第13話 その7
「気構えなくてもいいのよ。私はあなたを勧誘しようと思っただけなんだから。害を与えようなんてつもりはないわ」
それが本当かどうか。信用ならないとはまさしくこのことだ。僕の場合は第一印象が最悪レベルなのもあるだろうけど、こんな不審者丸出しのセリフを聞かされたら誰だって警戒する。知らない人にはついていくな、なんてのは日本の義務教育で習うレベルだぞ。
しかし返す言葉が思いつかない。こういう時の対処に慣れていないのも誰だって同じのはずだ。
「……そう、だんだんと思い出してきたわ。確かあなたは一年生のネクタイをしていたわね。眼帯が印象に残りすぎてて、すぐに記憶から掘り起こせなかったわ」
学校で見たことがある、っていうのは本当らしい。ネクタイの色で学年をくべうするのは、このあたりじゃ僕の通っている学校くらいだろう。そしてこの口調から察するに二年生か三年生の先輩ってところか。
情報が少なすぎる。判断材料がない。
「警戒するのはわかるわ。でもあなたに危害を加える機がないのは本当よ?」
「信用性のかけらもない言葉ですね」
無性に腹がたつ。そのキラキラと輝く瞳をこちらに向けないでくれ。
自分の濁った碧色と比較してしまう。そんなことをしても惨めな気持ちになるだけなのに、やめることができない。僕はとっくにそういう人間になってしまったのだ。これはそういう性なのだ。意識しようが止められるはずもない。
自分の瞳をすでに見られている、というのもその意識に拍車をかけた。
あぁ、腹が立つ。腹が立ちすぎるお陰で、吐き気がしないのは幸いだが。
「そこの喫茶店で話だけでも聞いて行ってくれないかしら。もちろん私のおごりでいいわ。夕飯も食べていいし」
夕飯はどうでもいい。家に帰ったら自分で作れる。
しかし……少し考えよう。
僕は能力についてあまりにも知らなさすぎる。琥珀さんは確かに教えてくれるようなそぶりをしていたけど、それだって僕が面白い話をし続ける限り、という話だろう。いつかコネクションが途切れると考えてもおかしくはない。
そう思うと、この人と繋がりを持ってみるのも悪い話ではないのではないか?
相手も同じ学校の人間らしいのだ。会える機会は多いだろうし、現実世界で直接会えることにもメリットは大きい。
つい先ほど、虎穴に入らずんば虎子を得ずという言葉も習ったばかりだ。貴重な情報を得るためには、少々の危険を冒す必要もある。
「……わかりました。少しだけなら」
「ありがたいわ!じゃあこっちについてきて」
けれどやっぱり腹が立ってしまうものだ。
もし僕の瞳がエメラルドグリーンだったなら、もし僕の両目が碧眼だったなら。
そんなもしもを夢想することでしか、自分を慰めるすべを持ち合わせていなかった。そんな自分にも腹が立ってたまらなかった。





