第1話 その3
「ん〜、おいしいですね!」
「そう言って貰えると嬉しいです」
元が精神安定のためとはいえ、二年間毎日やっていればそれなりに上達できるものだ。他人に振る舞うような機会は今までなかったので、感想をもらう感動はひとしお身に沁みる。
「おかわりもありますから、お腹の空いているうちはどんどんいってくださいね」
「ならおかわりで。この煮物も濃い味付けで……お酒飲みたくなってきます」
「さすがにお酒は置いてないですね……あはは」
あまつさえこんな状態だし、将来どうなるかはわからないけど。あまり溺れるような真似はしたくない、と、思う……多分。
やっぱり自信は持てないんだよなぁ。
「おっと、すみません。ちょっと」
食事の途中だが、沖田さんは袖口からスマホを取り出して外へ出た。
服装で勝手に思い込んでいたけど、あんな文明の利器も持ち歩いているんだな。まぁ現代で他人と連絡を取るときに、何かと不便なことは多いだろう。当たり前といえば当たり前か。
ふと、自分の携帯電話を見る。スマホに買い換えれば色々と便利だろうし、同級生との共通の話題ももっと作れていたのかもしれないが、やはりお金がかかるのがネックになる。
両親の遺産に余裕はあるが、こんな精神病を患った状態では自由な就職は難しいだろう。なにより勤務中に倒れたりでもしたら……。そんな想像をしようとすると、恐ろしさで身震いしてしまう。
そんな感じで基本的には節約。これが僕の生活のモットーだ。
いけない、いけない。気持ちを切り替えよう。心の安定に必要なものはポジティブな考え方だ。
心が暗くなりすぎると、また右目が痛み始める。未だ1日に3回以上経験したことはない。それ以上の回数となると――こちらは想像することすらおぞましい。
今日は既に夕方だけで2回も発症してしまっている。くれぐれも精神の安全が第一だ。
「いや〜、ごめんなさい。少し電話がかかってきたもので……」
外に出ていってから5分くらいだろうか。そこまで時間はかかっていなかったが、妙な違和感を覚えた。
なんだか……僕の勘違いかもしれないのだけれど、さっきまでと比べて沖田さんの声色が微妙に暗い。確信は持てないが、そう感じた。





