118. 4つ目の都市建造案(前)
・神様の名前を漢字で書くと紛らわしくなりそうなので、今後はカナ表記にて統一することを考えております。
・試しに今話では『文中にて初めてその名前が登場する時』のみ『漢字+カナルビ』で表記し、2回目以降は全て『カナ表記』に統一してみました。
・以前と表記方法が変わりますので、もしかすると読まれる方には読みづらいかったりするかもしれません。ごめんなさい。
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鉱山がある山岳地帯の頂上に建立した神社。そこに以前お迎えしていたカナヤマヒメに加えて、カナヤマヒコもお迎えした翌日の『春月5日』の午前中。
いつも通り執務室に籠って、君主の承認を必要とする書類にサインしたり、各所から寄せられてくる報告書を確認していたユリは。この日、執務室を訪問してきた子から、新たな『都市の開発計画案』を提案されることとなった。
但し、その計画案は建築部隊の『桔梗』から出されたものではない。
『紅梅』の子達を代表して、隊長のホタルから提案されたものだ。
『桔梗』以外の部隊から都市の計画案が提出されるのは、ユリにとっても初めての経験だったけれど。
計画案を纏めた書類に目を通してみて―――なるほど、いかにも『紅梅』の子達らしい提案だと、すぐにユリにも得心がいった。
「なかなか面白いことを考えるわね。この視点からの『都市建造案』というのは、私にも『桔梗』にも、全く考えが及ばなかったわ」
「うふふ。あるじ様からお褒め頂けますとは、光栄です~」
ユリの言葉を受けて、ホタルが嬉しそうにはにかむ。
今回『紅梅』から提出された都市計画案は―――簡単に言えば『八百万の神を住まわせる都市を新たに造ろう』という内容のものだ。
この異世界の主神の1柱となったユリには、信徒から集まった『信仰心』を少量消費することで、自身の知る別の世界との接続を確立する異能がある。
その状態でホタルが召神の儀式を行えば、『アトロス・オンライン』のゲーム内世界である『リーンガルド』の神様をこの世界にも招致できることは、ここ数日の出来事により、既に実証されているわけだ。
今回『紅梅』から提出された都市計画案の書類には、3~4万人規模の人口が居住できる都市自体を、ひとつの巨大な『神域』として―――つまり『神社』として造ってしまおうという提案がされていた。
都市内に沢山の社を設けることで、『リーンガルド』から多数の神の『分霊』をお迎えする。そうして『人』と『神』が共存する大型生活圏を建造するわけだ。
「ふむ……」
この計画案には、実行することで得られる確実な『メリット』が2つある。
―――そのように、ユリには思えた。
ひとつは元々『アトロス・オンライン』のゲームに於いて、神様の分霊を『土地に宿す』行為自体が、その土地に明確な恩恵を齎すものであるということだ。
カナヤマヒメとカナヤマヒコの例で言うならば、彼らを神社に祀ることで土地に宿らせれば、付近一帯の土地に埋蔵されている『鉱石の量が時間経過と共に自然に増加する』という長期的な恩恵が得られる。
他の神々もまた、土地に宿すことで様々な長期的恩恵を齎してくれるので、都市を造り数多の神様をお迎えすればそれだけで、莫大な恩恵が集まった『祝福された土地』を人工的に造り出すことができるだろう。
それは―――とても面白そうなことのように、ユリには思えた。
もちろん豊かさが約束された都市を治めれば、その恩恵は『百合帝国』を潤す。
1つの都市を造る労力で、通常の都市複数個分の利益が得られるかもしれないという期待さえ、決して誇大な皮算用でもないのだ。
もうひとつのメリットは、この異世界に『リーンガルド』に存在する神様の分霊を一通り招致して定住して貰えば。今後はユリが『世界を接続する』ようなことをせずとも、神々の分霊を『紅梅』の子達が自らの意志で自由に利用できるようになるということだ。
『紅梅』は〈神霊依姫〉という職業の子達だけで構成された部隊なわけだけれど。職業名に『依姫』という文字が入っていることからも判る通り、彼女達は神の御霊を身体に依らせる、即ち身に宿して神力を利用することができるという唯一無二の能力を有している。
上限の『レベル200』に達すると〈神霊依姫〉はその身体に同時に3柱までの御霊を宿すことが可能となる。
現在の『紅梅』の子達は、全員がその身体に『天照大神』と『神産巣日神』、『下照姫命』の3柱の御霊を降ろしている。
アマテラスは日本人なら誰でも名前は知っている程、有名な神様だろう。
日本神話に於いて『皇祖神』とされ、時には『太陽神』としても扱われる偉大な女神だ。『アトロス・オンライン』では極限の『レベル200』に達した〈巫女〉系統のキャラクターだけが喚ぶことを許される、大変格が高い神様という扱いで、身に宿せば『巫術』や『結界術』、『符術』などの〈巫女〉系統の様々な魔法に、大きなボーナスを得ることができる。
カミムスヒは日本神話で天地開闢に関わったとされる、3柱または5柱の神々に名を連ねる程の存在で、こちらも極限の『レベル200』に達した〈巫女〉系キャラクターでなければ喚ぶことが不可能な神様だ。
大地の創造に携わった神とされるだけあって、身に宿すと『土地』を対象とした魔法―――主に『結界術』の運用に特化されたボーナスが得られる。
特に『土地に結界を張る魔法の維持コストがゼロになる』というボーナスが強烈で、この神様を宿している『紅梅』の子達は、各地の都市・村落に【障壁結界】や【調温結界】などを多数展開していても、その維持に魔力を全く消費しないで済むのだ。
シタテルヒメは天若日子の妻として知られる神様で、『アトロス・オンライン』のゲーム内では夫の死後に『天之麻迦古弓』と『天羽々矢』を継承した弓神という設定になっていた。
身に宿していると『天之麻迦古弓』を装備し、また無限に『天羽々矢』を召喚して超遠距離から誘導射撃が行えるようになる。
結界を多重展開して堅牢にした防衛地点から、矢を射かけて一方的に敵を攻撃することができるので、ゲーム内では宿すと強力な神様として知られていた。
いずれも異世界に来るより以前から―――つまり蓬莱寺百合が『アトロス・オンライン』のゲームを遊んでいた頃から、『紅梅』の子達がその身に宿していた御霊になる。
〈神霊依姫〉は身体に宿す御霊を自由に入れ替えられるので、その時に強化したい能力に応じて3柱の神様を適宜選択できることも強みの内なのだけれど。異世界に来てから『紅梅』の子達は、一度として身体に宿す御霊を変更したりはしていなかった。
―――というより、御霊を変更すること自体が不可能だった。
『リーンガルド』の世界では、いつでも必要に応じて喚ぶことができた御霊も、この異世界では完全に繋がりが断たれてしまっている。
つい最近になって、ユリが『別世界と接続を確立』できるようになったことで、今でこそ御霊の変更も可能となっているわけだけれど。これまで『紅梅』の子達は実質的に、異世界に来た時点で御霊を『固定』された状態にあったわけだ。
けれどそれも―――リーンガルドに存在していた一通りの神様の分霊を招致し、この異世界にて定住して貰えば。
神道に於いて『神霊は無限に分けることができる存在』と定義されている通り、リーンガルドの神々は幾らでも『分霊』によって存在を増やすことができるから、再び『紅梅』の子達は自由に御霊を入れ替えられるようになるだろう。
とりわけ、戦闘能力自体は他の部隊で充分に足りすぎている現状下では、弓神である『シタテルヒメ』の恩恵は、持て余されている部分が多いように思う。
この世界に一通りの神様を招致して『紅梅』の子達が3枠目の御霊を自由に入れ替えることができるようになれば。彼女達の能力に、より多様な厚みが生まれることは間違いない。
(2つのメリットだけを考えれば、即座に実行すべきなのでしょうけれど……)
一方でユリは、幾つかのデメリットについても思い当たった。
『神社』を建立することは、即ち『神域』を用意することに等しい。
通常サイズの神社であれば、大した消費量でも無いけれど……。都市にも等しい規模の神社を建てるとなれば、当然その広さの神域を造るために、莫大な量の素材を消費することになる。
魔物がドロップする素材については、問題無いだろう。一時的に素材を大量消費することになっても、ユリが召喚した使役獣を討伐すれば、また少しずつ再調達していくことも可能だから。
問題になるのはそれ以外の消費素材で―――榊や柳の木材、麻生地や和紙などは備蓄量が充分にあるのでまだ良いけれど。神域を作る為には大地に大量の御神酒や粟を埋めなければならず、御神酒の材料である米も、そして粟も、この異世界では一度として見たことが無い穀物なのだ。
やろうと思えば、おそらく備蓄量だけで足りるには足りる。
けれど今後のことも考えるなら……大量消費するには些か心許ない量でもある。
(……どうしたものかしら)
折角『紅梅』が案を出してくれたのだから、無下にはしたくないが。
とはいえ―――この都市計画案の実行重要性が高いかと言えば、一概にそうとも言えないのが難しいところだ。
現状の3柱の神様を宿しているままでも、『紅梅』の子達に充分な働きが期待できることは。
異世界で過ごしたこの1年間を振り返り、彼女達が挙げた功績の数々を思い返せば。奇しくも、それは証明されてしまっているのだから。
『―――申し訳ありません、姐様。今よろしいでしょうか?』
沈思黙考していたユリの脳内に、不意に声が響き渡る。
顔が見えなくとも、それがメテオラの声であることが、ユリにはすぐに判った。
まさか2日続けてギルドチャットで話しかけられるとは思わなかったが。
「どうしたの、メテオラ? また個別の『念話』を繋ぎましょうか?」
『いえ、今日はすぐ済む用件なので大丈夫です。
えっと―――カナヤマヒコ様が目覚められたことで、是非ともカナヤマヒメ様と共に姐様へ挨拶に伺いたいそうですが。私達が利用している『転移門』の使用を許可しても宜しいでしょうか?』
昨日の今日でもう実体化したのか、とユリは少しだけ驚く。
カナヤマヒメが実体化に数日を要したことを思えば、かなり早い。
もしかすると、御神体に用いた『天之御影鎚』がカナヤマヒコと相性が良かったため、早期に実体化できたのかもしれない。
『天之御影鎚』は名前から察するに『天之御影神』、つまり『天目一箇神』に由来する物だろう。
アマテラスの孫にあたる彼の神は『鍛冶の神』として大変よく知られている。
カナヤマヒコもまた『鉱山の神』と知られる一方で『鍛冶の神』とされる機会も多いため、直接的な縁自体は無くとも、両神の親和性が高いというのは有り得そうな話だ。
―――まあ、何にしても。
先方が面会を望むのであれば、もちろんユリに否やは無い。
「許可するわ。すぐに来るのかしら?」
『姐様の都合さえ良ければ、すぐにでも伺いたいとのことです』
「判ったわ。迎えに行くから『転移門』を通過した先の地点で、待機して貰うように伝えてくれるかしら」
『承知致しました。そのようにお伝えします』
メテオラとのギルドチャットでの会話は、すぐに完了した。
カナヤマヒコとカナヤマヒメに利用させる『転移門』とは、現在建造中の都市に『桔梗』の子達がすぐに通えるよう、ユリが設置したもののことだ。
この『転移門』は片方の門が山岳地帯にて建造中の新都市にあり、もう片方の門はユリタニア宮殿内の、特に使われていない一室にある。
なので、その部屋までユリが迎えに行けば良いわけだ。
「ホタル、この計画案に関する話の続きはまた後で……。
―――いえ、どうせならカナヤマヒコとカナヤマヒメの両名にも、相談した上で決めるというのも良いのではないかしら」
「なるほど~。確かにお迎えする神様側の意見を伺うというのも、良さそうです」
日本で働いていた頃、祖父はよく『自分だけでは判断ができない時には、外部の視点から意見を貰って判断材料に加えると良い』と言っていた。
異世界に来たことで、もう会えなくなってしまったけれど……。せめて祖父から教わった教訓の数々は無駄にせず、この世界でも活かしていきたいものだ。
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お読み下さりありがとうございました。
御霊を体に宿らせる、とか書いていると、久々に討鬼伝が遊びたくなります。




