用できなかった。

 もちろん使役獣の召喚も不可能なのだけれど―――その一方で、既に召喚されている使役獣に対して、命令を送信すること自体は可能なようだった。


「……ふむ」


 試しに宮殿の防衛用に配置している、全部で8体の『グレーター・レイス』に、分体(サユリ)の元へ来るように命令を出してみると。それは即座に実行された。

 いま分体(サユリ)の正面すぐの位置に8体全てが集まっている。『グレーター・レイス』は常に透明化していて目で見ることが出来ない魔物なのだけれど、どうやら使役獣の存在位置は分体(サユリ)でも判るようだ。


「おそらく使役獣はユリの『身体』ではなく、『心』と繋がっているのでしょう」


 そのことをユリが訊ねると、リュディナはそう教えてくれた。


 神域の庭園で話した際にリュディナは、分体はあくまでも『身体』をもうひとつ作るだけであり、ユリという『心』が増えるわけでは無いと言っていた。また意識が1つしか無いから、身体が2つあっても同時に動かすのは難しいとも。

 〈絆鎖導師(エーテリンカー)〉の職業は本体が有するものだが、その能力によって使役獣と結ばれた『絆』は、どうやらユリの『意識』の側に―――つまり『心』のほうにあるらしい。

 分体(サユリ)の側を操作していても、使役獣にはそれが『本体(ユリ)』と同じ相手であることが判るようだ。だから『絆』を通して、命令を出すことさえ出来てしまう。


「なるほど……。『迷宮地』に挑む際には、配置している使役獣に予め命令を出しておく必要がありそうですね。相手が私でも遠慮無く攻撃しなさい―――と」

「そうですね。事前に命令しておかなければ、使役獣がサユリを率先して攻撃することは、まず無いでしょう」


 とりあえず一旦、操作する側を『分体(サユリ)』から『本体(ユリ)』へと切り替えてから。ユリは『ギルドチャット』を利用して、『百合帝国』の子達全員に自身の『分体(サユリ)』に関する情報を通達する。

 ついでに『撫子』の子達には、サユリを置いておくための居室を1つ、宮殿内に用意するように注文を出しておいた。


 ユリの私室に置かれているベッドは、かなり大型のものだけれど。ここに分体(サユリ)の身体を置いておくのは、止めた方が良いだろう。

 そんなことをすれば、夜に愛する皆とベッド上で交わす行為(・・)の際に、絶対に邪魔になってしまうことは目に見えている。


「では、大神殿に『天職』と『職業(クラス)』を貰いに行きましょうか」


 操作する側を再び分体(サユリ)に切り替えてから、ユリはそう提案する。

 リュディナとアルカナの同意を得てから私室を出ると。宮殿の廊下には、少なくない人数の『百合帝国』の皆が集まっていた。


「あなた達―――。これは一体、どうしたのかしら?」

「ああ、お姉さま! 何とも可愛らしい声になられて……! えっと、みんなお姉さまの『小さい姿』が一目見たくて、こうして集まってしまいました!」

「ああ、なるほど……」


 回答した『姫百合(パティア)』隊長のパルフェの言葉を受けて、サユリは得心する。

 なるほど、自分達の主人が別の身体を作ったとなれば、一度実際に見て確認しておきたいと彼女達が考えるのは、無理からぬことかもしれない。


 『百合帝国』の子達に手を振って別れて、サユリはリュディナとアルカナの2人と共に、宮殿から然程離れてもいない大聖堂へと徒歩で移動する。

 リュディナやアルカナの分体がユリタニアの都市内で暮らしている事実は、既に過去にユリが行った『放送』によって知れ渡っている。なのでサユリ達が大聖堂に到着して中へ入ると、リュディナとアルカナの姿を認めた聖職者の人達が、即座に頭を下げて応じていた。


「『天職』と『職業(クラス)』を得る儀式を両方受けたいのだけれど」


 大聖堂の右奥にある窓口で、ユリは儀式の手続きを行う。


 太陽が出ている日中にであれば、『天職』や『職業』を得るための儀式は原則として初回は誰でも無償で受けられることになっている。

 但し『天職』を再抽選する2回目以降の儀式の場合には、手数料代わりに少額の寄付を求めているようだが。


「承知致しました。儀式を受けられるのは3名全員ですか?」

「はい、そのようにお願い致します」

「お願いします!」


 窓口の人の問いには、サユリではなくリュディナとアルカナが答えた。

 どうやらリュディナとアルカナの2人も、一緒に儀式を受けるつもりらしい。

 彼女達は自身の分体を、食を謳歌するためにしか使用していなかったから。今までは『天職』や『職業』を得ておく必要も無かったのだろう。


「儀式を受けるためには成人している必要がありますが、大丈夫でしょうか?」

「ええ、問題ありません」


 続けての窓口の人の問いは、明らかにサユリに向けてのものだったのだけれど。この問いにもユリではなく、リュディナが即答していた。


 この世界の成人とは『20歳』以上であることを指す。

 ここだけを聞けば日本と同じ制度にも思えるけれど―――こちらの世界は1年がたったの『160日』しか無いので、日本人の感覚だと『9歳』程度にしか見えない身体でも、既に成人に達していることになる。


 だからリュディナの回答に、窓口の人は特に何も言わなかった。

 分体(サユリ)の幼い見た目でも、成人に達していてもおかしくはないからだ。


(……つい先程作った分体だから、実質的に『0歳』なのでは?)


 ユリは内心で、密かにそんなことを思ったりする。

 とはいえ、リュディナが窓口の人に大丈夫だと答えたのだから。この身体でも、問題無く儀式を受けることは可能なのだろう。





 

-

お読み下さりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ミストバーンっぽい魔物が配下にいれば留守の身体を任せられますねw
[一言] 分体は全くの別個体となると食事なんかも2体分摂らないといけないのかな? デブ歓喜、じゃなくて色々感覚が狂って面倒くさそう
[良い点] 更新乙い [一言] 幼女に見られてるプレイに使えるのでは
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ