第15話 その1
ゴールデンウィークは残酷に過ぎ去っていった。
食事、トイレ、入浴、睡眠、そして学校の宿題――生活する上で必要不可欠な行動以外は、すべて執筆に費やした。机に向かい、ただひたすらに筆を走らせ続けたのだ。
しかし物語を思いつき、それを頭の中で形作るまでに時間をかけてしまった。
その結果残されていた時間は二日間のみ。あまりにも短い時間だったが、それを忘れるように執筆に没頭した。そして――
「その結果、頑張ったけれど連休中には終わらなかった、と」
「……はい」
連休明けの放課後、宮原部長にそんな現実を突きつけられている僕の姿がそこにあった。
そう、終わらなかったのだ。
構想を膨らませていくのはいいのだが、膨らませすぎたのかもしれない。かけば書くほど、書くべき描写が頭の中に浮かんでいって、気がつけば終わる気配がない。
それに今書いているものは「人生」という、かなり重たいテーマを取り扱っている。中途半端・雑に書いてしまうとそれだけで面白さが失われてしまうし、妥協するわけにはいかなかった。
一通り授業が終わり、自宅から引き続き部室で原稿用紙と一人でにらめっこをしていたところ、6限目の授業が終わった宮原部長が来られた――そんなところだ。
「本当にごめんなさい。書きたい話は思いついたんですが、いざ書き起こし始めるとなかなかまとまらなくて……」
「冗談だよ、ごめんごめん。本当はそんなに責める気は無いから」
社交辞令で返されるのがとてもつらい。
「今はどのくらいまで進んでるの?」
「原稿用紙が17枚目なので……ざっと6500字くらいでしょうか。話の流れ的には、全体の1/4も終わってませんけど」
三人分のエピソードを挟むのに対して、今はまだ一人目の途中なのだ。最後にまとめのようなエピローグを追加することを考えると、完成はまだまだ遠い。
「それだけ積極的に頑張ってくれたなら、僕から言うことはなにもないよ。むしろすごいくらいさ」
「でも、プロは1日一万字書くなんて話があるじゃないですか。もちろん僕にそんな実力がないのはわかってますけど、一週間あったならもっと書けたんじゃないかなって思うんですよ」
「1日一万字なんてのは、すでに物語を思いついた上で「これから書くぞ!」って時からカウントするものだから、僕たちアマチュアが指標にするものじゃないよ。プロにだって休日や不調はつきものだしね。佐々木さんはアイデアをまとめるのに一週間もかからなかったんだろう?難航する人はそれこそ一ヶ月かかることだってあるんだから、もっと自信を持ってもいいんだよ」
「確かに、そうかもしれませんね」
少し肩の荷が軽くなったようだ。
けれどあらかじめ締め切りは設定されていたわけで、それを守れていないのは紛れもない事実だ。やはり気を緩めるには早いように思える。
しかし同時に実力不足・経験不足がどれほど足を引っ張ってくるのか、ということも悲しいほど理解できた。
果たしてどちらに悩まされるのが、今の僕にとっては幸せなのだろうか……。





