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碧眼の怪物  作者: 曼珠沙華
フィクションならよくありそうな話
72/91

第13話 その1

「――沖田総司、か」

「はい。その人のおかげで、僕は少しだけ自信が持てるようになりました」

「なるほど、なるほどね……。面白い話だったよ」

 車掌は片手で唇を隠しながらそう語る。その姿は楽しんでいるというよりは、何かを考え込んでいるかのようだった。

「やっぱり、沖田さんの事が気になりますか」

「まぁそうだね。史実では男性だと語られていた人物だ、少女がそれを騙っているというのが気になるところだね」

「僕も本当のところがどうなっているのかはわかりません。あの人が刀を抜いた瞬間すら見ていませんし」

「刀を抜くような事が起きなくて良かった。そう安堵するべきなんじゃないのかい?」

「……その通りですね」

 もしそのような状況に陥ったとしたら、僕はただ邪魔になるだけだろう。巻き込まれて殺されるならまだしも、人質にでも取られたら沖田さんには迷惑になる。情け容赦なく斬られる気もするが……。

 やめよう。こんなことを考えていても、虚しくなるだけだ。

「まぁ中々興味深い話だったよ。また彼女に会うことがあったら、その話も聞いていいかな?」

「どうでしょう。沖田さんの連絡先は知らないので、今後会えないかもしれません」

「……そっか、それなら仕方ないか」

 もし再び顔を合わせるとしても、僕自身がもう少し成長してからの方がいい。まだ何にも進歩してない時に会ったって、沖田さんにどんな話をしていいかわからないし。


「さて、そろそろかな」

 そう言いながら車掌は自らの腕時計に目を落とす。

 この部屋もそうだが、列車内で僕が時間を確認する方法はない。

 もし普段から腕時計を身につけいていたら、服装と同じように列車内で着替えられたのだろうか。スマートフォン一台で全部確認できるようになってしまったけど、安物でもいいから買っておこうかな。就職――まともにできるなら、って言葉が頭についてしまうけど――する時の面接なんかで必要になりそうだし。そもそも電源が切れたら使い物にならないんだから、いつでもどこでも時間を確認できる方が便利か。

「この列車は1日に乗車できる時間が決まっててね。そろそろ君のタイムリミットだ」

「それって、さっき倒れてしまった時の分も含まれてますか?」

「うん。厳密に24時間で区切ってるものでもないから、抜け穴の一つや二つありそうだけどね」

 ははは、なんて彼女は笑う。

 体感で……一時間くらい?気分が悪くなった沖の感覚は完全に狂ってしまっているから、10分前後は差が出ていそうだ。

「君には定期券を発行しておこう。また私の方から話を聞くこともあるだろうしね。サービスだ」

「えっと、ありがとうございます?」

 図らずも語尾が上ずって、疑問形になってしまった。

「もし能力のことについて聞きたいことがあったら、いつでもここに来るといい。私に答えられる範囲でなら答えてあげるよ」

「それは本当にありがたいです。自分でもよくわかってないので……」

「自分で能力の全貌を把握している人の方が少数だよ、それは安心していい」

「そんなものなんですね」

「そう、そんなものなのさ」

「さてと、それじゃあ下車してもらおっかな」

 彼女は席から立ち上がり、僕を降車口まで案内する。

「そういえば、お名前を伺ってませんでしたね」

「それをいうなら君の方も、だね。お互い自己紹介が遅れてしまったみたいだ」

「佐々木栞です。こんなナリですが、女子高生です」

「シオリ、ね。覚えたよ。私のことはそうだなぁ――」

 コホン、とわざとらしい咳を挟んで名を告げる。

「私のことは琥珀インターリャと呼んでくれ。それが私の唯一の名だ」

 列車の扉が開く。外は真っ暗で、『終点』と書かれた看板からホームであることだけは伺えた。

「本日は夢幻急行列車ドリームアウェイ・エクスプレスをご利用くださいまして、誠にありがとうございました。お忘れ物など無いよう、十分に注意してから列車をお降りください――なんてね」

 日本の列車の車掌の真似をしてやったぜ、と言わんばかりの表情だった。

「では、また」

 そう言いながら、僕はホームに降り立つ。

 その瞬間に視界が暗転して、気づくと自室の布団の中に戻っていた。

 まだ少し眠気が残っている。……もうひと夢見ても、バチは当たらないかな。

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