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百合帝国  作者: 旅籠文楽
1章 -

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113. 神社の建立

 


     [4]



「ちょっと試してみたいことがあって、簡易の小さな神社を1つ建立(こんりゅう)したいのよ。悪いけれど『桔梗』で手が空いている子を数名程度で良いから、明日一日貸しては貰えないかしら?」

「判りました! 姐様(あねさま)のご要望だと『桔梗(ききょう)』の皆に伝えておきます!」


 ユリが『桔梗』隊長のメテオラにそう要望したのが、一昨日のこと。

 翌日の昨日、ユリが報告書を眺めていた執務室に「手が空いています!」と満面の笑顔を浮かべながら訪ねてきたのは、なんと『桔梗』の24名全員だった。


 わざわざ来てくれたのを追い返すのも忍びないので、転移魔法で『桔梗』全員と一緒に移動し、ユリが「この場所に神社を建てて欲しい」と依頼すると。

 今日―――『冬月39』日になってユリが再び現地を訪ねると、果たして信じられない程に荘厳にして立派な神社が、たったの1晩で見事に建立されていた。


「私、簡易の小さな神社で良いって、ちゃんと言ったわよね……?」

「すみません! 作ってる途中にテンションが上がってしまいました!」


 ……テンションが上がったのなら、仕方が無いだろうか。

 まあ、大は小を兼ねるとも言うし。別にこれでも問題は無いかもしれない。


 転移魔法を行使して『桔梗』の皆と一緒にユリタニア宮殿まで帰還。

 その後、『紅梅(こうばい)』隊長のホタルを伴ってもう一度転移魔法を行使する。


「これは―――また、ずいぶん立派な神社を建てられましたね~」

「全くだわ……」


 『桔梗』の皆が1晩の内に建ててしまった神社を眺めながら。呆れた口調を隠しもせずホタルが口にした言葉に、ユリもまた心底から同意する。


「ところで、あるじ様。ここは一体どちらでしょう?」

「鉱山都市ダカートの住人が採掘していた鉱山の地表部、その中心になるわ」

「ふむふむ。ここの鉱山は、文字通り『山』にあるのですね~」

「ええ、そうなるわね」


 鉱山とは『鉱物を採掘できる場所』を意味する単語であり、別に『山』にあるものとは限らない。それこそ平地や海底などにあることも珍しくは無いのだ。

 ただ、鉱物は古い地層にほど豊富に含まれることがよくあるので、その地層が何らかの要因によって押し上げられ、隆起して出来た『山』が鉱山として利用されるということも、またよくある話ではあった。


「なるほど、あるじ様の目論見(もくろみ)は概ね理解できました。金山彦神(かなやまひこ)金山姫神(かなやまひめ)のどちらかを、この神社に祀られる心積もりなのですね?」

「お察しの通りよ。流石にホタルには、すぐバレてしまうわね」


 『金山彦神(かなやまひこ)』と『金山姫神(かなやまひめ)』は、古事記や日本書紀に登場する日本の神様の名前だが、この神様は『アトロス・オンライン』のゲーム中にも登場する。

 というか、日本の有名な神様の多くが『アトロス・オンライン』には登場していて、金山彦神と金山姫神は共に『鉱山の神』という扱いになっていた。

 この神の力を人に宿したり、あるいは採掘道具に宿したりすると、鉱床から採掘できる鉱石の質と量が増す。もし土地そのものに宿せば、付近一帯の鉱山に埋蔵されている鉱石の量が、時間経過と共に自然増加するようになる。


 神社を建立してそこに祀れば、後者の効果が見込めるわけだ。

 金属は基本的に枯渇性資源であるため、掘れば掘るほど埋蔵量が減少していき、いつかは枯渇してしまう。けれど、金山彦神か金山姫神を祀る神社を予め用意しておけば、自然にある程度は補充が行われるようになる。


 だから『桔梗』の皆に頼んで、こうして神社を造って貰い、更に神をこの神社に迎えるためにホタルを今日は同行させたわけだ。

 巫女系の最上位職〈神霊依姫(タマヨリヒメ)〉であり、レベルも極限の200にまで達しているホタルに頼めば、神をこの場に迎えることなど造作もない。


「ですが、あるじ様。それには当然、問題がありますよね~?」

「ええ、判っているわ。この世界―――『異世界』であるこの地には、金山彦神も金山姫神も存在しない。こうして神社(はこ)だけ用意しても、結局お迎えする方法が無いのだと言いたいのでしょう?」

「はい、その通りですね~」


 『アトロス・オンライン』のゲーム内に存在していた神様が、この『異世界』には存在しない。

 流石にホタルの力を以てしても、この世界自体に存在しない神様を()ぶことなど不可能なわけだ。


「大丈夫よ。私が一時的に、この世界と『リーンガルド』とを繋いでみせるから。あなたが普通に神を()んでくれれば、きっとそれで上手く行くと思うわ」

「なんと、そのような事が可能なのですか……」


 ユリの言葉に、ホタルはかなり驚愕している様子だった。


 先日、ユリは神域の庭園にてリュディナと行った二人きりのお茶会の後に、彼女から『信仰力』を消費して『日本に帰る方法』を教えて貰ったのだけれど。

 その際に、他にも『信仰力』を消費することで行使可能な奇蹟を、リュディナから直々に幾つも教えて貰ったのだ。


 その中のひとつに、短時間だけ『この世界』と『他の世界』を接続させ、様々な形で干渉できるようにするというものがあった。

 これはリュディナが『地球』からユリを召喚したり、『アトロス・オンライン』のゲーム内世界である『リーンガルド』から『百合帝国』の皆を召喚する際にも、利用した奇蹟であるらしい。


 つまり―――この奇蹟を用いれば、ゲーム内世界の『リーンガルド』とも接続が可能なことが、既にリュディナの実体験により証明されているわけだ。


「必ず上手く行くという保障は無いけれどね。失敗する可能性も充分にあるから、本当は小さくて簡素な神社を建てて貰うつもりだったのだけれど……」

「あるじ様からの要望となれば『桔梗』の皆様は張り切ってしまいますからね~。その結果がこの有り様(・・・)、というのも納得できる気がします~」

「困ったものよねえ」


 眉尻を下げながら、ユリは微笑む。

 自分の為に頑張ってくれたのだと思えば、もちろん嬉しくもあるのだけれど。


「それでは、すぐに神様をお迎えしましょうか?」

「気が早いわよ。『桔梗』の皆に立派な神社(はこ)は準備して貰ったけれど、その中身の用意がまだ済んでいないでしょう?」

「ああ―――そういえば、そうでした。御神体を先に用意しないといけませんね。あるじ様は『金山彦神(かなやまひこ)』と『金山姫神(かなやまひめ)』の、どちらをお迎えするおつもりなのでしょうか~?」

「どちらでも良いのかしら?」

「鉱物自然増の効果は、どちらでもほぼ変わらないと思います」

「だったら女性のほうが良いわね。好みだもの」

「ですよね~」


 金山彦神(かなやまひこ)は男神で、金山姫神(かなやまひめ)は女神になる。

 どちらでも構わないと言われれば、ユリは迷わず女神のほうを選ぶ。


「金山姫神の依り代でしたら、鏡が良いと思います。増やしたい鉱物資源で作られた鏡がありますなら、それが一番ですかね~」

「ふむ……。ここは銀が採れるそうだから、銀で作られた鏡が良いのかしら?」

「いえ、別にいまこの鉱山に埋蔵しているものでなくとも、増やしたい鉱石資源の鏡があるようでしたら、それで宜しいかと~。銅の埋蔵量を増やしたいなら銅鏡、ミスリルの埋蔵量を増やしたいならミスリルの鏡ですかね~」

「『照魔鏡(しょうまきょう)』で良ければ、今ちょうど〈インベントリ〉の中にあるけれど……」


 照魔鏡は『隠された物を曝く』効果があるアイテムで、発動させると付近にある隠し扉や隠された罠、姿を隠した魔物などを全て明らかにしたり、幻術や幻影の類を纏めて消し去ることができる。

 結構便利な上に、魔力を補充すれば何度でも使えるアイテムなので、ユリは普段からこれを〈インベントリ〉の中に持ち歩いていた。


 ちなみに『アトロス・オンライン』のゲームでは、これはガチャの小アタリ景品という扱いの『課金アイテム』だったので、当然ユリは大量に持っている。

 〈インベントリ〉に持っているのは1個だけだけれど、『撫子』の〈従者の鞄〉の中になら、たぶん数百個単位で格納されているはずだ。


「も、もちろん『照魔鏡』でしたら、御神体として不足はありませんね~。

 ……というか、お迎えする金山姫神よりも、御神体の照魔鏡のほうが随分と格が上になってしまうような気もしますが」

「まあ、問題がなければ構わないわ。これを使いましょう」

「承知しました~」


 ユリはホタルと共に本殿の中へと入り、その一番奥に置かれた、御神体を入れるための縦長の箱の前に立つ。

 箱の扉を開き、その中に〈インベントリ〉から取り出した照魔鏡を安置した。

 これで御神体の準備は整った。あとはこの依り代に、金山姫神の分霊をお迎えすれば良いだけの話だ。


「では、今から私がこの世界と『リーンガルド』とを繋ぐから。20秒ほど待ってから、ホタルも作業を開始して頂戴」

「はい、では心の中で数え始めますね~」

「よろしくね」


 昨日リュディナから教わった方法を思い出しながら、ユリは自身の存在を『神』へと至らしめている『神席』の存在を、強く意識する。

 この世界に8つある『神席』のうち、1つはユリの支配下にある。相応の信仰力さえ注ぎ籠めれば、ユリはその力を自由自在に扱うことができるのだ。


 頭の中に―――かつて毎晩のように楽しんだ『アトロス・オンライン』のゲーム内世界の光景を、鮮明に思い浮かべる。

 それだけで、ユリが『神席』に籠めた信仰力が、勝手に世界を接続する『道』を形成してくれる感覚が、担い手であるユリにはありありと伝わってきた。


高天原(たかまのはら)神留(かむづま)()す、皇親神漏岐(すめらがむつかむろぎ)神漏美(かむろみ)(みこと)()ちて、八百萬神等(やおよろづのかみたち)(かむ)集へに集へ賜ひ、神議(かむはか)りに(はか)り賜ひて―――」


 きっちり20カウントの後に、ホタルが祝詞(のりと)の詠唱を開始する。

 神聖な儀式に呼応するかのように、照魔鏡が僅かな燐光を帯び始めた。


 金山姫神(かなやまひめ)をお迎えする儀式自体は、20分と掛からずに完了した。

 儀式が終わっても照魔鏡が帯びていた燐光が鎮まっただけで、他には特に何事も起きた様子は無く、儀式開始前との違いがユリにはよく判らなかったけれど。


「無事にお迎えできたようです」


 巫女系の最上位職、〈神霊依姫(タマヨリヒメ)〉の『レベル200』にまで達しているホタルがそう言うのだから、確かに神様はこの鏡に宿ったのだろう。


 御神体を安置した箱の扉を閉じ、手短に祈りを捧げる。

 ……今となってはユリもまた『神』となった立場ではあるので。神が神に祈るというのが、果たして正しい行為なのかどうかは正直自信がないけれど。


「そういえば―――この場合は、何の鉱物資源の埋蔵量が増えるのかしら?」

「……さて? 一体何が増えるのでありましょうね~?」


 ホタルの説明通りなら『照魔鏡』の素材に使われている鉱物資源が、この鉱山で増えることになるのだろうけれど。そもそも『照魔鏡』が一体何の素材で作られているアイテムなのか、ユリにはまるで見当も付かない。


 おそらくは、それなりに希少な金属も使われているだろうから―――もしかするとミスリルとかアダマンタイトとか、その辺りの埋蔵量が増えるかもしれない。

 ―――そうなったら面白いなと、心の中で少しだけ期待しておこうと思う。





 

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