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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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117/370

115. 異世界で迎える新年

今回投稿分までは超忙しい中書きました。誤字とか多かったらごめんなさい。

(※一応今日の分は1度読み返した上で投稿しました)

 


     [6]



 ―――本日は『春月1日』。

 ユリと『百合帝国』の皆が異世界に来て、ちょうど1年が経過した。


 異世界の1年は『160日』と短いとはいえ、結構な日数だ。

 思い返せば―――本当に色々なことが、あったように思う。

 1年前のまだ異世界に来て間もない頃の自分に『あなたは1年後には聖国と同盟を結び、公国を属国化して王国を併合しています』なんて告げたら、一体どんな顔をするだろうか。

 ……おそらくは狂人の戯言とでも思って、まともに取り合わないのだろうなと、そんな風にさえ思えてしまう。それぐらい、この160日間は波乱に満ちていた。


 1年前には、異世界に流れ着いたばかりの『流浪の放浪軍』に過ぎなかった『百合帝国』が、今や15の都市と60近い村落を支配する大国となっている。

 ユリとしては『百合帝国』の皆と一緒に暮らせるなら、別に国など持たず、どこかの過疎地でひっそりと過ごすだけでも充分に幸せなのだけれど。『百合帝国』の皆としては、主であるユリに、ギルド名に相応しい『帝国』の女帝になって欲しいという強い思いがあるようだ。

 愛する皆の望みは、即ちユリ自身の望みでもある。リュディナへの恩返しという意味でも、自らの民が苦痛なく暮らせるよう努める必要があると思うので、当面は内政を重視したい思いがあるけれど。皆が望む以上は―――いつかは更なる国土の拡大も、視野に入れていかなければならないだろう。


 ―――とはいえ、それはあくまでも未来の話だ。

 『百合帝国』の皆には『向こう2年間は積極的な国土の拡大を望まない』というユリの意志を、既に明確な言葉として伝えてある。

 ユリが皆の意志を優先するように、皆もまたユリの意志を優先してくれる以上、当面は他国への侵略などは一切考えず自国だけを見ていれば良いだろう。

 無論―――百合帝国や、同盟国であるニムン聖国、属国であるシュレジア公国に対して戦争を吹っ掛けてくるような。そんな愚か者でも出てくれば、話は別だが。


 『春月1日』である本日は、ユリの感覚からすると『正月』なのだけれど。当然ながら異世界のそれは、日本の正月とは様相が全く異なる。

 一応どの国でも、年始の今日は『めでたい日』としては認知されているらしく、市井の人々が少なからず浮かれていることは、何となく伝わってくる。

 でも―――それだけだ。多くの人々にとっては、今日はただの『年始の1日』にしか過ぎず。休日でさえなく、普通に働いている場合が殆どのようだ。


 この世界の人達は、基本的に『休日』を取らない。

 それは別に、この世界の人達が特別に『勤勉な人達』だというわけではなくて。単にこの世界では『週に1~2日程度の休日を取る』という風習自体が、存在していないのだろう。

 例外的に、一部の過酷な肉体労働者―――ダカートの都市に住む『坑夫』の人達などは、週に1度『癒』の曜日に休日を取ったりするらしいけれど。それ以外の人達は原則として、年中無休で働いているようだ。


 個人的には、せめて正月ぐらいには皆、身体を休ませて欲しいのだけれど……。君主の側から無理に『休日にせよ』と市井に要求するのも、何か違う気がする。

 ……この辺のことは、今後内政に注力する上での、ひとつの課題となりそうだ。

 生産効率などは落ちるかも知れないけれど、週休1~2日制の世の中を目指してみるというのも良いかもしれない。現代日本での暮らしが長かったユリの感覚としては、そのほうが『健全』な社会のようにも思えるし。


 ちなみに、年始の今日は『迷宮地(ダンジョン)』を閉鎖している。

 表向きの理由としては『あまり迷宮地にばかり籠ると、日付や時間の感覚が無くなってしまうから、年始の今日ぐらい太陽の下で過ごして欲しい』という具合のことを、市民に対しては周知してあるけれど。

 まあ―――本質的な理由は、当然ながら『探索者ギルド』の主であるソフィアが今日一日はベッドから起き上がれないだろうから。それを見越して『迷宮地』を強制的に『休み』にした、という面が大きい。

 『迷宮地』を終日閉鎖すれば『探索者ギルド』の仕事もなくなるから。当日は、時間を気にせずソフィアにゆっくり眠っていて貰えるというわけだ。


 ちなみにソフィアに限らず、エシュトアも、リゼリアもロゼロッテも、早くても今日の宵頃ぐらいまでは、おそらく目を覚ますことは無いと思われる。

 それぐらいに彼女達全員の身体を酷使(・・)した、という実感がユリにはあった。


 単に『迷宮地(ダンジョン)』の終日閉鎖だけを行えば、探索者から不満が出てくるかもしれないから。代わりに、今日一日はユリシスの都市内に於いて、あらゆる屋台で飲食が無料で行えるようにしている。

 今日だけは屋台を利用するあらゆる代金が、百合帝国の国庫から支払われるように手を回してあるわけだ。但し、酒まで無料で振る舞うと碌な事にならないような気がするので、酒の代金だけは通常通り払って貰うけれど。


 迷宮地に潜れない代わりに、地上でタダ飯が好きなだけ食えるとなれば、不満を持つ探索者もそれほど多くはならないだろう。

 もちろん探索者ではない市民からも、大いに喜ばれるに違いない。


 普段ユリから『屋台露店キット』を借り受けて営業している、ユリタニアとニムン聖国内の屋台は、今日だけは全てユリシスの都市にて営業して貰っている。

 ユリシスの都市へは『転移門』を利用して、百合帝国とニムン聖国、シュレジア公国、元エルダード王国領の民の全員が自由に移動できるので、いずれの土地に住む者でも、今日だけは無料の食事を楽しむことができるわけだ。

 お陰で今日のユリシスの都市は、朝から大変な混雑となっているようだ。

 年に1度のお祭り騒ぎと思えば、そうした混雑に揉まれることもまた、楽しみのひとつのようなものだろう。


 なお深酒をするなどして、暴力行為等の犯罪に及んだ者は厳格に処罰する旨を、各国の市民には『放送』を介して事前に通知してある。

 具体的には、情状酌量の余地あるものを除き、一律『国外追放』とする。

 ユリの修得している魔法の中には『世界中の無作為(ランダム)な地点へ転移する』という、なかなかユニークな効果のものがあるのだけれど。年始から犯罪者に身を落とすような浅慮な方々には、その魔法を利用して、是非とも未知の世界への片道旅行を謳歌して頂こうと思っている。


 ―――まあ、海とかに落ちる確率も結構高いと思うけれど。

 ぶっちゃけ国の害でしかない相手がどうなろうと、ユリの知ったことではない。

 わざわざ施設に収監して、犯罪者の更正を試みる現代社会は随分とお優しいのだなあと。為政者側の立場になったことで、改めて思い知らされるような気がした。


 そういえば『収監』で思い出したけれど―――ユリタニアの地下に収監していた残り3000名程の元王国輜重兵の女性達は、年始の今日を以て『恩赦』という形で解放することにした。

 既に『黒百合』の子達による調教が充分に済んでいるので、百合帝国に害を為すことは無いだろうと判断してのことだ。まあ、あと特に用途も思いつかないのに、このままずるずると収監を続けるというのは、幾ら百合帝国に攻め込んできた敵国兵とはいえ、ちょっと申し訳無い気もしたからだ。


 彼女達には『故郷に戻る』か『住居を貰ってそこに住む』かを自由に選んで良い旨を伝えてある。

 前者を選んだ人達は、最寄りの都市まで『転移門』で移動できるように取り計らい、後者を選んだ人達には、まだまだ居住人口の少ないユリシスの都市内に住居を与えると共に、2ヶ月分の生活費を支給することになっている。

 ユリシスは発展著しい都市なので、2ヶ月あれば職を見つけるには充分な筈だ。

 あるいはもちろん、職を探さず『探索者』になることもできるわけだし。


 故郷に戻るか否か―――どちらを選んだ場合であれ、王国の国土全てを百合帝国が併呑した以上、彼女達が百合帝国の臣民となることに変わりはない。

 敵に回った相手には、容赦ができない自身の性分を理解しているだけに。ユリとしては、彼女達が二度と百合帝国に刃を向けないでくれることを願うばかりだ。




「………………おはようございます」

「あら、おはよう。エシュトアが一番早かったわね」


 ルベッタとアドスの2人が王国領から無事帰還したことで、ユリタニア宮殿まで届けられる日々の報告書の量が、以前よりも目に見えて増えている。

 執務室に籠ってユリがそれらの書類を確認していると。目を覚ましたエシュトアが、部屋を訪ねてきてくれた。


 エシュトアのレベルは『78』と高い。

 他の3人よりも体力面や精力面で大きく優れているため、彼女ひとりだけが先んじて目を覚ますことができたのだろう。


「他の3人の様子はどう?」

「ふあぁ……。たぶん、今日の間は起きてこないのでは無いでしょうか」


 ユリの目の前で、大きな欠伸をしてみせるエシュトア。

 こうして起きて来ていても、どうやらまだ眠気が相当に残っているらしい。


「そう。疲れているみたいだから、仕方ないわね」

「私達を全員纏めて疲労困憊にさせたのは、お姉さまではないですか……」

「ふふっ。昨晩のエシュトアは、とても可愛かったわよ?」

「うう、あまり言わないで下さい……。は、恥ずかしくて死にそう……」


 顔を真っ赤に染め上げて、恥ずかしがるエシュトア。

 その様子があまりに可愛いものだから。そっとユリは、彼女の額に唇を落とす。

 それに反応して、エシュトアがますます紅色を深くしてみせた。


「今年もよろしくね、エシュトア」

「は、はい……。よろしくお願いします、お姉さま」


 恥ずかしがりながらも、初々しくユリの頬に唇を返してくれるエシュトア。

 今年も悪くない一年になりそうな―――何となく、そんな予感がした。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い
[一言] 統治を適当に他人に丸投げで済ますならいいだろうけど、善政を敷こうものなら死ぬほど手間かかりますからねぇ。 その辺の意識のすれ違いを解消出来りゃいいんでしょうが、ほぼ全員軍部みたいなもんだしな…
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