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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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117. 続・神社の建立(後)

 


     [2]



 『桔梗』の皆に建てて貰ったこの神社は、奥に建てられた本殿自体は然程大きくも無いのだけれど。一方で拝殿の方はかなり大きく、荘厳な建物となっている。

 本殿の中には寛げる空間も無いけれど、拝殿の中には畳の個室が幾つか設けられている。なので落ち着いて話をすべく、ユリ達は一先ずそちらへと移動した。


 畳敷きの部屋に入り、ユリ達一行が腰を下ろすと同時に。

 再び―――金山姫神(かなやまひめ)は、深々とユリに向かって叩頭してみせる。


「この度はご足労を頂きまして、申し訳ありませぬ」

「……とりあえず、その変に畏まった態度を止めては頂けないかしら。私は神としては新米も良い所なので、金山姫神(かなやまひめ)ともあろう方に頭を下げられるような相手ではないのよ」


 目の前に居るのが、あくまでも『アトロス・オンライン』のゲームに実装されていた『神』に過ぎないと、判っているのだけれど。何だか日本神話の『神』に頭を下げさせてしまっているようで、ユリとしては酷く居た堪れない心地になる。

 ユリの側から三度ほど重ねて要請すると、ようやく金山姫神は叩頭するのを止めて、正面からユリのほうへ視線を重ねて向き直ってくれた。


「私はユリ。こちらの2人は私の臣下で、ホタルとメテオラと言うわ」

「か、金山姫神(かなやまひめ)と申す」

「それで、メテオラから私をお呼びと伺ったのだけれど?」


 ユリがそう問いかけると、金山姫神は随分と気まずそうな表情をしてみせた。


「あ、いえ、その―――まさか、斯様に高き方でいらっしゃるとは思いもよらず、本来であれば(わらわ)の方から出向くべき所を―――」

「それはもう良いから。何か私に言いたいことがあるのではないの?」

「は、はい! その、お礼と……あと、お願いがひとつ御座いまして」

「伺いましょう?」

「この度は大変立派な(やしろ)にお()び下さいまして、ありがとうございます。妾は鉱山と金工の神ですから、建築に関しては素人も同然でありますが。そんな妾から見てもこの社が、いかに見事な普請によって造られたものかぐらいは判ります。

 また依代(よりしろ)にも、分霊の妾が宿るには随分と身に余る上物を用意下さいましたようで、こうして身体を顕現させていても些かも負担を感じませぬ。

 ―――ここまでして頂きましたからには、普請の責任者であると思わしき彼女達の主に、厚く礼を申さねばならぬと思い、呼び出して頂きました次第でして」

「ふむ……」


 御神体として用いた『照魔鏡(しょうまきょう)』が、かなり格の高いアイテムであることは間違いないし。また、神社を建立(こんりゅう)した『桔梗(ききょう)』の腕前の凄さについては、もはや考えるまでも無いことだ。

 なるほど、充分な待遇をもって迎えられたことを察して、金山姫神の側から礼を言おうと思ってくれたという経緯は、概ね理解できたが。


「こう言っては失礼かもしれないけれど―――こちらもそれなりの目的があって、金山姫神をお迎えしたに過ぎないのだから。礼を言われることでは無いのよ?」

「そちらは概ね理解しております。この社の地下に広がる鉱山を、妾の力をもって豊かにすれば宜しいのですね」

「流石は鉱山の神様ね、話が早くて助かるわ。お願いできるかしら?」

「造作もなきことです。立派な社と依代を用意して頂いたのですから、これぐらいのことはさせて頂かねば、妾も立つ瀬がありませぬ。

 ただ……過分な待遇を身に受けておきながら大変に恐縮なのですが、許されるならば厚かましくも、ユリ殿に更にひとつお願いしたき事が御座います」

「私に可能なことなら、構わないけれど?」

「どうか夫の分霊も()んで頂き、共に暮らすことをお許し願えませんでしょうか」


 もう何度目か判らないけれど、金山姫神はまた深々と頭を下げてみせる。


 ホタルから男神の『金山彦神(かなやまひこ)』と、女神の『金山姫神(かなやまひめ)』のどちらを迎えるつもりなのか問われた際に、ユリは即答で後者を選んでしまったわけだけれど。

 よくよく考えてみれば―――『アトロス・オンライン』のゲーム内では、2柱の神は兄妹ではなく『夫婦神』という扱いをされていたのだから。片方だけを喚ぶという考え自体が間違いだったのかもしれない。


「なるほど、夫婦神を片方だけお迎えするというのでは、失礼だったわけね……。申し訳無いわ、そこまでは考えが回らなかったのよ」

「あ、いえ! 普通は別に、妾だけ喚ばれても問題無いのですが、ただ……」

「……ただ?」

「普通の依代に宿るのであれば、常に意識の半分近くが眠っているような状態となりますから、別に夫が近くに居ようと居まいと然程気にもせぬのですが。

 その……今回は随分と上等な依代を用意して頂きましたお陰で、こうして自由に顕現することも可能なようですので。この地にて身体を得て長く生きるなら、是非とも夫にも隣に居て欲しいなと……」


 僅かに頬に紅を差しながら、金山姫神はそう告げた。


 折角身体が得られたからには、夫とイチャイチャしながら暮らしたい―――と。

 要はそういうことらしい。


「だったら金山彦神(かなやまひこ)も自由に顕現できるように、それなりの格の御神体を用意した上で、お迎えした方が良いわね?」

「我侭を重ねるようで大変恐縮ですが、許されますなら是非」

「遠慮は無用よ。それに神を2柱もお招きすれば、鉱山へ齎される恵みもより増えることでしょうから、私達にとっても相応の見返りが期待できるのだし」

「それについては、充分な恩返しを確約致します」

「結構。その保証ひとつで対価として充分だわ」


 とはいえユリの〈インベントリ〉の中に、もう照魔鏡(しょうまきょう)は無い。

 一旦宮殿まで戻って『撫子』の子から照魔鏡を回収してこようかしら―――と、ユリが考えていると。その心中を察したかのように、メテオラがひとつのアイテムを両手で差し出してきた。


姐様(あねさま)! 良ければこれをお使い下さい!」

「あら、良いの?」

「はい! もう今の私には、使い途が無くなった武器ですので!」


 メテオラが渡してきたのは『天之御影鎚(あめのみかげのつち)』という金槌だ。

 これは装備者の意志に応じて自在に大きさが変えられるアイテムで、通常サイズのままであれば鍛冶や建築に利用できる道具となり、巨大化させれば高い攻撃力を持つ『両手持ちの鈍器』となる。


 例によって、昔『アトロス・オンライン』のゲーム内ガチャの景品として入手したものだが、装備制限が『レベル120以上』に設定された武器なので、既に上限の『レベル200』に達しているメテオラからすれば、今となっては大きく格落ちした武器でしかない。

 これならば確かに、御神体に用いても問題の無いアイテムだろう。


「金山姫神、この金槌でも金山彦神(かなやまひこ)の御神体として足りるかしら?」

「……じ、充分です。それどころか、その神器(じんき)ではもはや過分の域かと……」

「そう? じゃあこれを使ってあなたの夫を喚ぶわよ?」

「あ、有難いことです。どうぞ、宜しくお願い致します」


 またしても、深々と叩頭してみせる金山姫神。

 止めて欲しいと何度お願いしても、どうやら改めてくれるつもりは無いらしい。


「では、私達はちょっと本殿で儀式を行ってくるけれど、メテオラはどうする? 付いてきて儀式を見学しても良いし、都市の建設に戻っても良いけれど」

「そうですね……。えっと、金山姫神様は金山彦神様のお迎えが無事に済んだら、この神社で一緒にお住みになられるのですよね?」

「うむ、そのつもりだが……?」

「この拝殿に幾つか和室は造りましたが、炊事場も風呂場も無い建物に住むのでは不便も多くなるでしょうから。私は皆様が儀式を終えるまでの間に、境内の隅にでも小さめの家屋を一軒建てておきたいと思います」

「それは良い考えね。お願いしても?」

「はい、姐様(あねさま)! お任せ下さい!」


 境内でメテオラと別れてから、ユリはホタルと金山姫神と一緒に、再び本殿の方へと移動する。

 その道中で、金山姫神が訝しげにユリに問いかけた。


「……のう、ユリ殿。妾の聞き違いでなければ、あの童の大工殿は『儀式が終わるまでの間に家を建てる』と言っておったような気がするのだが……?」

「ええ、間違いなくそう言っていたと思うけれど?」

「あの童女が優れた大工であることは、この社の造りを見れば疑いようも無いが。流石に儀式が終わるまでの間に建てるというのは、幾ら何でも不可能であろ」

「そうねえ、普通なら不可能よねえ」


 金山姫神の言葉に、思わずユリはにんまりと微笑む。

 ユリのすぐ後ろでは笑いを堪えきれず、ホタルが軽く吹き出していた。


 本殿に到着した後に、ユリはホタルと先日行った手順を再確認する。

 それからユリが異世界への接続を確立して、ホタルが儀式を執り行った。


高天原(たかまのはら)神留(かむづま)()す、皇親神漏岐(すめらがむつかむろぎ)―――」


 ホタルが紡ぐ祝詞(のりと)は、相変わらず淀みもなく美しい。

 その立派な奏上ぶりを見て、金山姫神(かなやまひめ)が一度瞠目してみせた後に、とても感心していた様子だった。

 一通りの儀式を終えて、一息ついた後に。ホタルはユリの側へと向き直る。


「無事にお迎えできたようです」

「お疲れさま、ホタル」


 ホタルの言葉を受けて、ユリは異世界との接続を遮断する。

 異世界と接続するだけなら、消費する『信仰力』は微々たる量だと聞いている。都合2回も行ってしまったわけだけれど、特に問題は無いだろう。……多分。


「確かに夫が宿ったようだ。ありがとう、ユリ殿、若き巫女殿」

「すぐには顕現して来ないのかしら?」

「妾がそうであったように、おそらく目覚めるまで今少し時間が掛かるであろ」

「ふむ、そういうものなのね」


 金山彦神の姿がすぐに見られるかと期待したのだが、残念ながら無理らしい。

 また数日後にでもこの神社を再訪すれば、その時には会えることだろう。


 金山彦神を宿した『天之御影鎚(あめのみかげのつち)』を、金山姫神を宿した『照魔鏡(しょうまきょう)』を安置しているのと同じ箱の中に収めてから、ユリ達は神社の本殿を出る。

 先程メテオラと別れた地点の辺りにまで戻ると―――まあ、予想していたことではあるのだけれど。境内の隅に、大層立派な御殿が早くも出来上がっていた。


 ユリ達がその建物へと歩み寄ると。ちょうど御殿の中からメテオラが出て来て、ユリの姿を見つけると同時に足早に駆け寄って来た。


「―――姐様(あねさま)! お帰りなさいませ!」

「メテオラ、あなた先程『小さめの家屋』を建てるって言っていたわよね……?」

「すみません! 作ってる途中にテンションが上がってしまいました!」


 ……うん。テンションが上がったのなら、仕方が無いよね。

 どう見ても10LDKぐらいありそうな立派な御殿だから、夫婦2人―――もとい、夫婦2柱で住むには、些か大きすぎるような気もするが。


 ユリの隣では、信じられないものを目の当たりにした金山姫神が、あんぐりと大口を開けながら硬直していた。

 まあ―――無理もないと思う。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小さめではすまないとは思っていたが、ここまでデカイのが建つとは。
[良い点] 更新乙い [一言] あれだよ 夫婦仲が良くて子沢山になれよって言ってんだよ たぶん
[気になる点] 結局この世界に神様を二柱喚んじゃったけど癒神リュディナに怒られるんじゃないかなあ 確か八柱までしかこの世界は神席がないと言う話だからかなら不味いことになるのではないかこれは
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