第12話 その6
「じゃあ、私の両目を見ていてください」
そう言いながら眼帯を手を掛ける。ある予測をしているお陰か、沖田さんの時とは違って淀みなく外すことができた。
その瞬間、車掌としっかり目が合う。
「……あぁ、あなたも能力を持っているんですね」
すでに僕の、目を合わせる能力は発動している。現に車掌は僕から一度も目を逸らしていない。しかし彼女は驚くような素振りを一切見せない。
ずっと目を開け続けるのは無理だ。堪えきれずに瞬きをすると、その一瞬で彼女は既に僕から目を逸らしていた。まるでタイミングをしっかりと計ったかのように。
「その碧眼を見ることがトリガー、というところかな?」
「いえ、両目と両目を合わせたときです」
「じゃあ片目を潰してしまえば、君の能力は一生使い物にならなくなるわけだ」
背筋がゾクりとする。ハーブティーを僕に進めたときと同じような、それが当たり前のような口調で彼女は話す。
「――冗談だよ、驚かせたね。どうにも癖が抜けきらないみたいだ」
彼女はそう言いながら笑うけれど、僕は苦笑いを返すしかなかった。
ハーブティーを一口すすり、気持ちを落ち着かせる。
「……それで、聞きたいことがあります」
「いいよ」
「この夢幻急行列車は、あなたの能力ってことですか?」
「そうだよ。もっとも、本当の名前が別にあるけどね。その名前は私の友人が名付けたものだ」
「……やっぱり、そんな世界が存在するんですね」
夢の中の世界だなんて、そんなに都合よく片付けていい事象ではない。そもそもの話、起きた時に死せる魂が手に抱えられていたこと、そのものが異常だったんだ。
それに疑問を持つことの、何が不思議だろうか。
「能力が発芽する可能性なんて、研究者の中じゃ0.001%くらいなんて言われてるからね。知らない人間の方が圧倒的に多いさ」
世界の人口80億に対して0.001%……約800万人?
「数字の上では多いけどね、実際は当たり外れがあまりにも激しいものだから、世間に露呈することはほとんどない」
「……僕は特別なんでしょうか?」
「それでいいよ。その能力が有用かどうかは別の話になるけどね」
そりゃあ使い勝手はよくないだろう。ただ他人の目をまじまじと見つめるためだけの能力だ。応用性なんて何も思いつかない。
それに比べて、夢幻急行列車と呼ばれているこの能力は、少なくとも僕の能力よりはよほど使い勝手がいい。自分の選り好みした人物を自由に呼び寄せることができ、列車内ではこうして食事することだってできるのだ。その上列車内にあったものを、現実世界に持ち込むこともできると思われる。
つまり、夢の中だけで終わらない。……影響力がどれほど大きいのか、想像するに難くない。
「能力というのは一人につき原則一つと決められている。先天的に二つ以上持っているやつは見たことがない。そんなわけだから、君はその瞳と一生向き合わなきゃならなくなるだろう」
何かが引っかかった。
具体的にどれとはわからない、もやもやとした違和感。
「ははは、苦虫をすりつぶしたような顔になっているよ」
そんなに険しい表情をしていただろうか。
「まぁ私から今伝えられるのはこのくらいだ。片碧眼の君にはおめでとう、とでも言えばいいのかな?」
「どうなんでしょうね。まだなんにもわかってない気がします」
「続きはもう少し対価が必要になるね。私が話してばかりは暇で暇で仕方がない」
「対価?」
「そりゃあもちろん、次は君から話を聞かせてもらう番だ」
どうしてなのか、右目を抵抗なく見せられたからか?不思議と抵抗感はなかった。
「面白い話かはわかりませんが、僕の身の上話でよければ」
そうして、沖田総司を名乗る少女の話をした。私の憧れる人の話を。





