第14話 その7
眼帯を外し、その両目を向けながら話を始める。
「僕が事故にあってこんな瞳になってしまった、っていうのは以前お話ししましたよね」
「あぁ。沖田総司の話に夢中だったけど、そちらもきちんと覚えているとも」
「事故の時、生きるか死ぬかの瀬戸際がずっと続いてたらしくて。それがひと段落してからも、しばらく意識がなかったんです。それで目を覚ました時には、なぜか自分の能力のことを理解していました」
話していると、猛烈に喉が乾いてしまう。急いで紅茶を飲み干すけど、体の熱で蒸発していくようだ。
それを見計らった琥珀さんは、何も言わずにおかわりを注いでくれた。
「そうか。そうか……」
また考えるようなそぶりを見せる。普段の饒舌で、飄々としたような態度からは想像もつかないほど、慎重な目つきをしていた。
「――能力についてはまだわかっていないことの方が多い。なぜそれが芽生えるのかについても未解明のままだ。この前言及した0.001%っていう数字も、推測じゃなく憶測なんだよ」
「そのくらいのことは覚悟してました。解明されているなら、世間に浸透していてもおかしくなさそうですし」
「恐ろしいことを考えるね」
思ったことをまっすぐ言っただけなんだけどな。そんな皮肉を言われるって、やっぱり僕が知っている以上に問題のある存在なんだろうか。
「能力の種類についても様々あるが、基本的には芽生えた瞬間には、持ち主は能力についての知識を手に入れているということだ。君みたいに、よくわからないけど気がついたら使えるようになっていた、なんてのが一般的なんだよ」
「それって問題になるんじゃないですか?僕みたいな一般人が持ってたら、普通に誰かに言いふらしかねないと思うんですけど……。でも世間的に認知されてるわけじゃありませんし」
「単純に数が少なかった、持ってることそのものがデメリットにしかならない能力があった、言っても信じてもらえなかった――いろんな要因が重なった結果だろう」
「希少性については難病レベルですもんね。納得できるような、できないような……」
自分の中の希少性の感覚が壊れていく音がした。ここ一ヶ月くらいでいろんなものに遭遇しすぎじゃないだろうか。
「しかし希少性について言及するなら、君の瞳も相当なものだろう」
「あぁ、よく担当医に言われましたよ」
虹彩異色症自体が珍しい病気なのだが、多くの場合は遺伝子疾患が原因による先天性のものらしい。僕みたいに後天的に発症するケースは非常に稀なんだとか。事故の衝撃が原因だろう、と曖昧な形でしか報告されていないあたり、断定できないほど先例が少ないことが伺える。
「珍しいからって、それで幸せなわけじゃないですけどね」
ほんと、僕に関しては損しかしていない。
「能力も同じことが言えるよ。面白い話をしてあげようか」
「是非お願いします」
「……やたら食いつきがいいね。話す側としては好都合だが」
そりゃまぁ、いろんな話を聞いてきたであろう琥珀さんが面白いと太鼓判を押すのだ。本当に面白いか、あるいは興味深い話なんだろう。
「有名な能力者の話だ。彼女に能力が芽生えてから数日後、大寒波が襲いかかってきて住んでいた村が彼女を除いて全滅した」
「……はい?」
「彼女もほとんど死にかけの状態だったが、あまりにも異常だったもんだから保護された。今はシベリアか北極か……どこかの凍土に幽閉されている」
いや、意味がわからない。
「さて、ここで問題。一体彼女にはどんな能力が芽生えたのでしょうか?」
……あーいや、そういうことか。というか話の流れからして推察は簡単だろう。
「大寒波を引き起こす能力、とかそんなところですか」
「正解だ。彼女は自分の能力で寒波を引き起こした。制御できないタイプの能力だったのが災いしたね」
自分はよく言えば普通だったんだな。瞳を晒すのが僕にとっての精神的な枷として働いているけど、僕以外の人にとってはデメリットなど皆無に等しい。疲れるとかそういうのはともかく。
「とても面白い話でした」
能力について知ることができる、貴重な話だった。





