第1話 その2
その場から立ち上がろうとするけど、上手く足に力を入れられない。無理に力を入れて足に体重をかけるが、すぐにふらついてしまった。
今回の痛みはいつもより強かったし、収まるまでかなり時間がかかった。そのあたりが影響して、一時的に感覚がマヒしているのだろう。強弱さえ除けば珍しいことじゃない。
「すみません、肩を貸してもらえませんか。……沖田さん」
そう呼ぶのに少しためらいを覚えた。だがこの際、本人かどうかはもはやどうでもいい。
彼女が僕の窮地を救ってくれたこと、その事実に変わりはないのだから。
「大丈夫ですよ。なんならお家まで送り届けて差し上げましょう。ここからどのくらいですか?」
本当に、感謝しかない。厚かましく追加でお願いまでしたのに、こんなに優しく手を貸してくれるなんて。厚意をもらったこと自体久々だし、別の涙が出てきそうになる。
「この路地を10分くらい歩いて、そしたらすぐにアパートにつきます。道は覚えているので、そこまで大丈夫ですか?」
「もちろん。この沖田さんにお任せあれ、ですよ!」
「……では、よろしくお願いします」
そろそろ力を入れる感覚を思い出し始めた、そんな頃に僕の住居に到着した。
「あぁ、ここです。ここの二階」
いつ見ても、ぼろぼろのアパートだ。電気やガスはきちんと通っているし、ぼろぼろなおかげで家賃が安いので文句はそんなにないけれど。
「もうそろそろ大丈夫です。ここまで付き合っていただいて、ありがとうございました」
「いえいえ、困っている人がいたら助けるのが、私の信条のようなものですから。見返りとかは必要ありませんので――」
ぐうぅ~。そんな可愛いらしいお腹の音が、沖田さんから響いてくる。かっこをつけたかったのはなんとなくわかるんだけど、このタイミングで鳴るのは残酷なものだ。
「わあ~っ!気にしないでください、ほんとに、ほんとに!」
さすがに沖田さんも顔を赤らめていた。そりゃ誰だって恥ずかしくなるよ。仕方ないことだ。
「よかったら、ご飯くらいは食べていきませんか?僕のほうからお礼もしたいですし、お願いします」
「そ、そうですか?ならお言葉に甘えて……」
「甘えないでくださいよ。僕は助けられたんですから、このくらいしないと気が収まりませんので」
痛みでのたうち回っていたので、帰宅時間はいつもより少し遅くなってしまっていた。結果としては夕飯時のちょうどいい時間になったので、沖田さんへのお礼のことを考えれば気にしない、気にしない。
……だがしかし、嫌なマッチポンプだ。今度からはすぐに薬を取り出せるようにしよう。
「何か食べたいものとかありますか?できる限りリクエストにはお答えしますよ」
我が家の冷蔵庫には様々な食材を貯蔵してある。料理くらいはまともにできるようにしたいのと、なるべくいろんな栄養素を取りたいのがその理由だ。
あとは精神的に落ち込んでいるときに、食事の味を変えたいというのもある。大したことじゃないように思われるが、こんなことでも案外効果はあったりするのだ。
「火の通った、温かい食事ならなんでもいいですよ」
「もう春で暖かいですけど、それでいいんですか?」
「夜風はまだまだ冷たいんですよ。それに私はそういう料理が好きなので、それでお願いします」
「そういうことなら。腕によりをかけてお作りします」





