第15話 その3
「でもコンクールのために、先輩方はきちんと書き終えてるんですよね」
「綴木さんは、原稿を今日持ってくるって言ってたね。俺も最後まで一旦書き終えて、誤字脱字がないかの最終確認ってところかな」
秋から時間があるわけだから、文章の長短に関係なくその内容は濃密にしやすい。できれば参考にしたいところだ。
「あれ、日向先輩は?」
「あの人は気まぐれだからなぁ……。去年一年生ながら春のコンクールに応募してたけど、冬はやる気がなくて筆が折れていたし。4月5月は新入生の関連で生徒会も忙しいみたいだから、今年はどうなるかわからないんだよね」
容易に想像がついてしまう。部長や綴木先輩は着実に原稿を進めているだろうけど、確かに日向先輩はやる時以外はだらけてそうなイメージが頭に浮かんでしまう。言うならば、夏休み最終日に必死で課題を片付けている、みたいな。
「もし読みたいようなら、締め切り後の完成版でよければ読ませてあげるよ。どうせコピーは部室に残しておくからね」
「ちょうど参考にさせていただきたかったんです。ありがとうございます」
こちらの意図を汲み取ってくれたのだろうか。なんにせよありがたい話だ。
「とにかく今は無理せず、着実に書くことだね。焦って変な文章になってしまうことはよくあるから」
「わかりました」
夏のコンクールギリギリまで引き延ばすのは少し気になるし、今月中に終わりそう、ではなく今月中に終わらせることを目標にしよう。
秋のコンクールと文化祭のことも考えると、夏休み前から手をつけられるような体制を整えておいた方がよさそうだ。修正は先輩方に読んでもらいながらになるから、ある程度両立させることも可能なはず。
10月まではあと5ヶ月。その間に今の小説を含めて四作品。本当に不安だが頑張って完成させるんだ。
「失礼しま~す。お疲れ様です」
コンコンと言うノックオンと同時に綴木先輩が部室にやってくる。それはノックの意味がないのではなかろうか。
「お疲れ様です」
「お疲れ。原稿は持ってきた?」
「コピーと原本、両方持ってきてます。今お渡ししても大丈夫ですか?」
「忘れないうちに預かっておくよ。どうせ一括で郵送するわけだし」
「わかりました」
そうして鞄の中から出てきたのは、大量の原稿用紙が入っていると思しい、分厚い茶封筒だった。あれ何枚分入ってるんだろう。
――ちょっと待て、あれは原本のみだよね?ということは同量のコピーがまだ鞄の中に残っているのか?
普通に考えてかなりの重量になるはずだ。学生寮がかなり近いとは言っても、その量を持ち運ぶのは相当体を酷使することになりそうだけど……。
「はい、確かに預かりました。中身に不備がないか、あとでもう一度確認しておくよ」
「コピーはどうしましょうか?」
「そうだ、佐々木さんが参考にしたいって言ってたよね。読ませてあげてもいいかい?」
「もう完成してるし、大丈夫です」
「佐々木さんは今読む?」
「分量によりますね。どのくらいですか?」
「えっと、142枚だから……」
142枚だと、改行と空白も考慮してだいたい55000字か。
僕が一般的な単行本を読むときは、1~2時間くらいかかる。今は17時前。目の鞘が外れる能力を使えば一時間どころか、30分くらいで終わってしまうか?
「そのくらいの分量なら、今日中に読み終えられると思います」
「そう、それなら――はい、どうぞ」
予想通り、鞄の中から同じような茶封筒が出てきて手渡された。紙束の重量が両手のひらにずしりとのしかかってくる。
「す、すごい重さですね……」
「おかげさまで肩が凝りそうだわ。文化祭前よりはマシだけど」
文化祭前は製本を運ぶわけだからそりゃマシなんだろうけど、それはそれで十分辛いだろうに。
日向先輩荷物運搬の時に僕らの二倍近い量を運んでいたし、もしかして文芸部にはフィジカルの優秀な人が揃っているのではないか?宮原部長も男子だし、それなりの筋力はありそう。
「どうしたの、ぼーっとして」
「――あっ、いえ。ちょっと考え事を。とりあえず読ませていただきますね」
少し落ち着こうか。うん。





