109. 元公爵令嬢で女帝相談役の自称奴隷なギルマス側室候補(後)
昨日投稿分の推敲が結局出来ていないのみならず、本日投稿分も未推敲です。
ホントすみません……。
「首尾良くお話は纏まったようですね、ご主人様」
「……ええ、まあね」
エシュトアとの『念話』を終えると。ソファの対面側で、ゆっくりお茶を飲んで待っていたソフィアが、そう声を掛けてきた。
「これで百合帝国とニムン聖国、シュレジア公国やエルダード王国との結びつきがより強固になるのは間違いありませんね。
……まあ、王国そのものが亡国へ向かうのはほぼ確定的でしょうけれど、残される土地と国民の未来は安泰でしょう。ご主人様は自身や仲間に剣先を向ける相手には苛烈ですが、身内にはとことん甘い方ですし」
「なんでもう、私の性格まで見透かした感じになっているのよ……」
「毎日の『放送』を見ていれば、ご主人様のお人柄ぐらいは察しがつきます」
「むう……」
笑顔でそう告げたソフィアの言葉に、思わずユリは眉根を寄せるが。とはいえ、ソフィアの見立て自体は至って正確なので、抗議の言葉も特に思いつかない。
結局、それ以上は何も言えないままに、ユリはただお茶を口に含んだ。
「うーん、お茶だけですと少し口寂しいですね。折角収納スキルを修得することができたのですから、甘味も色々と買っておけば良かったかもしれません」
「そう? 私はお茶だけでも満足しているけれど―――ああ、そういえば自作したパウンドケーキで良かったら、ちょうど持っているのだけれど食べる?」
「わ、よろしいのですか? ぜひぜひ!」
数日前に畜産が盛んな『ノトク』の村落へ視察に行く機会があり、村長から土産として鶏卵とバターを貰ったので、それを利用して空き時間で作ったものだ。
パウンドケーキは小麦粉・砂糖・バター・卵の4つの材料から作るケーキで、それぞれの材料を『1パウンド』―――つまり『1ポンド』ずつ使うことから名前が付いている。もちろん実際には1ポンドに拘る必要は無くて、要は4種類の材料を重さベースで均等に揃えれば良いわけだ。
材料が単純な割りに、見た目と食感の両方を上手く作るのは意外に難しいお菓子だったりするのだけれど。〔製菓Ⅱ〕のスキルを会得済のユリの敵では無く、問題なく良質なものを作ることができていた。
「皿とフォークがあれば、用意して欲しいのだけれど」
「承知しました」
ソフィアが〈侍女の鞄〉から取り出して並べてくれた皿の上に、ユリは〈インベントリ〉から取り出したパウンドケーキを置く。
〈侍女の鞄〉に収納するのとは異なり、〈インベントリ〉に入れた物品は時間経過の影響を受けてしまうけれど。一応の包装はしてあるし、パウンドケーキ自体は常温保存で1週間ぐらいは持つ物なので大丈夫だろう。
「ああ……ちゃんと甘さが美味しく味わえて、でも甘過ぎなくて。ご主人様が作るお菓子は、本当にいつも、私の好みにぴったり合う味なのですよね」
「おだてても、お代わりぐらいしか出ないわよ?」
「……もしかして、まだ結構お持ちだったりしますか?」
「ええ。カット済のケーキがあと6切れと、まだカットしていないパウンドケーキが丸々4本あるわね。あと3~4日ぐらいしか日持ちしないと思うから、その前に誰かに振る舞ったりして処分しないといけないわね……」
「わ、そういうことでしたら、半分ぐらい頂けませんか? 私が保存すれば日持ちは関係無くなりますし、毎日ちょっとずつ味わって食べたいです」
「別に構わないわよ? 貰ってくれるなら、私も有難いし」
〈インベントリ〉から梱包済のパウンドケーキを丸々2本取り出して手渡すと、ソフィアは嬉しそうに破顔しながらそれを受け取ってくれた。
「このお代は、ベッドでのご奉仕でお支払いすればよろしいですか?」
「その取引は成り立たないわね。側室になってくれる以上は、あなたの身体をいつでも好きにする自由が、私にはあるもの」
「む……。確かに、それはそうかもしれません」
「だからまあ、代わりに『労働力』で払って頂戴」
ユリは〈インベントリ〉から書類を取り出し、ソフィアへと手渡す。
「ご主人様、これは?」
「昨日リゼリアとロゼロッテの2人と話し合って決めた、今後の行動方針みたいなものかしら。軽く目を通して、気になった点があれば言って貰えるかしら?」
「拝見しましょう」
都合4枚の用紙にびっしり文字が記されているそれを、ソフィアは1分と掛からないうちに読み終えた。
幼いながらも卓越した集中力だと、ユリとしては感心させられるばかりだ。
「……『気に入らない点』と『不安な点』がひとつずつありますね」
「聞かせて頂戴?」
「では先に『気に入らない点』から言わせて頂きますが。この書類には『王国の貴族令嬢の人達を文官として雇用』した上で、将来的には『王国領にある都市・村落の管理を任せる予定』と書かれておりますが。間違いありませんか?」
「間違いないわね」
「彼女達が何の『罰』も受けないのが、私としては『気に入らない』ですね」
ソフィアはゆっくりと席から立ち上がると、両手を広げてみせた。
「ご主人様。この『探索者ギルド』で働いている私以外の職員が、どういう経歴の持ち主であるかは、当然ご存じですよね?」
「もちろん知っているわ。元々は王国で密偵をやっていた人達よね?」
「はい。このギルドの職員の全員が、嘗ては『密偵』の役目を与えられた王国の尖兵だったと聞いています。
ユリタニアの前身であるニルデアの都市に侵入を試みた後に捕縛され、ご主人様の信頼厚き『黒百合』の皆様から『懲罰』を与えられた上で、百合帝国の準国民としての権利が認められたと伺っておりますが」
「……よく知っているわね。職員の人達がそこまで話したのかしら?」
「いえ、これは『黒百合』の皆様から直接聞きました」
以前に『黒百合』の子達は、従者のサキュバスに命じて能力吸収を行わせることで、ソフィアの[知恵]を極端に引き下げていたことがある。
この件は『黒百合』の主であるユリがソフィアに謝罪するという形で、既に決着しているわけだけれど。それとは別に『黒百合』の子達もまた、個別にソフィアへ謝罪を行ったと聞いている。
おそらくはそれで縁が出来たことで、ソフィアは『黒百合』の何人かと関わりを持つようになったのだろう。
『黒百合』の子達は他者に対しては冷酷な嗜虐性愛者として振る舞う一方で、身内に対して非常に甘いという点でユリとよく似ている。
ソフィアが自分のことをユリの『奴隷』だと自称すれば、『黒百合』の子達からは身内の1人だと認識されるだろうから、懇意になることは難しく無い筈だ。
「ご主人様。密偵の人達が『黒百合』の皆様から懲罰を受けたのであれば、それと同じものを貴族令嬢の方々も、受けるべきではありませんか?」
「……あなた、それ本気で言っているの?」
「はい。同じ立場にある私が言うのも何ですが―――貴族令嬢というものは本質的に、贅を求めようとする自身の欲に忠実であり、その一方で貴族の当主や嫡子とは違い、国家に対する忠誠心など欠片も持たず育った者ばかりなのです。
家格に応じた教育を受けているという点では評価できますが、人格的にも優れている者はほんの一握りでしょう。この書類にあるように『王国領の都市・村落の管理を任せる』などすれば、かなりの確率で民から財産を搾取するようになると思われます。これが先程申し上げた『不安な点』ですね」
更にソフィアは「貴族令嬢達を用いるなら『教育』が不可欠です」と続けた。
「貴族令嬢の人達は、雇用する際に『黒百合』の皆様による懲罰を『2週間』だけ受けて頂く、ということに致しませんか?
それだけの期間があれば、百合帝国に対する『絶対』の忠誠心を植え付けることが可能だと、そう『黒百合』の皆様から伺っております。国家の重役を任せるのであれば『教育』を躊躇してはなりませんわ」
「……あなたがそう言うなら、そうすべきなのでしょうね」
確かに、都市や村落を任せる以上は、信頼が置ける者であるほうが望ましい。
『黒百合』の子達による『懲罰』―――というよりも『調教』と呼ぶ方が適切なあれは、濫りに用いて良いものではないけれど。とはいえ、国家に対する忠誠心を植え付ける手段としては大変有用なので、使用を惜しみ過ぎるのもまた良くない。
所詮―――ユリの性向は『極悪』なのだから。
道徳を守ることよりも、己や自国の利益の方が優先されて然るべきだろう。
「密偵の方々は『懲罰』を受けたのに、貴族令嬢の方々だけが『懲罰』を受けずに雇用の恩恵に与れるのでは、待遇の差を不満に思う者もおりましょうしね」
「それも一理はあるのよね。……判ったわ、ソフィアの言う通りにしましょう」
「ありがとうございます。折角ですから、リゼリア王女とロゼロッテ王女のお2人は『黒百合』に任せるのではなく、ご主人様が手ずからに『懲罰』をお与えになれば宜しいかと」
「……だったら、少し前までは公国も『敵国』だったのだし、ソフィアにも私が手ずからに『懲罰』を与えることにしましょうか」
「あら、藪蛇でしたね。―――でも、ご主人様に虐めて頂けるのなら、それもまた私に取っては楽しみのひとつかもしれません」
ソフィアはそう告げて、くすりと小さく笑ってみせた。
(その笑顔の余裕がいつまで続くかしら)と、ユリもまた内心で密かに微笑む。
余裕を失くして、身体を振り乱しながら「許して」と哀願するソフィアが見てみたい―――と。
そんな事さえ考えてしまう辺り。結局はユリもまた、『黒百合』の子達に劣らぬ程の『嗜虐性愛者』であることは、疑いようも無い事実だった。
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お読み下さりありがとうございました。




