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碧眼の怪物  作者: 曼珠沙華
フィクションならよくありそうな話
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第11話 その5

「そういえば綴木さんから聞いたけど、佐々木さんはもう課題について説明されたんだっけ?」

「えぇ、そうですが。部長がいないところで聞くのはまずかったでしょうか?」

「別に。俺もしばらくは進学関連で走り回らなきゃいけないし、早いうちに綴木さんに引き継ぎしたほうがいいかもしれないな……」

 そう言いながら宮原部長は、何か考え込むような面持ちでパイプ椅子に腰掛けた。


 大学進学は僕にとっても無関係ではない。もちろん入学できる精神状況なら、という文言がなければいけないだろうけど。

 しばらくは入試のための勉強、勉強に明け暮れることになるだろうが、二年生後期から三年生にかけては、大学の特色や自らの将来についても考えていかなければ。いずれ部長にノウハウをお聞きすることがあるかもしれない。


 ……しかし遅いな。宮原部長が一仕事終えたから部室に来たというのなら、綴木先輩はもっと早くここにいるはずだ。倉橋先輩もバレーの関係でなかなか休めないのか、まだその姿を現していない。

 まぁ来ない間は僕にできることはないからな。勝手におしゃべりでもしていよう。

「そうそう、課題の調子はどう?」

 そんなことを考えていたら、ちょうどよく部長から質問が飛んできた。

「あまり良くないですね。どんな感じに書いたらいいのか、まるでわからなくて……」

「題材探しで困ってるのかな?」

「はい、そんな感じです」

「そっか。俺のおすすめは、題材を無理に探さないことかな。直感的に思ったことっていうか、感じたことを適当にメモしておくんだ。その中から選んで、ちょっと想像を膨らませてみる。まだ明日から5連休がまるまる残ってるし、ゆっくり考えてみたらいいんじゃないかな」

「参考にしてみます。ありがとうございます」

 感謝の気持ちを述べるのは当然だが、説明を聞いても、僕の中ではまだやり方が曖昧に捉えられている。結局直感的すぎるというか、方法そのものが具体的ではないので、もっと確実な方法が欲しいとすら感じてしまった。

 いや、さすがに欲張りすぎか。凡人にはむしろちょうどいいくらいの方法なのかもしれない。世の文豪たちと違って、素晴らしい題材を見つけられるかどうかなんてわからないのだし、どんどん手がかりになるものを探していかなければならない。文句言ってる場合じゃないな。


「昨日は休んでたでしょ?連休前に一度進捗を確認しておきたかったんだ。会えてよかったよ」

「こちらこそ、アドバイスありがとうございます。完成するかわかりませんが、自分なりに頑張ってみますね」

「一応の締め切りは用意してあるけど、初めてなんだしすぎても構わないから。とにかく一度完成させてみようね」

「はい!」

 宮原部長がここまで言ってくださるのだ、締め切りは守ろう。そしてしっかりと書き上げよう。


 ……だが遅いな。もう6時になろうかという時間なのに、綴木先輩も倉橋先輩も、一向に部室に姿を見せる気配がない。

 そろそろ暗くなる。早めに変えあらないといけないのだが、僕がいない中先輩はうまく自己PRができるだろうか?それが心配だ。

 あの人の強さの源は自身にある。だから僕に接触する、なんて大胆な行動に出ることができたし、しばらくすれば綴木先輩に直接告白する勇気も生まれるだろう。

 しかしそれは要するに、自身のないことについてはとことん弱気になってしまうことの裏返しでもある。昨日の時点で察していたが、先輩は自分自身のことをさらけ出すのが極端に苦手だ。同性愛者というのもコンプレックスとして働いているのだろう。あるいは僕にも話していない、別の要因もあるのかもしれない。


「佐々木さん、時間は大丈夫そう?」

「え?えっと……」

 しきりに腕時計を見る僕を見て、部長は配慮するべきだと感じてしまったのだろう。

「連休前だし、無理に部室に長居しなくても大丈夫だから。帰りたくなったら帰るんだよ」

「……ありがとうございます。部長は、どうされるんです?」

「ちょっと色々と考えることがあってさ、それまでは部室を借りようかなって。鍵締めとかはやっておくから」

 仕方ない、帰ろう。明日から連休とうことは、綴木先輩も寮から実家へ帰省する準備をしていたのかもしれない。倉橋先輩もバレー部の練習から抜け出せないのかもしれない。どちらも「かもしれない」だけど、未だここに来ていない時点でその可能性は高いだろう。

 これ以上無理をしても、先輩方が姿を現す方が可能性は低いかもしれない。小説執筆のこともある。ここで無理をする理由は何もない。

「では、お言葉に甘えて。失礼しますね」

 リュックサックを担ぎながらそう弁解する。

「うん。課題の方、期待して待ってるよ」

「せっかくだし私達も書きませんか?新入部員ばっかりに押し付けるのもよくないでしょ」

「そうだね、少し考えてみようか。ははは」

 そう談笑する二人を置いて、私は部屋を後にした。

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