116. 続・神社の建立(前)
読んでいる方には多分丸判りだったと思いますが、ここ何話分かの話数が間違っておりました。
慌てて修正致しました。申し訳ありません。
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ユリは現代日本で暮らしていた『蓬莱寺百合』の身体ではなく、『アトロス・オンライン』のゲームで操作していたプレイヤー・キャラクター『ユリ』の身体で、この異世界へと転移してきた。
その証拠にユリの身体は、色々と加齢に伴う変化が露骨に顕れ始めるアラフォーのものではなく、ゲーム内年齢として設定された『18歳』の若々しいものだ。
『アトロス・オンライン』において、ゲームキャラクターが『加齢』するということは、基本的には無い。ユリはこのゲームを20年以上プレイし続けていたわけだけれど、キャラクター作成時に設定した『18歳』のまま『ユリ』の年齢は全く変化しなかった。
唯一の例外は『老化』という状態異常を受けた時で、この時にだけは身体が著しく老化して、身体能力値が大きく低下してしまう。
ユリが懇意にしている商人へ配っている『変若水』は本来、この状態異常を取り除くための『回復アイテム』という扱いになる。
ユリと『百合帝国』の皆はゲームキャラクターの身体のまま異世界へと転移してきたため、今でもゲームの時と同様に幾つかの機能を利用することができる。
例えば〈インベントリ〉などがそうだ。職業を問わず、誰でもアイテムを異空間に収納しておくことができるこの機能は大変に便利なもので、ユリも日頃からよく利用している。
他には―――ユリや『百合帝国』の皆は、もし何かしらの要因で『死亡』することがあっても、何度でも『復活』することができる。
ゲームキャラクターとしては標準装備で当然の機能だけれど、異世界に於いてはこれほど凶悪なものもないだろう。
もちろん死亡してしまうと、ゲームの時と同様に『デス・ペナルティ』を受ける羽目になるので、できれば回避したい所ではあるけれど。万が一のことがあっても大丈夫と予め判っているのは、非常に心強いことだ。
そして『ギルドチャット』も、現在でも利用できるゲーム機能のひとつになる。
ギルドチャットを利用して発言すれば、同じギルドに所属する全てのメンバー、つまり『百合帝国』の全員に纏めて声を届けられる便利な機能なのだけれど。
ユリ達はいつしか―――この機能をあまり利用しなくなっていた。
理由は単純で。ギルドチャットを利用すると、強制的に『百合帝国』360名の全員に声が届いてしまうせいで、一部の人にだけ伝えたい連絡などに用いるには、却って不便なことも多いのだ。
そのせいでギルドチャットが使われるのは、ギルドマスターであるユリが『百合帝国』の全員に連絡事項を伝える場合が殆どで。他にはごく稀に、緊急性がある連絡手段として使われる程度のものだった。
なので今回は珍しく、その後者の例ということになる。
『―――申し訳ありません、姐様。こちら『桔梗』のメテオラなのですが。ご都合が宜しければ、少しお伝えしたいことがありまして』
『春月4日』の午前中。いつも通り執務室に籠っていたユリが、ニムン聖国との来期の交易品取引に関する契約書に署名していると。唐突に脳内へ直接声が聞こえてきて、思わずユリはビクリとしてしまう。
驚いてしまったせいで、少し署名の文字が歪んでしまったけれど……まあ、これぐらいならば大丈夫だろうか。
ギルドチャットの第一声は時と場所を選ばず、いつも唐突に聞こえてくる。
それもまた、この機能があまり使われなくなった理由の一因でもあるだろう。
「どうしたの、メテオラ? 個別の『念話』を繋ぎましょうか?」
『あ、ではそうして頂けますと嬉しいです』
「判ったわ」
繋がっている『絆』の中からメテオラのものを選り分け、双方向の会話が可能なように設定する。
〈絆鎖導師〉の能力をもってすれば、造作もないことだ。
「相互会話が可能なように調整したからもう大丈夫よ。どうしたの?」
『申し訳ありません、姐様。ひとつ先に確認したいことがあるのですが、先日私どもが建立した神社で祀っているのは『カナヤマヒメ』という神様で間違いありませんでしょうか?』
「ええ、合っているわ。そういえば神社を建てて貰っておきながら『桔梗』の皆にその辺の仔細を話してはいなかったわね。ごめんなさい」
『いえ、それ自体は全然大丈夫です! 私達は作るものを作ったら、あとの利用に関してはあまり興味もありませんので!』
「そ、そう? それなら良いけれど……」
建築にしか興味が無いというのは、『桔梗』らしいと言えばらしいが。
「……それで。神社に『金山姫神』をお迎えしたことが、どうかしたかしら?」
『えっと、現在建造を進めている鉱山都市のすぐ近くなので、ちょっとお参りでもしておこうかなあと思って、今日は神社の様子を見に来てみたのですが』
「ふむ、良い心掛けね。それで?」
『神社にカナヤマヒメを名乗る方が住み着いていらっしゃいまして』
「……は?」
『神社を造ったのが私達なのかと問われたので、その通りだと答えましたところ。二言目には「今すぐおぬし達の主君と会わせよ」と要求して来られまして』
「………………え、何? 金山姫神が、顕現しているの?」
『はい』
「そうなんだ……」
神を顕現させる、という行為自体は『アトロス・オンライン』のゲーム内でも、可能なことではあった。
但し、その為には必ず『尸童人形』と呼ばれるアイテムを使用して、神霊をその人形に憑依させる必要がある筈だ。
神が自ら顕現する―――という例は、ユリも聞いたことが無い。
「……とりあえず、すぐに向かうから金山姫神を少し待たせておいて頂戴」
『承知しました。会話が通じる相手なので、問題無いかと思います』
「判ったわ、お願いね」
ユリはすぐに『絆』を選別して、金山姫神を迎える儀式を行った『紅梅』隊長のホタルと連絡を取る。
執務室まで来て貰ったホタルと合流して、転移魔法で一気に神社まで飛んだ。
「わあ、これはびっくりですね~」
転移した直後に。周囲の景色を見て、ホタルが驚きの声を上げた。
神社の建設時に『桔梗』の子達が境内の隅に植えていた、沢山の桜の樹。まだ芽も生えていなかった筈のそれらの樹木が、一斉に開花しているではないか。
「……なるほど、神様が顕現しているという話が、真実味を帯びてきたわね」
「そうですね~」
これ程の奇蹟が起こせる相手など、そうそう多くは無いだろう。
もっとも、『百合帝国』の中になら可能な子も少なくは無いのだけれど。
今の季節が『春』であることを思えば、満開の桜は正しい風景とも言える。
春月の内に、一度花見を楽しみにここへ来るというのも、良いかもしれない。
「ここで花見でもして、お酒を存分に呑みたいですね~」
ホタルもまた似たような考えを持ったのか、そんなことを口にしていた。
酒は充分な量の備蓄があるので、宴会に使うぐらいは構わないけれど。こちらの世界に来てからは碌な酒が手に入っていないのが、少々気になる所ではあった。
ホタルと一緒に、神社本殿の中へと入る。
本殿の建物自体はそれほど大きいものでもないので、中に入れば全てを見渡すことができる。そこには青朽葉色の着物を身につけた1人の女性が立っていた。
おそらくはこの女性が『金山姫神』だろう。
女性よりも身長が随分低いせいで、一瞬気付かなかったけれど。よく見れば、すぐ傍に『桔梗』隊長のメテオラの姿もあった。
「―――姐様!」
「待たせてしまったわね、メテオラ」
「ふむ……。そなたが、社を建てしこの者達の主か?」
すらっと伸びた綺麗な黒髪の女性が、ユリにそう問いかけてくる。
なるほど、いかにも日本の神様といった風貌をした相手だ。
「そうですが、何か?」
「む……。ま、まさか、そちらも神なのか!?」
「は?」
「しかも、妾より遙かに神格が上ではないか……!
こ、この度は、呼びつけるような無礼をしてしまい、真に大変申し訳ない!」
明らかに狼狽してみせながら、女性は慌ててその場に叩頭してみせる。
……見も知らぬ女性から、急に土下座をされてしまうけれど。
いまいち状況が飲み込めず、ユリはただ困惑させられてしまうばかりだった。
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お読み下さりありがとうございました。




