第13話 その1
「――沖田総司、か」
「はい。その人のおかげで、僕は少しだけ自信が持てるようになりました」
「なるほど、なるほどね……。面白い話だったよ」
車掌は片手で唇を隠しながらそう語る。その姿は楽しんでいるというよりは、何かを考え込んでいるかのようだった。
「やっぱり、沖田さんの事が気になりますか」
「まぁそうだね。史実では男性だと語られていた人物だ、少女がそれを騙っているというのが気になるところだね」
「僕も本当のところがどうなっているのかはわかりません。あの人が刀を抜いた瞬間すら見ていませんし」
「刀を抜くような事が起きなくて良かった。そう安堵するべきなんじゃないのかい?」
「……その通りですね」
もしそのような状況に陥ったとしたら、僕はただ邪魔になるだけだろう。巻き込まれて殺されるならまだしも、人質にでも取られたら沖田さんには迷惑になる。情け容赦なく斬られる気もするが……。
やめよう。こんなことを考えていても、虚しくなるだけだ。
「まぁ中々興味深い話だったよ。また彼女に会うことがあったら、その話も聞いていいかな?」
「どうでしょう。沖田さんの連絡先は知らないので、今後会えないかもしれません」
「……そっか、それなら仕方ないか」
もし再び顔を合わせるとしても、僕自身がもう少し成長してからの方がいい。まだ何にも進歩してない時に会ったって、沖田さんにどんな話をしていいかわからないし。
「さて、そろそろかな」
そう言いながら車掌は自らの腕時計に目を落とす。
この部屋もそうだが、列車内で僕が時間を確認する方法はない。
もし普段から腕時計を身につけいていたら、服装と同じように列車内で着替えられたのだろうか。スマートフォン一台で全部確認できるようになってしまったけど、安物でもいいから買っておこうかな。就職――まともにできるなら、って言葉が頭についてしまうけど――する時の面接なんかで必要になりそうだし。そもそも電源が切れたら使い物にならないんだから、いつでもどこでも時間を確認できる方が便利か。
「この列車は1日に乗車できる時間が決まっててね。そろそろ君のタイムリミットだ」
「それって、さっき倒れてしまった時の分も含まれてますか?」
「うん。厳密に24時間で区切ってるものでもないから、抜け穴の一つや二つありそうだけどね」
ははは、なんて彼女は笑う。
体感で……一時間くらい?気分が悪くなった沖の感覚は完全に狂ってしまっているから、10分前後は差が出ていそうだ。
「君には定期券を発行しておこう。また私の方から話を聞くこともあるだろうしね。サービスだ」
「えっと、ありがとうございます?」
図らずも語尾が上ずって、疑問形になってしまった。
「もし能力のことについて聞きたいことがあったら、いつでもここに来るといい。私に答えられる範囲でなら答えてあげるよ」
「それは本当にありがたいです。自分でもよくわかってないので……」
「自分で能力の全貌を把握している人の方が少数だよ、それは安心していい」
「そんなものなんですね」
「そう、そんなものなのさ」
「さてと、それじゃあ下車してもらおっかな」
彼女は席から立ち上がり、僕を降車口まで案内する。
「そういえば、お名前を伺ってませんでしたね」
「それをいうなら君の方も、だね。お互い自己紹介が遅れてしまったみたいだ」
「佐々木栞です。こんなナリですが、女子高生です」
「シオリ、ね。覚えたよ。私のことはそうだなぁ――」
コホン、とわざとらしい咳を挟んで名を告げる。
「私のことは琥珀と呼んでくれ。それが私の唯一の名だ」
列車の扉が開く。外は真っ暗で、『終点』と書かれた看板からホームであることだけは伺えた。
「本日は夢幻急行列車をご利用くださいまして、誠にありがとうございました。お忘れ物など無いよう、十分に注意してから列車をお降りください――なんてね」
日本の列車の車掌の真似をしてやったぜ、と言わんばかりの表情だった。
「では、また」
そう言いながら、僕はホームに降り立つ。
その瞬間に視界が暗転して、気づくと自室の布団の中に戻っていた。
まだ少し眠気が残っている。……もうひと夢見ても、バチは当たらないかな。





