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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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114. 年越し蕎麦

今回も無推敲一発書きです。ホントごめんなさい。

今月で忙しいのは本日(25日)までなので、明日以降の執筆分(=明後日以降の投稿分)からは問題なくなると思います。たぶん。

 


     [5]



「わざわざ忙しい所を来て貰って、悪かったわね」

「いえ。ご主人様からの呼び出しとあらば、いつでも喜んで伺いますので」


 年の瀬の『冬月40日』、その夜半になって。

 ユリの呼集に従って、ユリタニア宮殿の応接室に顔を出してくれたソフィアが、そう告げて深々と頭を下げてみせた。

 利用者が日増しに多くなっていく『探索者ギルド』の主を任せている彼女は、ユリシスの都市に於いて最も忙しなく働いている者の1人だろう。


「それに、今日はご主人様が手ずからお作りになった、何か美味しいものをご馳走して下さるとか。そんな嬉しいことを言われれば、どんなに忙しくても時間の都合ぐらい喜んで付けさせて頂きますとも」

「ああ……申し訳無いけれど、私が作ったのは料理の一部分だけなのよ。それに、ソフィアの口に合うかは正直判らないし」

「一部だけでもご主人様の手料理が味わえるなら、いつでも喜んで伺いますよ」


 朗らかにソフィアは微笑んでみせる。

 そう言われれば、ユリとしても悪い気はしない。


「そういえば、ソフィアはまだ私のことを『ご主人様』と呼ぶのね?」

「いけませんでしたか?」

「別にダメでは無いけれど……。私のことを『ご主人様』と呼ぶのは、あなたが自分のことを『奴隷』だと自称しているからでしょう? 『側室』になった以上は、もうその呼び方は変では無いかしら?」

「はい、有難くも側室の1人に加えて頂きましたので……。今後はよりご主人様の寵愛を頂ける『側室奴隷』として、頑張ろうと思っておりますが?」

「……寡聞にして聞いたことが無いのだけれど。『側室奴隷』って何かしら?」

「側室で、奴隷のことですね。つまり私のことです」

「………………ああ、そう」


 これは何を言っても無駄なヤツだな―――と、ユリは即座に理解する。

 言い諭そうにも、言葉ではたぶんソフィアには敵わないから。ユリは彼女が自称する『側室奴隷』という言葉を、殆ど諦めにも似た心地で受け容れた。


「今日は、来るのは私だけなのでしょうか?」

「いえ、ソフィアだけでなく『側室』の皆に声を掛けているわ。今日振る舞おうと思っている料理は、私の故郷の料理なのよ。その味が聖国や公国、王国領の人達の舌に合うかどうかを確かめる、試金石としての機会を兼ねているのよ」

「ふむふむ。ご主人様の故郷の料理とは、楽しみです」

「ああ―――そんな話をしている間に、他の子達も到着したみたいね」


 ユリがそう告げると同時に、コンコンと応接室の扉がノックされた。

 どうぞ、と部屋の外に向けて声を掛けると。ニムン聖国の聖女であるエシュトアを先頭にして、リゼリアとロゼロッテの2人も部屋の中へと入ってくる。


「今晩は、お姉さま。本日はお招き下さりありがとうございます」


 そう告げてエシュトアが頭を下げるのと同時に、リゼリアとロゼロッテの2人もユリに向けて頭を下げてみせた。


「いらっしゃい。こんな遅い時間に呼び出したりして、悪かったわね」

「いえ、私は普段はもっと遅い時間まで『迷宮地(ダンジョン)』に潜っておりますので」

「……程々にしなさいよ」


 エシュトアは毎日の朝から夕方に掛けては、ニムン聖国の大聖堂にて聖女としての務めを果たすことに専念しているけれど。夜になれば、ユリシスの『迷宮地』へ毎晩のように意気揚々と挑む一人前の探索者へと変わる。

 最初に出逢った時点で『64』と既に高かったエシュトアのレベルは、現在では既に『78』にまで成長している。

 ―――これは、ユリシスの『迷宮地』に挑む探索者の中で、実は最も高いレベルだったりする。推奨レベルが『66~80』に設定されている『上級者向けⅠ』の迷宮地さえ卒業が見えてきている彼女は、間もなくユリシスの都市にある迷宮地の中で、最も難易度が高い『上級者向けⅡ』の迷宮地へと挑み始めることだろう。


 ユリは来てくれた3人を、部屋に置かれた対面式ソファのほうへ促す。

 ソフィアが座っている位置を横にずれてくれたので、ユリはソフィアと同じ側の隣に座る。その対面側にエシュトアとリゼ・ロゼの姉妹が腰掛けた。


 すぐにソフィアが〈侍女の鞄〉からティーポットと4人分のカップを取り出し、即席のお茶会の場を作り出す。

 夕食を振る舞うために呼んだのだけれど―――まあ、その前に少しぐらい会話に花を咲かせても良いだろうか。


「そういえば先日、私と姉様も2人一緒にユリシスの『迷宮地(ダンジョン)』へ、初めて挑戦させて頂いたんです。難易度が一番低いものにですけれど……」

「あら、そうなの? 『放送』で興味を持ったのかしら?」

「は、はい。その……実は、お恥ずかしながら。妹ではなく私の方が、興味が出てしまいましたもので」


 ユリの問いかけに応じて、リゼリアがそう答える。

 まだ少し緊張はしているようだけれど。それでも大分慣れたのか、リゼリアは初対面の時とは打って変わって、ユリとも笑顔で会話ができるようになっていた。

 彼女が少しずつ心を開いてくれていることが、ユリには堪らなく嬉しい。


「それは意外ね。リゼリアは気が弱い部分があるようだから、何となく暴力の類は嫌いかと思っていたわ」

「実はリゼ姉様は、王国の騎士から教わって、王宮内にて棒術を嗜んでいたことがあるんですよ。もちろん、あくまでも護身術程度になのですけれどね。

 ですが、低レベルの探索者の様子が『放送』されているのを視聴して、これなら自分の武術でも通用するかもしれないと思ったみたいで」

「なるほど。それで実際に行ってみて、どうだった?」

「……実際に敵を前にすると、怖くてなかなか上手く戦えませんでした……」


 顔を赤らめながら、消え入りそうな声でそうつぶやくリゼリア。


 ―――まあ、無理もない。

 護身術として武術を習っただけでは、明確に攻撃の意志を持った相手と対峙する機会など無かっただろうから。実際に経験すれば、身体が竦むのは当然のことだ。


「まあ、リゼ姉様がいっぱいいっぱいになって下さったお陰で、却って私は冷静に戦えたので良かったのかもしれません」

「ふふ、ロゼロッテは姉思いだものね。リゼリアが動けなくなっているのを見て、ここは自分が頑張らないといけないと、気合が入ってしまったのでしょう?」

「う……。ま、まあ、そうとも言います」


 ユリに突っ込まれ、たちまち顔を赤らめてみせるロゼロッテ。

 姉思いの妹というのは、ユリからすると非常に好感度が高い資質だ。


 それからユリたちは暫しの間、時間を忘れて『迷宮地』関連の話に没頭していたけれど。程々の時間が経った後に、不意にその場に鳴り響いたある音に反応して、全員の会話が途端に途切れた。


「……す、すみません……」


 顔を真っ赤に染めながら、ロゼロッテが小さな声でそうつぶやく。

 会話を中断させたのは、不意に鳴り響いたロゼロッテの『お腹の音』だった。


「ふふ。いま夕飯を用意してくるわね」


 ユリは全員にそう告げて、一旦応接室から外に出る。

 そして、近場の給湯室でお茶を飲みながら待機していた『撫子』副隊長のアリアから、彼女に預けていた料理を受け取って。それを〈インベントリ〉に収納して、再び応接室へと戻った。


 〈侍女(メイド)〉系職業(クラス)が修得する〈侍女の鞄〉とは違い、〈インベントリ〉に収納したアイテムは時間の影響を受けてしまう。

 なので温かい料理を『温かいまま』保存するためには、どうしても一旦『撫子』の子に預かって貰う必要があったのだ。


「は、初めて見る料理ですね……」

「麺料理ですね。美味しそうです」

「なんだか不思議と、食欲が湧いてくる良い香りがします」

「確かに、色合いは地味ですが、香りはとても美味しそう……」


 応接室のテーブルに、ユリが受け取ってきた5人分の料理を並べると。その場の4人はそれぞれに、思い思いの感想を口にしてみせた。


「ご主人様、これは何と言う料理なのでしょうか?」

「私の故郷の料理で『蕎麦(そば)』と言うわ。特に今日みたいな年末には『年越し蕎麦』と言って、これを好んで食べる風習があるのよ。皆にも食べて貰いたくてね」


 4人に振る舞うのは、何の変哲もない温かい蕎麦だ。

 但し、これはレベル200の〈耀食師(ビルスト)〉であるユーロが手打ちした蕎麦を茹でたものなので、見た目以上に美味しいことは間違いない。


「ふむふむ……。これを、お姉さまがお作りになったのですか?」

「いえ、これ自体は部下に作らせたものよ。まずは一口食べてみて頂戴?」


 そう告げてから、ユリは〈インベントリ〉から取り出した木製のフォークを4人に手渡していく。

 本音を言えば、是非とも箸で食べて欲しい所だけれど。流石にこればかりは、いきなりやらせても酷い結果にしかならないだろう。


「わ、美味しい……! 初めての味ですが、とても美味しいです!」

「澄んでいるのに、凄く複雑な美味しさが……? このスープは一体……?」


 リゼリアとロゼロッテの2人が、フォークに絡ませた麺を一口味わうと同時に、驚きの声を漏らした。

 こちらの世界の人の口に、鰹出汁の味わいが理解されるかどうか、ユリは少しだけ不安だったのだけれど。どうやら杞憂だったようで、ほっと安堵の息を吐く。


「本当に美味しいです。幾らでも食べられそう……」

「このスープのレシピを、是非とも教わりたい所ですね」


 エシュトアとソフィアの2人もまた、美味しさに頬を緩ませていた。

 鰹出汁の味わいが聖国・公国・王国のいずれの国の人にも通じるなら、日本食の味そのものが、大体の国で受け容れて貰えそうな気がする。


「ちなみに私が作ったのはこっちね」

「お姉さま、これは?」

天麩羅(てんぷら)と言って―――まあ、その料理に乗せて、適当に食べてみて頂戴」


 ユリは4人の蕎麦の器の中に、天麩羅を2つずつ手際良く乗せていく。

 1人当たり、海老天が1つと野菜の掻き揚げが1つずつだ。


 年の瀬と言うこともあり、今日の『百合帝国』の夕食は全員が『年越し蕎麦』なのだけれど。蕎麦本体の方はいつも通りユーロにお任せしつつ、天麩羅の方だけはユリが手ずからに皆の分を調理してみたのだ。

 流石に360名分の天麩羅を揚げるのは(特に掻き揚げが)大変だったけれど、〔調理Ⅱ〕のスキルを得たお陰もあってか、大変上手く出来たと自負している。


 いま4人に振る舞っている2種の天麩羅も、今日『百合帝国』の皆の分を作った際に、ユリが一緒に揚げておいたものだ。

 調理してから多少時間が経っているけれど、『撫子』のアリアに保管して貰ったお陰で、今でも出来たて同様のサクサク食感がちゃんと味わえる筈だ。


「わ、こんな美味しい揚げ物、初めて食べます……!」

「これ、スープを吸って、凄く美味しいです!」


 ソフィアとリゼリアが、たちまち歓喜の声を上げてみせた。


 異世界のお姫様の舌も呻らせてしまうのだから。日本料理って、割と本当に凄い料理なのではないだろうか。

 何にしても、4人に喜んで貰えたなら、何よりだと思う。




 ―――もちろん食事の後には、今度はユリが彼女達4人を美味しく戴いた。

 わざわざ『側室』になって貰ったのだから、当然と言えば当然のことだ。


 こちらも抱かねば、無作法というもの。遠慮なんてする筈も無い。

 大晦日から正月に掛けて、徹夜で神社に参拝するのは『二年参り』と言ったりするけれど。大晦日から正月に掛けて―――夜を徹して『姫始め』を敢行するのは、一体何と言うのが適切なんだろうか。





 

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お読み下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・ほぼ毎日更新があること。 ・さらっと読めるとこ ・そこそこに面白い [気になる点] ・百合と書いているが百合要素がない。 ・抱いたと書いているがイチャイチャするわけでもなく、物語に凹凸が…
[良い点] 更新乙い [一言] がっつりしたお蕎麦が食べたい。
[一言] 364人前の天婦羅、大変そうだなぁ。
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